Chapter21-9
「とある病気の資料全てを提供してもらうこと、だ」
「……また薬でも作るのか?」
そう説明したレヴァンは人差し指を上げていた手を膝に置くと、エルミスの質問に対して肯定とばかりに頷いた。
「――――ねーちゃんの友達、ネリアって言うんだ、ネリアさん」
「……」
「ネリアさんと同じ病状の奴は少ないけど一定数いる。不治の病って言われ続けててな、病状の進行を遅らせる薬は開発されたが、それでも完治の薬は無いんだ」
バーベキュー用のコンロで燃ゆる火に視線を移したレヴァンに、エルミスも同じように火へと視線を向ける。研究員たちが囲ってマシュマロを焼き、チョコレートと共にクラッカーを挟んで食べている光景に、思わず"大人って時たま子供になるよな"とぼんやり考えつつレヴァンの話の続きを聞く。
「んでよ、」
「ん、」
「おれの初恋の相手ってネリアさんなんだよ」
「ふーん、んんん!?」
急な話の切り替えにエルミスの相槌の語尾が上がる。ちらりとレヴァンに視線を向けると、照れている表情を浮かべながら笑っている。
「……つまり、初恋の相手を苦しめた病の資料を強請ったってか?」
「おう」
「……もう居ないのに、か?」
もう居ないのに続けるのか。この意味をエルミスが言葉として吐き出す事は数秒迷った。だがここまで話したレヴァンに聞かなければ意味がない。"もう居ない人間"の為に、"初恋の相手"と言えど尽くす意味が分からないからだ。
怒ると思っていたエルミスの質問に対し、レヴァンは特に嫌悪する訳でも、怒るわけでもなくコクンと頷いた。
「おれ、ネリアさんと出会うまでは勉強なんて面倒でやらなくてよ。総合義務卒業したら、専門学校じゃなくてギルドにでも入るかーって思ってた程勉強に手を付けてなかったんだ」
「安易な考えだなぁ」
「でもよ、ネリアさんと出会って、勉強教えてもらって、遊んでもらって。"あぁ、こんなに頭が良くて完璧な人なのに、なんで神様は理不尽に不治の病なんて与えたんだ"って思ったんだよ」
必ず水曜日は学校を休み、姉がプリントを届ける時間も無理やり作って付いていった事がある。水曜日の日だけは安静にし、時折痛みに眉を顰めるところを見せながらも、笑顔を絶やす事が無かった初恋の相手。
「おれ頭ポンコツだったからさ、ネリアさんの事が好きって気持ちに気付いたのが、亡くなってから一週間後ぐらい。どうせならいっぱい勉強して、ネリアさんが自分の身体を治す為にずっと頑張って勉強してきた事、引き継げねーかなって思ったんだ」
「……」
"私の分まで、セリーニと一緒に居てあげてほしい。"
レヴァンの言葉を聞いて真っ先にエルミスが思った事は、あの夢の中で出会ったセリーニの友人は、自分の病を治そうとしてまでセリーニと共に居たかったという思いが、言葉として現れていた事を痛感する。
「資料くださいって言った割に、まだおれに出来るのかなぁとか考えてたんだけどよ、今日おれが帰ってきたとき、ねーちゃんが持ってきたネリアさんの手紙にさ、"レヴァンくんはやれば出来る子だから、勉強をいっぱい頑張って、立派な研究員になってほしいです"って書いてあったんだよ。俄然やる気出た。ぜってー見つけてやるって決めたんだ」
「……今回の薬物事件もレヴァンが優秀だった。オレは出来るって信じてるぜ、居ないのにやるのかって言ってごめん」
「気にするな、たぶん誰もが思う事だし、―――これも、エルミスが知ってくれれば頑張れる」
先ほどエルミスと同じ言葉で返しながら笑顔を向けたレヴァンに、エルミスは少し面食らった顔をしながらも、すぐに歯を見せる様に笑って互いの拳を軽くぶつけ合う。
「明日ねーちゃん、先生のとこでモーニング食べるんだ、エルミスも来いよ。おれも行くし」
「ん、じゃあ喫茶店でモーニング食ってからチャレメニュ巡りだな」
「チャレメニュ巡り?」
そういって首を傾げたレヴァンに、"おう、チャレメニュ巡り"と言いながら、エルミスはアイスティーを一口飲む。
暖かな火を囲って楽し気に話す研究員達。老夫婦の話に耳を傾けるセリーニとリーコス。さわさわと木々を揺らし音を奏でながら、遠くから宴会をしている声を届ける風の音。
静かで賑やかなナノスの夜、無事新人研修三日目が終了した。
これでchapter21はおしまいです!!たいあり!!こんばんは!!
スプラ2甲子園関東大会GGBoyzおめでとう!GGWIN!
そして、ナノス編は次のchapterで最後となります。三つぐらいかな?区切っているので、それほど長くはないです(ページ数に伴う文字数は含まない) なのであともう数日お付き合いの程よろしくお願いします。
と、いう事で明日は21時に自己紹介絵と共にお会いしましょう!!