Chapter23-8
「んじゃあ、爺さんが元国王さまにそう言ったのか?」
「うむ。何事も、人を知るには言葉を交わさねば分からん。どんなに良い顔をしていても、言葉は呪文と等しく人を形成するものだ。人となりが浮かぶ」
「まぁ確かに……意外と喋ればいい奴だって事は多々ある」
学生時代の前国王に、"杖使いの才女と友達になりたいんだが、この前可愛い女の子に声を掛けたらビンタされた。だから杖使いの才女にもビンタされたくないから、どうやって声を掛ければいいと思う"と相談があったらしく、"とりあえず乳と尻のサイズを聞かなければいい"と返したらしい。
そこから度々前国王から杖使いの才女の話を聞いていた様だが、どうやら無事友達になり、今でも交友は続いているようだ。
"才女と言えど不得意な事もあった"、その事実を前国王は理解し、そして互いに同じ空間で勉学をする学生たちも理解し、少しずつ孤立の壁は打ち砕かれていったらしい。
「才女は初めて出来た友人を切っ掛けに、"人に教えるという才能"を開花させた。そして教師は、授業内容の補足を才女に頼むことにしたんじゃ。そうすることで生徒達も、教師も"勉強"していったんじゃよ」
「……その教師、プライドとかなかったのか?」
「痛いところをつくのうエルミス。じゃが、プライドだけで飯は食えんし、なにより生徒達の士気が上がっていっておったそうじゃ。どうすれば教えやすいか、そういった勉強もまた教師がせねばならん」
教師もまた、学校で勉学をする。十人十色の生徒達全てが学校生活を満足に過ごせるように、そして一人一人の才能を見出す為の勉学の場だという事を、学校長は教師にも学ばせたかった。その一心で、色々な子供たちをスカウトという名の声掛けを行っていた。
エルミスは、学校長がどこまでも人を育てる偉大な人物である事を改めて実感したのだった。
定時となり、魔力量の多い祖父が帰宅していく背中を見てから約四時間。夜食という名のテイクアウトを工房で食べながら、ナノス図書館から借りてきた資料にじっくりと目を通しているエルミスの耳へ、特有のノック音が聞こえてきた。
資料から視線を外して、すでに暗い夜の中央通りが見える特殊硝子に視線を向ければ、軽く手を振っているリーコスの姿が見えた。エルミスは資料を作業机の上に置いて工房のドアを開けると、夜の肌寒い風と共にリーコスが工房の中へと脚を進める。
「やぁ、エルミス。今日は徹夜かな」
「どうしようか悩んでたとこ」
「……?いつもこの時間帯まで居ると、徹夜確定かと思っていたが」
「母さんがびっくり風邪なんだ、暫くここで寝泊まりなんだよ」
慣れた手つきで空いている作業椅子を引っ張り出してきたリーコスは、座る前にエルミスへと魔法剣を剣帯付きのまま渡して座る。長い脚を組みながら、工房の壁に掛けられていた時計をちらりと眺めて徹夜を予測していると、魔法剣にスキャニング魔法を掛けているエルミスは、母親がびっくり風邪であるという事と、暫く家に帰れない事を伝えつつ、鞘から抜いて魔法剣を魔法炉へ放り投げた。
「もうそんな時期か……エルミスの母上は、俺が学生時代の時は毎年掛かってたな」
「予防接種しても掛かってるからな。それを毎年オレも貰ったり、貰わなかったり、……欠けた分と、潰れたマナの路、あとは金属疲労起こしてるところは付け足しとく。ちょっと時間食うが……明日取りに来るか?」
「いや、今日はもう疲れた。家に帰るのも面倒だからここに泊まる」
そう言ってギルド制服の上着を脱ぎはじめたリーコスから視線を外して魔法炉に素材を入れていくエルミスは、ふとリーコスの"学生時代"という言葉を聞いて、昼間祖父と話していた事を思い出す。
「なぁリーコス、」
「ん?」
「魔法学校の生活、楽しかったか?」
幼馴染でありながら、あまり学校生活の話を聞いたことがないエルミスにとって、魔法学校での生活をしているリーコスのイメージは殆ど乏しい。唯一思い浮かぶのは、あまり女性の友人は作っていないだろなということぐらいだ。
エルミスの質問に対し、リーコスは"唐突だな"と小さく言葉として残すも、笑顔を見せながら大きく縦に頷く。
「王族だからって、他の生徒に距離置かれたりとかは?」
「無かった。そうさせない様に、入学してすぐにロドニーティス先生が"ある事"を行ったからね」
「ある事……?」
「筆記テストだ」
魔法炉の中で細かく分解されていく魔法剣の一部分を鋏で取り出し、鎚を打ちながら材料を馴染ませていくエルミスは、筆記テストという言葉がどう距離を置かせない様にする方法なのかイマイチ結びつかなかった。馴染ませた魔法剣の一部を再び魔法炉に入れて特殊パネルを操作するエルミスは、スキャニング魔法を使いつつリーコスの話に耳を傾けようと言葉を重ねる。
「筆記テストぉ?入学試験の復習とかか?」
「いいや、ロドニーティス先生特製の、"魔法学校で四年間しっかり勉強していれば解けるテスト"というやつでね……」
「…………それ、解けねぇ問題もあるんじゃねぇのか?」
「実際にあった。しかも途中に、"ロドニーティス先生の好きな食べ物は?"やら、"学校長が最も得意とする魔法系統は?"やら……勉学以外の問題も入っていてね」
"全員満点の者は誰一人として居なかったよ"―――と、リーコスはどこか懐かしむ様な表情を浮かべて語る。一方のエルミスは、四年前初めてクラスを受け持つことになったと言っていた母親が、せっせと何かを作っていた事を思い出す。参考書や教科書を開けていたので、授業の資料でも作っているのかと思っていたのだが……、もしかしたら"魔法学校で四年間しっかり勉強していれば解けるテスト"を作っていたのかもしれない。
「最高得点は四十二点、平均三十点。入学試験で満点を取った者が"四年生の学問を全て予習してきた”と語っていたが、点数が取れなかった」
リーコスの言葉に「才女」の話がエルミスの脳内を過る。もう学校で習う事を全て知ってしまっている者の対策を、母親はテストという学力勝負でぶつけてきたのだ。喧嘩っ早い母親の知的なやり方に、思わず魔法炉の特殊パネルを弄る手が止まる。
「ちなみにリーコスは何点だったんだよ」
「四十二点だ。スペルミスさえなければ最高得点を更新していた」
「……予習してきた奴と同じ点数かよ。そんで、なんでそんなテストしたのか、母さんは理由を言ったのか?」
スペルミスさえしなければ、という言葉に対し、エルミスは"オレの母親に関しての質問は正解だったな"と容易に想像できた。昔から家族ぐるみで交流がある為、好き嫌いや趣味に関しては、幼馴染のリーコスであれば知っている。
魔法炉でバラバラに分解されていた魔法剣を組み立て直し、魔法炉から取り出してマナの路を作るために槌を振るうエルミスは、母親が結局どういった理由でテストを作ったのかが気になった。才女を作り出さない為なのか、はたまた嫌がらせか……母親に限って嫌がらせをするような性格ではないとは思っているが、あまり仕事の事を話さない母親の真意が知りたかった。
猫の鳴き声ってみんなちがうんか……?こんばんは!!!
あれ?今日R-1?まじか、、、M-1は毎年欠かさず見てるんですけど、R-1はそない見た事ないんですよね。
……ホトちゃん仕事量おおなったなぁ。