Chapter22-2
「はいよ。スペシャルモーニングだ」
「いただきます!」
セリーニの前に出されたのは、ふつふつとホワイトソースが躍るグラタンだった。湯気に乗る焼けたチーズの香りが四人の鼻を擽る。通常のモーニングを頼んだエルミスは、思わずそのボリュームに驚きながらも、身体を常動かしているセリーニならそれぐらい食べるか、と納得して焼き卵サンドを頬張り始めた。
セリーニがフォークを持ち、ホワイトソースと共に掬い上げたのは、カリカリに焼けたパンとトマトスパゲティだ。意外な中身にエルミスは思わず凝視していると、口に入れて頬張っていたセリーニはその視線に気付いた。
「一口どうですか?」
「お、いいのか?」
「はい!」
そう言ってフォークに掬ったセリーニは、息を吹きかけて少し冷ましたモーニングをエルミスの口元へと持っていくと、大口を開けたエルミスはぱくりと頬張った。口の中に広がるホワイトソースとチーズの香りに、トマトスパゲティの酸味とパンの香ばしさと食感が良い。スペシャルな朝に食べるにはすごくいいな、と考えつつ咀嚼していると、隣に居たレヴァンがエルミスの服の裾を軽く引っ張った。
なんだよ、という視線を向けたエルミスに、レヴァンが耳打ちをする。
「(ねーちゃんって、今まであーんとかしたことねぇんだぞ)」
「(……お前が知らねぇだけで、友達とかにはぜってーしてるってーの)」
こそこそ話す二人とは対照的に、"親子"であるセリーニとリーコスは中央に帰ってからの予定をどうするか、通信機を見ながら相談をしていた。
「そういえば……二週間後はイエラ第一王女の生誕祭ですね、リーコス隊員は公的休暇でしょうか」
「あぁ、その時は――…………ううむ、出来ればクエストを入れたい」
「……?第一王子として、毎年ご参加しているのはラジオで聞いていましたし、去年も第一王女のスピーチには、リーコス隊員も居た事は知っています」
リーコスにとって妹の誕生日、しかし国民にとっては次期女王の生誕祭。盛大な祭りとなる為、毎回ギルドも王都アステラス全域の警備をする事になっている。
セリーニも中央ギルドのある王都へと移動になった時、一番最初に行ったクエストが全域警備だった。時期女王のスピーチには、毎年王族全員がバルコニーに集まって時期女王の後ろに佇んでおり、セリーニは城外周を警備しながらその様子を見ていたのを覚えている。
「生誕祭当日は参加しているんだが、その…前夜祭がだな……」
「……?……??」
「憂鬱だ……」
アイスティーを飲んだ後のため息が重いリーコスに、随分と訳アリなのだとセリーニは考えると、その"前夜祭"とやらに余程出たくない事を察した。
カチカチと通信機が小さく光る。総隊長からセリーニとリーコス親子に向けた物なのか、親子括りの名前で送信された文字に目を通す。
"エルミス坊どこにいるか知ってるか"――と書いてあった。セリーニが代表で"今共に食事をしています"と送ると、"分かった、もう少しそこに居てくれ"と返ってきた。
数分後、食事を平らげた四人の元に暖かな紅茶が用意される。香りがよく、そして豊かな味わいを楽しめる特製のホットティーを飲む四人の元に、一人のギルド隊員が店内に入ってきた。
「エルミスさん、ナノス代表からの預かりものです」
「おぉ…!!ありがとうございます。何時返したらいいとかありますか?」
「いいえ、最後の貸し出し日が五年前だったようでして……借りる者が滅多に居ないという事で、"返却は何時でも良いと伝えてくれ"との事でした」
「分かりました。ナノス代表に有難うございますって伝えてください」
ナノス支部のギルド隊員がエルミスへと渡したのは、分厚い一冊の本だ。エルミスは笑顔で受け取って返す期限を聞けば、特に急ぎの本でもないらしく返却はいつでも良いという言葉が返ってきた。それを聞いたエルミスは、改めてナノス代表に礼をと頼んで笑顔でギルド隊員を見送る。
抱えていた大きな本を捲ったエルミスは、改めてぱらぱらと中身を確認していくと、リーコスがその様子を見て首を傾げた。
「本?」
「おう、報酬の一つ。なぁリーコス!これ何か分かるか?」
本を気になっているリーコス。セリーニもカップに口を付けながらエルミスの方へ、レヴァンも本を覗いている。
エルミスは後半のページを捲って、ぐにゃぐにゃの図を開くと、それを見たレヴァンが"なんだこれ…?"という表情を浮かべた。開いたページをリーコスに見える様にエルミスが向けると、
「時計塔の特殊転送魔法陣設置場所の図案かな?」
「複数個所悩んでいたのが分かります、二階と三階、隠し扉という手もあったんですねぇ……」
「「え?」」
リーコスとセリーニの言葉に対し、エルミスとレヴァンの声が合わさった。
カルボナーラは生クリーム入れません。こんばんは!!
いつもマ・マーのパスタ麺を使ってるんですけど、ちょっと冒険して業スーのパスタ麺買ってきました。味変わるんやろか…。