Chapter23-6
「エルミスや。学校とはどんな所じゃの」
「……そりゃあ、遊んで、勉強するとこだろ」
「"生徒"にとっては、そうじゃな。じゃあ"教師"にとってはどんな所じゃの?」
「え……生徒に勉強を教える、ところ…じゃあねぇの?」
祖父の問題にエルミスは半ば疑問で返す。教師としての立場でものを考えた事が無かったエルミスにとって、教師という存在がどういう者なのか、改めて考える。だが出てきた答えは、自分たちに勉学を教えてもらった教師との時間のみ。母親も魔法学校の教師でありながら、家ではプリント等を作るのみで、殆ど家で仕事の話などしないのだ。
疑問符を浮かべているエルミスに祖父はエルミスのピザに手を伸ばして一枚取ると、もそもそと口に入れながら味わう。
「確かに勉強を教えるのが教師じゃ。じゃがの、生徒は決して"全て同じ"じゃあないんじゃ」
「……と、いうと?」
「能力が違うということじゃ。勉強が出来るものも居れば、まったく出来ないものもおる」
ふむ、それは確かに。とエルミスはふすりと鼻を鳴らして祖父が食べやすいようにとピザを分けていきながら、やはりそれでも何かが引っ掛かると考える。その引っ掛かり――なら、なぜ能力の高い者を招くのか、という最初の疑問だ。
「じゃあ、なんで優秀な奴をスカウトするんだ?教える事なんてなさそうじゃねぇか」
「それじゃよエルミス」
「え?」
「教える事がない生徒を受け持った時、教師はどうするか、じゃ」
その言葉に、エルミスは疑問でいっぱいだった脳内が一瞬で静かになった。そして同時に"優秀な生徒"と"教師"の図が広がる。
学校は共同生活を学び、そして社会性を身に着けていく第一歩の世界。その中で必須となるのが"勉強する"という行為だ。知らないことを覚え、知識を身に着ける。だが"その必要のない生徒"が入学してきた時、教師は"勉強する必要のある生徒"に合わせて勉強を教えるだろう。
その時、既に知識として頭に入っている事を半日以上掛けて聞く生徒にとって、その時間は悪く言えば"無駄な時間"になる。
「……それなら尚更入るのを辞めればいいじゃねぇか。それじゃあ駄目なのか?」
「辞めれるのであれば辞めれば良いが、"卒業する"という目標を持って入学している優秀な生徒はどうする?」
「うっ……」
スカウトされて、既に身に着けた知識をもう一度習うのであれば断ればいい、そう思っていたエルミスに"卒業する"という目標を持った場合を問われて言葉を詰まらせる。
魔法学校は"箔が付く"。どの学校よりも魔法技術を身に着けることが出来、そして実力主義の学校だ。知識も幅広く身に付くことが出来、他の大陸から来る多くの生徒達と交流が出来、社交性が見に付く。卒業することが何よりも難しい魔法学校に"卒業する"事によって、"あの"魔法学校を卒業した、という箔が付くのだ。
無駄な時間を過ごす代わりに、必ず卒業する天才が居ない訳がない。その天才を退屈させない為の手段―――エルミスは頭を捻っても出てこないのか、サラダをつつくフォークが止まる。
「……わかんねぇ。優秀な奴は適当に過ごすんじゃねぇの?」
「それじゃあ教師失格なんじゃよ、生徒を持て余してしもうとる。どの生徒も"今日一日とても充実していた"と思わせるのが、教師としての腕の見せ所。学校長はそれを教員達に身に着けてほしいと思うておる」
祖父の話にエルミスはなるほど、と一つ頷く。退屈させない様にするための技術を、教師側もまた身に付けなければならない。勉強の教え甲斐がある生徒よりも案外骨が折れるかもしれないなと、エルミスはそう考えてピザを一枚取って口に運ぶ。少し冷めたピザは、噛めば噛むほど香ばしい小麦生地の味が口に広がっていった。
「でもよ……、学校長である立場の人間だったらまだ分かるが、なんで教師だった頃から学校長はそういう生徒になりそうな奴をスカウトしてたんだ……?」
「それはの、学校長が"優秀過ぎる生徒"の一人だったからじゃ」
「……自分で体験したから、か」
エルミスの質問はあっさりと祖父によって解消されると同時に、学校長が昔から凄い人物であったかを悟る。
「そうじゃ。学校長は学生の頃、"杖使いの才女"と呼ばれておった。学生ではとても満足に扱う事の難しい"杖"という道具で、入学試験をトップで合格し、教師とほぼ同等の知識も得ておったらしい」
「おったらしい…って、じいさんは入学してねーのか」
「鍛冶学が無かったからの」
親の親も同じ理由だった。エルミスは"ロドニーティス家って全員そういう理由で入学しなさそうだよな"と考えつつ、話の続きを聞く為に姿勢を少しだけ変えて楽な体勢を取る。祖父は肩を揺らして笑いながら茶を啜りつつ、大通りを歩く顔見知りの挨拶に手を振って応えた。
「魔法学校に入っても、殆どやる事もない才女の登場に当時の学校長から教師まで、全員才女の扱いに困っておった。それもそうじゃ、"授業を真面目に聞いておった"からの」
「……??別にそれはいいんじゃあねぇのか?変な態度でもねぇし……」
「教師と同等の知識を持っとるモンを、"半日縛る"のと変わらんのじゃよ。例えばじゃがエルミス、お主は鍛冶学のある学校に入学して、既に知っておる知識を再び聞いた時、どう思う?」
祖父のその質問に、エルミスは特に考える事なく"無駄"だと答えた。それもそうだ、既に身に染みていて、尚且つ頭に叩き込まれた事をもう一度聞く為に学校へと通っているわけではない。更なる技術を磨く為に学校に通うのだ―――、その"無駄"という答えを出したエルミスは、はっ!と表情を変える。
「そうか……たとえ真面目に聞いてても、教師にとっちゃあ才女に無駄な時間を与えているのと変わりねぇのか……」
「そういう事じゃ、だからこそ頭を抱えた。いっそのこと好きなように過ごしてもらいたかったようじゃが……やはり才女はどこまでも真面目だった様じゃの」
エルミスも今一度教師の立場として考えた。もし、自分とほぼ同等の技術や知識を持ち得た弟子などが出来たら……きっと、すぐに"もう教えることはない"と師弟関係を終わらせてしまうだろう。独り立ちするには資金等色々掛かるが、それでも"人手が足りない"店には戦力になる。
つまるところ、才女と呼ばれた学校長は、もう"生徒"の域を超えてしまっている生徒だったのだ。
やったー!感想いただいたぞーー!!こんばんは!!
日常増やしてほしい、確かに、わいも増やした方がええんちゃうかと思てました。こういったXXが見たいというリクエスト的なあれがあると、小説に落とし込みやすくてよきですね。なにか日常パートで見たいものが有ればお気軽に気になるところ欄に書いてください。リクエスト欄って勝手に因果を捻じ曲げて変えておくんで(なおまじすかは機械音痴)
今日勝手に水曜日だって思ってて、日付見たら木曜でめちゃくちゃビビりました。おやすみ調整で明日お休みにします~~!!