表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/175

Chapter21-7

挿絵(By みてみん)




「おかあさん、こちら親子制度によって子となった、後輩のリーコス隊員です。そしてこちらが、魔法道具を作っていただいた鍛冶屋シゼラスのエルミスです」

「えぇー!?まっ、え??え?えぇー!?ハジメ…いえ、一度病院でお会いしましたネ……!!」


「こんばんは、お呼ばれ有難うございます。えぇ、エルミスの病室で合いましたねマダム。セリーニ隊員の後輩として指導を受けています、リーコスです。手土産の一つや二つ、持ってくるべきでしたが…次は必ずお持ちする事を約束します」

「エルミスです。お呼ばれ有難うございますセリーニのお母さん。キッシュ、とっても美味しかったです。レヴァンとも仲良くなれたので、今回ナノスに来れて良かったです」



 眩しい。二人の笑顔が眩しい。セリーニの母は眩しさのあまりぎゅっと目を瞑た。






 陽がゆっくりと沈み、茜と藤が彩る空へと変わる頃には、すっかりナノスの街も落ち着いていた。

 大量の魔獣の肉は全て料理として振舞われ、ナノスの市民たちも大きな問題事の解決によってストレスから解放されたのか、街一体が祭り状態となっている。


 リーコスがシャワーを浴びにギルドナノス支部へと行っている間、エルミスは代表に防魔法文字のアクセス権限を返しに行き、リーコスを迎えに行くためすぐ隣のギルドナノス支部へ向かう。既に盛り上がっているギルド隊員に混じって父親と職人たちも同じように盛り上がっているのを、ソファに座りながらぼんやりと見つつリーコスがシャワーから戻ってくるのを待った。




 ナノス代表に権限を返した時、なにか欲しいものはあるかと聞かれたエルミスが願ったものは二つある。一つ目は"今回防魔法文字を直したのが自分である事を公表しない事"――理由は単純、任されたことを精一杯熟しただけだからだ。だがなにより子供である自分が防魔法文字を直したと分かれば、代表がメンテナンスに入るまでの間不安がる市民がいるかもしれない、それを考慮した。


 二つ目は"住民以外貸し出し禁止だった時計塔設計図資料本を貸してほしい"という事だ。もう少し手元に置いて何度も読み返したいというのと、理解不能な図を解読する為に"理解不能な絵を描く"幼馴染に解読させようと思った。どちらも首を縦に振ったナノス代表に礼を言い、ここに来て今に至る。


 シャワーを浴び終わったリーコスの後ろ髪の位置がイマイチ良くないので、ソファに座らせて綺麗に直した後、セリーニの家の位置を表す光点を頼りに通信機の地図を付けたまま歩く事数分。裏庭から玄関を回ってきたセリーニが二人に笑顔を携えて近付いてきた。




 家族を紹介しますね、そう言って裏庭へと案内されると、魔獣の肉を焼いている良い匂いが二人の鼻を擽っている。バーベキューを始めている家族の他に、数人の研究員が居るのが見て取れた。



 子供が連れてきた後輩と有名な鍛冶屋の子供を見よう、そう思って皿から視線を上げたセリーニの母は、リーコスの顔を見て肉を刺していたフォークごと皿に落として驚いている。驚いたままの母親の元に二人を引き連れて紹介をすると、二人に病室で会った事を伝えながら内心動揺していた。


 まさか後輩が第一王子で、あの有名な老舗鍛冶屋シゼラスの息子が防魔法文字を直して眠っていた少年だとは思わなかったのだ。天才と天才が子供の身近な存在に……?と、思いながらも、なんとか心に踏ん張りを付けて笑顔を作る。



「今日はちゃんと処理した魔獣のお肉をいっぱい貰って来たから"ので"、焼いたものから私たちが調理したものまでたくさん食べてね"くださいね"!!」

「おかあさん……」



 二人にどう接すればよいのか分からないセリーニの母親から繰り出される言葉の語尾に、思わずセリーニは苦笑いをする。そしてその様子を見ていた幼馴染組は"弟は母親に似てる"と心の中で思ったのだった。





