表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/175

Chapter21-2

挿絵(By みてみん)





 ナノスの森内周の一角、シートの壁に囲われた一部を捲って中に入った総隊長は、目の前に広がる巨大な塊を前に軽く両手を合わせた後、記録している解剖班の一人の元へと寄る。



「北からわざわざご苦労さん。しかしでけぇな」

「いえ、こちらも貴重な資料として記録出来るので、連絡いただけたこと感謝します。……通常よりも、体格はとても大きいので、今まで存在していた個体よりも長く生きていたツインズだと推測しています」



 捕獲を実行すると決めた昨日に、総隊長は北・マヴロス地方で国家機関の生物研究所に連絡していた。北・マヴロス地方はツインズの様な貴重な幻獣や魔獣が多く生息している為、生態調査を主軸にしている地方だ。六人ほどで解剖し、一人が記録係として報告を纏めていくのか、記録係が持つ専用記録器には専門用語の羅列ばかりが目立つ。



「目が幾つも付いている理由は分かるか?」

「それが……ツインズに付いていた目は、全て別の魔獣や動物のものでして、なぜ神経が繋がっていて、拒絶反応が起こっていないのかという理由が分からないのです」

「……!?別々の、…?つまり、それは……ツインズの身体的異変じゃなく、移植……みてぇな感じか?」

「簡単に言えばそうなります」



 全て別の魔獣や動物の目だという言葉に、総隊長はツインズの頭部をじっくりと観察する。少し乾いて皺の寄っている眼球をよく見てみれば、それぞれ違う大きさ、瞳孔の形であることが分かる。明らかに異常なその造りに"移植"という言葉を使ったが、移植であってもそれぞれ別の個体から引っ張ってくるモノは拒絶反応が起こる可能性が高い。



 だが拒絶反応が起こっておらず、尚且つ神経が繋がっていた。そして第一王子であるリーコスが"闇属性の魔力を纏っていた"と言っていた事を考え、一つの可能性を導き出す。



(無属性の魔法と闇属性の魔力を混ぜた疑似闇じゃあなく、リスク込みの闇魔法でコイツを作ったって事か……?)



 魔力が無く魔法が使えない総隊長と言えど、部下が魔法を扱う為知識は全て入れている。職業柄魔人や魔人亜種とも交流がある為、魔族が扱う闇属性の魔法に疑問を持ち質問をした際、無属性に魔族特有の闇属性を混ぜているだけの"疑似闇魔法"だと教えてもらった。


 そして"本物の闇属性の魔法"には生贄等を使って扱うと同時に、使う本人にもリスクが伴う事を語った魔族たちの表情は、とてもではないが"好んで使うなど出来ない"と語っている様だった。



 眉間に皺を寄せて考えを煮詰めていると、解剖班の一人がマスク越しからでも分かる大声で記録係を呼ぶ。総隊長も記録係と共についていくと、丁度内臓を全て出し終えたところらしく、綺麗に並べながらもどこか納得のいかない声がマスク越しから聞こえてきた。



「これは……」

「どうした、」



 記録係が言葉を詰まらせる。その様子に総隊長は軽く声を掛けながらも周りの解剖班を見れば、皆内臓に目を向け深刻な視線を送っていた。



「ツインズの内蔵はそれぞれ既定の大きさ、色、形があるんですが……」

「……?なんだ、サイズでも違うのか?」


「……いえ、この内臓は"ツインズ自身の内蔵ではありません"」

「―――は?」



 脳内処理が追い付かなかったのか、はたまた耳を疑うほどの単語がやってきてしまい、思わず耳の鼓膜が言葉を弾いてしまったのか。総隊長は思わず驚きと疑問を混ぜた声を上げる。



「それも……突然変異とかじゃあ無くて、か?」

「はい。……この胃袋は魔獣プラマード…幼獣は草食ですが、成獣になると肉食に変化する魔獣です。その成獣の胃袋の特徴とほぼ一致しています、」



 小腸と大腸は肉食動物ルイン、心臓は幻獣プラム、肺は魔獣レガロン、―――全て説明していく解剖班。唯一ツインズの要素があったのは、



「脳のみツインズの物です。ツインズ特有の魔法だけは残していたのでしょう。ただ……」

「ただ……なんだ、」

「脳も、なんらかの損傷を受けています。死亡して間もないのでスキャニング魔法である程度脳の状態を把握できましたが、記憶と行動を司る部位が潰され、魔法か何かで記憶と行動情報が入れられていた様です」

「……」



 少なくとも人間の所業でもなければ、総隊長が知っているような常識ある魔族の仕業でもない、そう思いたいほど、ツインズという魔獣に施された魔法が残酷さを物語る。


 記憶を操作する魔法は無属性だとある。だが、それはあくまで"記憶"のみだ。



「行動も情報として入れられてるって事は、だ。つまるところ違う内臓やらなんやら全部ツインズに入れた後、それがちゃんと動く様に脳が伝達する情報を書き換えてるって事か」

「その可能性が高いです。拒絶反応が起きない理由は分かりませんが、全ての内臓を入れ替えて尚、こうして機能していたのは情報伝達部分を書き替えたからだと推測しています」


「……分かった。ブツは持って帰るんだったな?また何か分かったら本部の通信機で報告をくれ。今日はわざわざ遠くからご苦労、移動費やらはこっちに請求しておいてくれて構わん」





