Chapter22-4
「ふいー、ごちそうさまでした。食べ終わりましたー!」
「はーい、すごいねぇ坊や。チャレンジ成功だよ」
一軒目の二段ダミエケーキ、二軒目のパンケーキの山、三軒目の巨大プリンアラモードを食べ終えたエルミスは満足気に腹を撫でると、店員を呼ぶために手を上げる。奥から出てきた人当たりのよさそうな老婆が笑顔で確認しにやってくると、綺麗に平らげたエルミスに感心しながらチャレンジ成功報酬のミニパフェを置いて再び奥へと戻っていった。
「エルミス、食べたやつ何処にいってんだ?」
「腹だけど?」
「…………」
全てのチャレンジメニューを見終えたレヴァンは、見ているだけで腹が膨れると言わんばかりに顔を引き攣らせる。一方の姉セリーニは最初にナノスへ来てチャレンジメニューを食べたエルミスで慣れたのか、ぽんぽんと無くなっていく光景に爽快感を得ていた。優雅に紅茶を飲むリーコスは変わらず資料本に目を通している。
〈―――ここで番組を一時中断して、ナノス共通チャンネルに切り替えてニュースをお伝えします〉
店内に流れていたバラエティーラジオ。ラジオパーソナリティーが一言そう告げると、別の声がラジオから流れてきた。賑わっていた店内も食事を食べる音のみとなり、皆音に集中している。
〈昨日起こった防魔法崩壊事件の犯人であるネイド氏の供述で、惹起の誘花の違法栽培の主犯である事が分かりました。そして過去にナノス管轄の島だった実験島、既に無人となっている五つの村の住民を全て、薬物中毒によって死に至らしめたという事です〉
店内が騒めき出す。エルミスは後半聞き覚えの無い内容だった為、"随分と物騒なことまでやっていたんだな"という感想しか出てこなかったが、ナノス出身のセリーニとレヴァン、そしてアステラス国の第一王子として常に全土の事件や情報を聞いているであろうリーコスが真剣な表情で聞き入れていた。
〈ネイド氏は依然として殺人の為の行動ではないと否認していますが、大勢の人間を手に掛けたという事で、"然るべき処遇を受けてもらう"と、ナノス代表からのコメントです。崩壊された防魔法文字は修復後も正常に稼働していますが、今一度ナノス代表によるメンテナンスが実施されます〉
以上です、という言葉と同時にバラエティー番組へと戻るが、先ほど和気藹々としていた会話とは一転、事件の話になったようだ。静かだった店内も再び会話の音が広がっている。
エルミスはミニパフェをつつきながら、メモを取っているセリーニへと視線を向けると、その視線に気付いたセリーニが顔を上げた。
「島とか村とか言ってたが、なんかあったのか?」
「はい、十九年…もうすぐ二十年になるでしょうか、ナノスが管轄していた離島があったんです。その離島には研究所もありまして、研究員や離島へと移住したナノス住民が生活していたんですが、……ある日、離島全ての住民が謎の死を遂げていた事件があったんです」
「当時はパンデミックか、研究所のバイオハザードかって言われてたんだぜ」
セリーニの説明にレヴァンが補足する。そんな昔に、とエルミスは少し驚いたが、まだ生まれても居ないセリーニやレヴァンが知っているという事は、余程衝撃的な事件として語り継がれていたのだろう。
資料本から顔を上げたリーコスも、少し驚きの表情を浮かべているエルミスへと視線を向けた後、紅茶の水面を見つめながら言葉を紡ぐ。
「村の住民が全滅していた、というのは確か五年ほど前に王宮会議に話が出ていた。その時にはもう複数の村を全滅させた後だったんだろう。……ナノスが全滅していたら、次は他の街へと向かって同じことを繰り返していたはずだ」
"ここで食い止めておいて良かった"、とリーコスが口にすれば、セリーニが大きく頷いた。エルミスも小さく頷きながらミニパフェを平らげると、手を合わせてご馳走様と言ってティーカップに残っていたホットティーを流し込む。
「ふー、後は母さんと爺さんの土産を買いに行きたい。バウムクーヘンの店行こうぜ」
「俺もそこで家族の土産を買おう」
そう言って席を立ちあがったリーコスは流れる様に伝票を持っていく。相変わらず伝票を取るスピードが速いと、セリーニが伝票を取りかけた手を下ろして立ち上がり、三人共に店から出ると空を駆け巡る防魔法の光が見えた。
ナノスの街を走る光の輪が防魔法文字に到達すれば、防魔法文字は一層光り輝き魔法文字の強度と安定を得る。駆け巡った光は粒子となってナノス全土に降り注ぎ、セリーニとリーコス、そしてエルミスの身体に当たる。支払いを終えたリーコスもその粒子に触れると、四人の身体が微かに光を帯びる。
「口外禁止魔法か」
「当たり。オレが直したって言わねぇ様にってお願いしたんだ」
「そうか」
魔力粒子から感じ取った口外禁止魔法に、何も聞いていなかったリーコスに説明をするエルミス。その言葉を聞いたセリーニが慌てて空からエルミスの方へと視線を移した。
「そんな……エルミスはナノスを救ったと言っても過言ではありません。皆に知ってもらうべきです」
「いいんだセリーニ。オレ一人じゃあなんも出来なかった。セリーニが居てくれた事で出来た、オレと関わったやつだけが覚えてくれりゃあ充分だぜ」
「……、……分かりました、覚えています、ずっと」
エルミスの説明に納得がいかないという表情を浮かべていたセリーニだったが、大きく頷いてエルミスの考えを尊重した。
エルミスの考えを全て知っているレヴァンは、"男って肝心な時に言葉が足りないのよね"と、良く女友達が言ってたなと考えつつ、それでも自分と同じ答えを言った姉はやはりどこまでも姉なのだろう、と弟レヴァンは考えつつナノスの街を四人で歩きだした。
バレンタイン、自分のものを、買っても良い。こんばんは!!
ナノス編は明日で最後です。明後日からお休みをいただきます!!ごちそうさまです!!大体二週間を予定しているので、29日ぐらいかな?一応明日タイトルに次回更新の分も書いておくので、それで把握していただければ幸いです。