 すでに茜の空は眠り、火のギアが内蔵されたランプが庭の各所を照らしている。


 多くあったオードブルや肉は消えており、紅茶の香りがナノスの森風が運びながら、デザートが振舞われていた。



「改めて討伐時は助かりました。引退というのが嘘だと思うほどの手捌きでした」

「武芸も一流である第一王子にそう言われると、私の腕もまだ誤魔化しが効いているようだ。ありがとう」



 ウッドチェアに座りながら紅茶を飲むセリーニの祖父は、折りたたみ椅子を移動させてきたリーコスに視線を動かしほんの少し深く座っていた姿勢を正すと、リーコスは"そのままで"と、片手を歩く上げてジェスチャーをしつつ頭を下げて座る。




 討伐時に居たリーコスはクネーラの的確な二頭討伐の誤差に気付かなかった。あの場に居た誰もが"完璧"だと思っていただろう。だがコンマ何秒か足りなかったのか、再生を始める事で"失敗"だった事に気付いたのだ。


 リーコスはあの場で”クネーラと二人で二頭の急所を狙う計画”が浮かんでいた。だが、たとえ"いち、にの、さん"で心臓を刺そうとも、力加減の関係により厚い皮を破って心臓まで達する時間を同時にすることは限りなく難しい。


 だがそれを一人で。剣筋の軌道など一切見せることなく心臓に孔が開いていた。誰が見てもそれは"完璧"な剣捌きだった。



「私の武芸など、元支部団長の貴方に比べればまだまだ赤子同然ですよ」

「ははは、謙遜なさらず。私の剣はもはや誤魔化しの域を歩んでしまっている……、まだ伸びしろのある第一王子や私の孫は、私よりも凄くなるでしょう」


 紅茶の湯気を燻らせながら一口飲むセリーニの祖父に合わせてリーコスも紅茶を飲む。ナノス市民の淹れる紅茶はみな美味しいのか、鼻を抜ける香りを堪能しながら一息つく。



「師匠、」

「おぉセリーニ。座りなさい」

「はい、隣失礼します」



 アイスティーを作っていたのか、グラスに注がれた紅茶の色がランプの色と混ざり、薄明かりを保っている。それまで中央に座っていた祖父はセリーニが座れるようにと移動し、隣へと座るセリーニがアイスティーを一口飲んでサイドテーブルへと置いた。



「なんのお話をしていたんですか?」

「なに、若者二人はまだまだ伸びるという小言を言っていた」

「ふふ、師匠がそういうのであれば、私もリーコス隊員もこれからもっと剣の腕が上がりそうですね」



 笑顔で会話を交わす二人を見るリーコスは、支部団長であるセリーニの祖父が引退した理由がずっと気になった。後からセリーニから聞けば良い事ではあるが、失礼を承知で今話を切り出そうと話題を入れる。



「セリーニ隊員が生まれた頃には、すでに支部団長を引退なさっていたんですか?」

「いいや、まだ続けていたけれど……その時はもう次の支部隊長を決めて引継ぎ作業をしながら三年ほど続けて引退したよ」



 リーコスの質問にセリーニも隣で紅茶を楽しむ祖父へと視線を移しながら語りを聞いている。どうやらその様子は"初めて聞いた"と言わんばかりの不思議そうな表情を向けていた為、リーコスは今聞いて良かったと内心思った。


 王族として何度かナノスに足を運んだ際、必ずナノス代表と支部隊長、そして研究員代表と薬学学校の校長と卓を囲んで会議や食事会を行うのだが、この老人の姿は居なかった。

 リーコスと面識のある支部団長が、"自分の前に支部団長だった方は、武芸の達人でした。私などまだまだです"と語っていた。今の支部団長も良い腕をしているというのに、と思っていたのだが、その言葉を痛いほど実感する事になってしまったのだ。



