Chapter20-9
二本目の防魔法文字安定術式が完成し、一本目の魔力変換術式の防魔法文字製作に取り掛かるエルミスとセリーニ。
防魔法文字安定術式が出来上がった今、防魔法文字を作るのが格段に安定した為、エルミスはセリーニに魔力補助から魔力補給一本にシフトするよう声を掛けると、短い返事が返ってきた。
莫大な魔力を使って作り上げる防魔法文字に魔力を与えて、尚且つエルミスへと魔力を提供しているセリーニ。もしこの場にセリーニが居なかったら、ナノス全土から全てのストッカーをかき集め、尚且つ中央からも持ってこなければならなかっただろう。
防魔法制御装置のスロットはニ十本、本来ならばそのニ十本で一本目の魔力変換術式の魔法文字を制作した後、安定した魔力供給の下で防魔法文字を制作するのが通常の防魔法文字製作だとスキャニングで把握している。
だがその暇さえ与えない緊急事態に、本当にセリーニが居てよかったとエルミスは考えつつ、汗ばんだままの掌をぎゅっと握りしめる。剣を持つ武骨な手がエルミスの職人の手に良く馴染んでいるのか、防魔法文字を描く事に集中していると、手を繋いでいる事を忘れてしまう程だ。
「あと呪文一つだ……!」
エルミスは逸る気持ちを抑え、慎重に特殊パネルへと指を滑らせる。セリーニの魔力を己の体内に取り込み、自身の魔力として変換しながら、指先が描く魔法文字が乱れない様、残り少ない集中力と神経を尖らせる。
指の動作と合わせて魔力を流し、固定しながら次の文字を描く、少しでも気を抜けば即座に乱れて崩れてしまう魔力の塊を留め、スキャニングが指し示す次の文字を描き始める。
あと一文字。神代魔法文字のそれを、エルミスは丁寧に、より多くの魔力を注ぎ、固定し、弾けない様に留めながら一本目の防魔法文字を全て描き終わると、セリーニの方を見ず、真っ直ぐ防魔法文字が彩る空を見て口を開ける。
「セリーニ、お前の魔力も使ってる。防魔法文字が全て正常に機能する様に、一緒に詠唱してくれ」
「はい……!」
張り詰めた糸を最後まで切ることなくエルミスは集中したままセリーニの手を無意識に強く握ると、スキャニング魔法によって流れる詠唱呪文がセリーニの脳内へと伝わってくる。
呼吸を一つ。ゆっくりとナノスの風が運ぶ澄んだ空気を吸い、肺いっぱいに満たす。
「「 天地万物を司りし六つの檻 」」
エルミスとセリーニの周りに一本目の魔法文字が現れる。青白く輝くその魔法文字は、二人の頭上の上を均一のスピードで回り始めた。
「「 輔翼せし聯合 循環するは命の息吹 」」
二本目の魔法文字が出来上がると、詠唱に反応するように防魔法制御管理室の床が輝き出し、一つの魔法陣が浮かび上がった。黄金に輝くその魔法陣に、"神代魔法の補助が予め刻まれている"事を理解したエルミスは、更に続けて詠唱を始める。
「「 廻る守護 強靭たる神信の意思 天と地を結ぶ神の天祐 」」
三本目の防魔法文字が完成すれば、防魔法制御管理室の神代魔法陣が更に輝きを増した。セリーニが呪文を唱え、魔法文字を形成する度に歪になりかける魔法文字を、エルミスが正す様に魔力の制御し調整するのを繰り返す事三度。――後は三本の魔法文字を括るだけだ。
「 皆を 」「 皆を 」
互いの声が混ざり、風に乗る。描き出される魔法文字は、綺麗な形を描き出している。
「「 護り導くもの也―――!! 」」
呪文が締めくくられると同時に三本の魔法文字が一つとなり、防魔法制御管理室に浮かび上がる神代魔法陣と重なる様に魔法陣が現れた。魔法陣から多くの魔力が溢れ出し、一つとなった魔法文字が一気に弾けてナノスの街を駆け巡る。
それは正しくエルミスが初めてナノスに来て見た、絶対的防魔法の光。
走る光は空を回る防魔法文字に当たって一層輝きを放つ。六本全ての防魔法文字が正常に機能し始めたのか、均等のスピードで回り始める光景に、エルミスとセリーニはがちがちになった肩の力を初めて抜いた。
「やった……――」
「……!エルミス!?」
ふらりと地に崩れていくエルミスの身体を瞬時に抱き留めたセリーニは、ぴくりとも動かなくなったエルミスを抱きかかえて様子を見る。
顔色は悪くないが、魔力を持つ者が纏っている筈の魔力粒子が微かにしか溢れていない処を見ると――
「気を失っている……魔力切れと、緊張の糸が解けたんですね」
魔力が減れば"とても疲れた"ぐらいだが、身体に常保有する魔力分を極端に減らしてしまえば、身体は強制的に睡眠で魔力を回復しようと働く。尚且つ神経をすり減らすほどの緊張感漂う防魔法文字製作から解放された安心感で、一気に疲れと眠気がやって来たのだろう。
「――ありがとうございます、エルミス」
セリーニは眠る少年の身体を抱きしめる。もしあのままエルミスが来なければ、今頃己も、ナノスの街も、どうなっていたか分からない。防魔法文字修復という、大人でも身を縮め、脚を竦ませる程の重要な作業に立ち向かった"意志"を、感謝の意を込めて腕に力を入れる。
ゆっくりと腕の力を解き、そのまま胴と脚を腕で支えて抱き上げると、セリーニは転送魔法陣の上に乗って防魔法制御室から出た。
昨日滝沢カレンちゃんの番組で天一啜ってるとこ見てしまいました助けて。
拍手登録してあとがきに毎回載せようか常考えてたんですけど、なろうに登録していない読者との交流ってどれが一番いいんですかね?一番手軽なのは拍手かなぁって思ってるんですけど、流石にそれだったら個人HPでもつくってやれや!ってなるのか、、、
とりあえずパンくって考えときます。