 総隊長は解剖班達の顔を見ながら言葉を掛ければ、それぞれ短い返事が返ってきた。そのまま新鮮な状態で保存し始める解剖班に背を向け、布を軽く退けて一角から出ると、テントの壁に立って待っていたクネーラが総隊長の方へと視線を流した。




「お、シャワー浴びたのか」

「流石にシャワーじゃないとちゃんと落ちなかったわ…ところで、解剖結果だけど……」



 いつも括っている髪は背を彩り、血の匂いが濃かった隊服は新しい物へと変わっている。流石に何年も最終新人研修に参加している隊長格。着替えの一つや二つを持ってくる荷物の余裕があるのだろう。

 流石に出入口となっている場所で喋るのは邪魔になる為、退治した魔獣の後片付けを行っている場所まで移動しながら報告を共有し始める。



「まず、脳とガワ以外は別の動物や魔獣の物だった」

「……それ、やろうと思ってできるやつなの?拒絶反応とかあるじゃない」

「さぁな。俺が推測するに、リスク有の方の闇魔法を使ったと考えてる。第一王子の浄化魔法も使ったしな。……後はそれを動かすために信号を伝達する脳が弄られてた」

「……普通に考えて、普通じゃない」



 クネーラの言葉は、一番簡単に狂気を表した言葉だろう。誰も考え付かない事を、ツインズという魔獣を使って行っているのだ。


 魔獣の解体の仕方を教えている隊員、そしてそれを聞きながらぎこちない動作で必死に捌きつつ、時々先輩に手助けしてもらっている新人隊員達を見ながら真剣な表情で情報交換をしている二人の元に、白い団服を脇に抱えてやって来た人物に総隊長とクネーラが視線を向ける。



「ご苦労スピリア小隊長」

「そちらも。昨日(さくじつ)中央へと避難させた村の市民と、今日避難した一部のナノス市民は、明日体調が整い次第ナノスへと戻るそうです。オーロス中隊長が殿を務めたので、戻る準備が整い次第総隊長の通信機に報告を入れる様伝えておきました」

「そうか……騎士団の支援、すごく助かった。参謀に給料上乗せしとけって報告書上げとく」

「ふふ、有難うございます。――ところで、ツインズですが……」



 報告と和やかな話を切り上げ、本題であるツインズの話題に入ったスピリア小隊長。情報提供してから何かと気に掛けていたのだろう、ちらりとテントの方を見た後、再び二人へと視線を戻すスピリアに総隊長はクネーラと同じような説明を始めると、段々と眉間の皺が深く刻まれていくのが分かる。



「……非道の仕業でしょうか」

「だろな。今回の件は、もしかしたら一件だけじゃあ無いかもしれん。……ナノスの報告書を全部書き終わった後、この件を参謀に報告するつもりだ。中央に帰った時、一度参謀に伝えておいてくれ」

「了解しました」



 小さく頷いたスピリアは、総隊長とクネーラの元から離れて自分の持ち隊である場所へと戻る。その後姿を見ながら、クネーラは総隊長が言った意味に疑問を持つ。



「――まさかだけど、今回のツインズだけじゃ終わらないって事?」

「……あくまで俺の持論で仮説だが、人間や動物を使った実験の類やらは、一回で終わらん。自分が最も求めていたものを見つけても、またその上を行こうとする」



 何度も解体して慣れてきたのか、新人の手際が良くなってきたのを見つつ総隊長は続きを語る。



「そも俺たちの知らない場所で朽ちている魔獣が、実は"中身をまるっと入れ替えられていました"ってのもあるかもしれん。もしかしたら今後、ああいったやつが出てくるかもしれねぇし、脳も弄って人を襲う事も出来るなら、尚更見逃すわけにはいかんだろ」



 新人が魔獣を捌く一つ一つの手順を見ている先輩隊員が、数回納得するように頷きつつ解体し終えた肉を部位ごとに分けて置いている。特定の班のみに課題として設けていた魔獣解体だが、新人隊員団員全員が経験する事が出来たのはある意味幸運だ。様子を見守りながらも言葉は険しい総隊長に、クネーラは持っていた隊服を自分の肩に掛けながら口を開く。



「調査隊作るのかしら」

「そのつもりだが、あまり大事(おおごと)にしても国民が不安がる。全員分かった事があれば報告を上げて、後から調査隊を作る事にするつもりだ」

「それがいいわね。報告書は帰ってから手伝ってあげるから、ちゃんと呼ぶのよ」

「へいへい……」



 総隊長の考えに納得の表情を浮かべたクネーラは、そう言ってひらりと手を振って持ち隊の場所へと足を進める。報告書を纏め、新たな報告書と共に参謀へと渡さねばならないのだが、総隊長は毎回それに苦戦してしまう為、クネーラやガリファロに手伝ってもらっているのだ。


 "俺より有能な部下が多くて助かる"と心の中で唱えつつ、左腕に付けている通信機にやって来る報告を処理するため起動させたのだった。





うーん、ピュアリーシオリがかわいすぎる。そう思ったみなさん、こんばんは!!


インフルやらコロナやらで大変かと思いますが、うがい手洗いと消毒しないよりはした方がよいので、みなさんもお気をつけて。ちなみに花粉症の人、がんばれ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