「その腕前だとまだまだ現役と仰る方も多いと思いますが、……なぜ引退を?」

「あ……、それ私も気になっていました」



 セリーニも同じように疑問を向ければ、二人の若い隊員の質問にソーサーへとカップを戻した老人は、組んでいた脚の上に両手を組んで置き二人の目をしっかり見た後目を閉じる。



「頂点を行ってしまえば、後は誤魔化す一方なのでね。―――歳を取ると、高みを目指すよりも、誤魔化し方を覚える様になってしまう」

「誤魔化し方……」



 セリーニの小さな復唱が、遠くで研究員達と笑いながら語り合う声に溶けて消える。



「誤魔化し方を覚えてしまうと、後は技術を衰退させない様に保つことが精一杯。勿論誤魔化す事が悪い事ではない、要するに"要領を覚える"と言うことだ、手に職を持つ者に与えられる言葉であれば"極み"と言ってもいい。けれど――、それは剣術には必要ないことでね」



 老人の膝に乗っている組んだ手は、見れば分かる程歴戦を潜り抜けた者の手だ。剣を持てば無意識に動き馴染むのだろうその手は、一定の域を超えて尚保ち続けていたのだろう。



「剣は体力だ。老いぼれは一撃必殺以外使えん存在、故に表舞台に立てないのであれば潔く次の若いモンに席を譲って、要領を覚えて貰おうとおもってね」

「そうでしたか。……指導者としての素質は存分に有る様子ですが、その筋の考えは?」

「はっはっは!セリーニは私の孫だからこそ、私と同じような事が出来るのではないか、と思った程度でね、その筋は全く考えてなかったよ」



 指導者になれば間違いなく様々な人間に合わせた技術を教える事が出来るはずだ、そうリーコスは確信していたが、どうやら本人に全くその気は無いらしく、声を出して笑いながら指導向きではない事を間接的に二人へ伝えた。


「セリーニは魔力が高く魔法を使えば暴走する。ならば、"魔術が使えなくとも剣さえ使えれば護れるものが増えるだろう"という考えだったが……今は――その考え通りだったようだ」



 組んでいた手を解いて孫の頭を撫でる老人は祖父として誇らしげだった。少し照れているセリーニはサイドテーブルに置いてあった自分のグラスを手に取り一口アイスティーを飲むと、リーコスはその微笑ましい光景に笑みを浮かべる。



「これはただの小言だが、……剣は必ず護るものを天秤に掛ける、」

「「……」」

「誰かを護り、誰かを傷つける。若いのは正義を力に剣を振おうとするが――、忘れてはいけない。剣は必ず"傷つけて護る凶器"だからこそ、斬った責任を背負って尚、護るべき存在を護り通さなければならない」



 孫の頭から手を離した老人は語る。支部隊長として身を置く前から、責任を力として剣を扱ってきたのだろう。圧倒的に重みのある言葉に、リーコスもセリーニも背筋を正しながら聞き入れる。



「誰かを護り、傷つける事で批判が来ることだってある。天秤に掛けた責任を背負えぬ者は人を傷つけてまで何かを護る資格なぞない。――二人はまだ若い、若いからこそ剣術も、そして責任を背負える背中も、少しずつ成長していってほしい。これは―――責任を背負うことを辞めた老いぼれの言葉として、適当に受け取ってくれ」



 そう言って目尻に何本もの皺を刻みながら笑う老人に、二人は静かに頷いたのだった。




前のchapterのあらすじ絵の番号が間違っていたので修正しました。



御休み明けのページがいっぱい?みんな沢山読みたいと思って…てへへこんばんは!!


オープンレックで手越くんがゲーム実況上げる様でめちゃくちゃ楽しみです。元々オプレの放送は毎日見に行ってたんですけど、まさか大物が手越くんだとは思わなかった…GGとのコラボ動画早く見たい。


水彩画って、一回試してみたいって思う事はあるんですけど、あれってセンスの塊にしか扱えない代物やって知ってるんやぞ!!うちにはむりや!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