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Chapter20-8

挿絵(By みてみん)






 特殊パネルに指を滑らせて魔法文字を描き出すと同時に、ナノスの空に同等の魔法文字が形成されていく。


 呪文を唱えず指だけで魔法文字を刻む事が如何に難しいか、セリーニは魔法授業でしか知らなかったが、いつも以上に真剣な表情で慎重に魔法文字を形成していくエルミスに、相当の高スキルが求められていることが分かる。



 セリーニはエルミスが描く魔法文字の周りに、己の魔力を纏わせて崩れるのを防ぐように補助を掛けていく。初めはエルミスの魔力に習って同じように魔力補助を行っていたが、エルミスの言う通り数を重ねていくうちに、段々とエルミスの補助が無くとも、防魔法文字を壊さない様に適度な魔力補助を掛けれる様になっていった。




 エルミスが描く魔法文字を崩さない様に補助を掛けていたセリーニは、ある事に気付く。




「これ、神代魔法文字……」

「あぁ、この防魔法システムは神代魔法文字も混ざってる。神代魔法文字は"読めない"人間であろうと、"描けば"使える。だからこの防魔法システムは特殊パネルで"描く"手方にしたんだろうよ……!」

「神代魔法文字の方が、文字形成が大変ですね……っ!」



 書き終わった魔法文字は、セリーニが上巻の間で紙に写している文字と同じだった。


 神代魔法文字を"呪文"から魔法文字として形成するには、神代魔法文字を理解しなければならない。今神代魔法文字を読める人間はエルミス以外に居るのかは分からないが、"もし読めなくなった時"を想定し、優秀な魔法技術を持つ人間であれば、読めずとも指で描くことが出来る特性を生かして時計塔が作られたのだろう。



 多くの魔力を使って崩れない様に補助を掛けていくセリー二に、エルミスは"その調子だ"と声を掛けて少しずつ二本目の防魔法文字安定術式が完成していく。


 きゅっ、とセリーニはエルミスの汗ばむ掌に己の掌を密着させる様にしっかり握りながら、エルミスの少なくなっている魔力を補充するように流せば、"サンキュ"と短い言葉で礼が返ってきた。






 時計塔の下では、ナノスの街に入り込んできた凶悪な魔獣を中央ギルドとナノスのギルド、騎士団員たちで全て処理していた。中毒症状を引き起こす薬が撒かれ、最初は悲鳴と混乱で渦巻いていたナノスの街も、研究員達が作った特効薬と迅速な住民の避難、そして空から降り注いだ特効薬の成分のお陰か、あまり大きな被害は起こっていない。


 粗方片付いた魔獣の群れに、剣に付いた血を掃いつつ総隊長は出来上がっていく防魔法文字を見上げる。






『エルミス坊に任せたのかよ!王都にも優秀な防魔法管理者はいるぜ?特殊転送魔法陣で連れてくる手もあっただろう』



 誰に頼んだのか、という問いに対して"エルミスという少年に頼んだ"と言ったナノス代表に、総隊長は困惑の表情を浮かべた。強制的に身体が外へ行こうと動き、尚且つ痛みで身体を傷つける"無自覚の身体反応"が薄れてきたのか、今一度深く背凭れに上体を沈めたナノス代表は、総隊長の言葉に小さく頷く。



『その言い分は最もだ。だが彼は、時計塔の防魔法文字が何で出来ているか"知っている"』

『……見たのか』

『この代表室は入った人間全ての情報が見れるからね。……仕組みを理解していて魔法技術も申し分ないのであれば、書類を三枚ほど書いて国に申請を通してからナノスに来る他の管理官より、あの少年の方が行動が早いよ』



 アステラスの防魔法管理官は、五つの地方で四十人ほどしかいない。どの地方も優秀な魔法技術を持ち、それぞれの地方を護っている。


 だが一つ困った事に、自分の持ち場以外の防魔法を管理する事になった場合、移転証明、防魔法文字漏洩防止等の書類を書き、行政に書類を通さなければならない。崩れていく防魔法文字に、書類を通すか、目の前の"理解している"少年に頼むか、二択であれば総隊長も迷わず後者を選んでいただろう。



「……本当に直しちまってるよ、すげぇな…」



 二本目の防魔法文字が全て直ったのか、その上に位置する一本目の魔法文字が描き出されていく光景に、総隊長は唯々驚くばかりだ。



「総隊長、戻って来たわよ」

「おっ、ご苦労クネーラ隊長。んで、獲物は?」

「西関門の向こう。今、北から来てもらった解剖班に見てもらってる」



 修復していく防魔法文字を見上げている総隊長の元に、隊服の上着を脇に抱えたクネーラがやってきた。ご自慢の大剣は部下に預けたのか、重そうに持って拠点まで走っていく後姿を視界に捉える。


 化粧が取れ、髪に血が微かに付いている事から、一度水を被ってきたのだろう。相当の血を被って来たことが分かる。上着は血で濡れたのか、微かに獣の香りと混ざる血の匂いが総隊長の鼻を掠めた。総隊長の質問に、西関門の方に向かって顎をしゃくったクネーラは、総隊長と同じように修復途中の防魔法文字を見上げる。



「……防魔法文字が壊れたのを森で見たけど、どうやら今直してるようね」

「おう。……あれ、直してるの誰だと思う?」

「……?代表じゃないの?」



 総隊長の妙な質問にクネーラは首を傾げながら、誰もが思いつく人物の名前を上げる。それもそうだ、代表が最もこの事態を収める為に動く責任者でもある為、クネーラの考えはおかしくはない。だが総隊長は八重歯を見せてにんまり笑って"総隊長ではない"事を表現する。



「違う様ね…しかも教えないって事は、メリシア管理官でも、他の防魔法管理官でもないんでしょう?」

「おっ、中々の推理力だ。引退したら探偵にでもなるか?」

「それもいいわね。浮気現場の修羅場とか好きよ」



 冗談を交えながらも、精悍且つ美しい防魔法文字を作り上げる人物がさっぱり浮かばないクネーラは、順次報告しにやってくる部下たちの応答をしながら、ただただ総隊長と同じように空を見上げるのだった。




肩が痛い!昨日はひたすら手を上げる作業だったので、腕がだるいどころか肩がいかれています。でもええんや、、、



e-baseballプロリーグ巨人日本一おめでとう!冒頭の原監督のコメントがおもしろいので、巨人ファンでまだ見てないって人はアーカイブ見てください。


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