Chapter20-7
三本目から二本目の防魔法文字安定術式の修復に取り掛かるエルミスは、三本目よりも難しい防魔法文字形成に苦戦する。
基本的に防魔法文字形成は、スキャニング魔法で術式を読み取り、特殊パネルに指をなぞるだけの一見簡単な作業。だが一文字書くだけで魔力を多く使う、魔力を多く使うという事は、形成するのに大変な力が必要になるという事で。少しでも気を抜けば、歪な魔法文字となって弾けて消えてしまう。
なにより"防魔法安定術式"の魔法文字を作っているのだ。補助の役割である防魔法文字を安定させるための術式がない為、現状エルミスの魔法文字形成のみで防魔法文字を作っている。
より一層神経を必要とする作業、だがここでエルミスは神代道具作りで得た力が生きた。
「(マナの路を固める様に、外側から魔力で固定すれば幾らか安定する……!)」
まだ防魔法文字を弾けさせる程の歪な形成には至ってないが、それでも防魔法文字を形成するエルミスの気力と根気の勝負だ。呪文二つ分の文字を、外側から魔力で魔法文字を形成して安定させる補助を試したエルミスは、こちらの方がより安全だと気付く。
「(だがこれをやるには時間が掛かる……防魔法文字を乱れさせない為の土台を作るのと、防魔法文字を書くのを一緒にすると、どちらかが疎かになる可能性だってある……)」
万が一、というのがあった。上級魔法など寝起きでも楽々と魔法文字を形成し発動させる事の出来るエルミスであろうと、防魔法文字の形成はそれ以上に難を要する。
「……」
「……どうかしましたかエルミス」
特殊パネルに手を翳しながら見守っていたセリーニは、ふと隣の視線を感じてエルミスに顔を向ける。
「セリーニ、手伝ってくれ」
「えっ、わっ……!」
エルミスは左手でセリーニの右手を握る。突然の行動にセリーニは驚きながらも、エルミスの魔力を通して脳内にやってくる莫大な情報を把握するため、驚いた表情から真剣な表情へ瞬時に変えていく。
「手順を言う。オレが形成する防魔法文字の外側から、魔力で固定する様補助を掛けてくれ」
「で、出来ますかね……」
「出来る。数を熟せば上手くなる、オレも最初は補助を掛けてやるから、感覚を掴んでくれ」
魔法を使おうものならば、莫大な魔力を制御する力が足りず歪な魔法文字が出来上がり、暴発か失敗かの二択になるセリーニに、"魔法文字の形成"を手伝うというのは大きな壁だった。それが人の命を左右する防魔法であれば尚更。
それはセリーニにスロットのない特別な魔法道具を作ったエルミスは何より理解している。けれど敢えて"出来る"と断言したエルミスは、不安で揺れるセリーニの瞳を真剣に見つめた。
緊張と不安で乾く咥内に、先ほど飲んだレヴァンの特効薬の後味がセリーニの舌に乗る。
身をもって中毒症状を証明した弟も、ネリアと出会う前までは勉学に興味が無く、薬草などの類を扱う事も苦手な方だった。"将来はギルド入りするから勉強なんていらねぇ"というのが口癖なほど成績に難があったが、ネリアと出会った事を切っ掛けに、人が変わったように勉強を始めたのだ。
どん底だった成績が一気に上昇し、今ではセリーニが在校していた薬学専門学校へと余裕で入れる成績を収めている。老婆の指導あってか薬を扱う授業も最高成績を収め、あまりの豹変っぷりに両親も"もしかしてうちの子じゃない…!?"などと半分冗談、半分本気で疑う程変わった。
自らの身体で中毒症状の仕組みを証明し、薬を作り上げ、"命を左右する重さ"を理解した上で自信を持って勧めるという"大きな壁"を乗り越えた弟に、姉である己が苦手という理由で引け腰になってどうするのか。
ネリアを護る事が出来なかった代わりに市民を護ると誓った己が、隣で懸命に防魔法文字と向き合う少年の言葉を信じて手助けをしなくてどうする―――!
「頑張ります……!!」
「良い返事だ……!」
意気込みに合わせる様にセリーニはエルミスの手をしっかり握ると、エルミスから送られてきた情報の中から、次を指し示す様に輝く単語を把握する。これを形成するのか、とセリーニは考えながら、エルミスの補助を頼りに魔力を送り始めた。
遅くなりました。肩やら腕やら背中やらが割れてバキの漫画に登場出来るかも知れない、そう思った今日ですこんばんは。
明日は通常の時間に載せれますので、19時にお会いしましょう。
chapter20は残り4つ分、たいよろです。