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Chapter20-3

挿絵(By みてみん)




「エルミス……!!」

「エルミス君……どうして君がここに来れた!?なぜそれを操作できる!!」



 声を張り上げたネイドにセリーニは驚きながらも、その身を拘束する為に動けないネイドへ近付き手首を束ね、携帯ポーチから縄を取り出し手首と足首を拘束する。強制的に床へと横たえさせるセリーニの力に抗う事も出来ず身体を床に伏せたネイドは、絶えず視線をエルミスへと向けたままだった。


 すぐにメリシアの元へと駆け寄ったセリーニを視界に入れつつ、エルミスは防魔法制御室の転送魔法陣に非常システムを起動させ魔力を送る様片手で操作しながら、再びネイドの質問に答える為に視線を向ける。



「代表から権限を貰った」

「代表から……?待て、まだ代表が生きているだと……」

「殺そうとしたアンタが驚くのも無理ない。ここに来れた理由は、外壁にあった非常階段を登ってきた。そりゃあそうだよな、転送魔法陣でしかこの空間に入れないんだったら、アンタみたいな奴に悪用されたら終いだし、非常階段ぐらい作るよな」


「非常階段……どこにそんなものが……、なぜそんなものを知っている、」

「ちゃんと丁寧に"この資料が良いって"オススメした奴の言う言葉かよ。ちゃんとまとめられてた資料に載ってたぜ、"バルコニーから外壁沿いにそって石の階段になっているから、緊急時は下を見ないように上へあがれ"ってな」



 "下を見たらぜってー脚が竦むからな、風に煽られるのが一番きつかった"と感想を語るエルミスは、拘束されたネイドの身体に掛かる防魔法を解除すると、途端にネイドは身体を藻掻かせながら余裕のない笑顔を携えて叫ぶ。



「だが!!たとえ君がそれを勘で操作出来ても無駄だ!!メリシアは既に中毒!!代表は無事でも使い物にならない!!他の管理官は皆潰した!!君みたいな資料を読んだだけの非力な少年に何が出来る!!」

「さぁな。でもやらねぇとダメな時ぐらいあるだろ。それが今ってことぐらいだ」


「はははっ!!面白い事を言うね君は。防魔法文字は遅くとも絶えず崩壊を進めている、やってもやらなくても同じだ!!」

「やらず後悔するなら、やって後悔した方がいいだろ」



「良く回る口だねエルミス君。第一それはスキャナーでなければ解読不可能な術式が――」



 メリシアが中毒という言葉に、セリーニはネイドの衣服に手を掛け、中毒作用を中和する薬が無いか探る。その行為などまるで気に留めていないネイドはエルミスに叫び続け、帰ってくる返事に思わず大笑いをする。


 その不気味さをセリーニは感じながら、白衣の内ポケットにあったストッカーを手に取り、魔法道具の可能性がある結婚指輪を外して立ち上がるとエルミスの元へと持っていく。毒か薬か……万が一を想定して確かめる為に、ストッカーの中身をスキャニングしてもらうと、エルミスが"大丈夫だ"と言って二回頷いた。




 一連の行動を見たネイドは、ここで初めて"エルミスがスキャナー"である事を知る。てっきり防魔法を操作したのは"資料を参考にしたもの"だと思っていたのだ。



「なっ、スキャナー……!?」

「言っとくが、代表の共有魔法付きの指輪なんて貰ってないぜ。正真正銘、十三年物のスキャナーだ」



 そう言ったエルミスは防魔法制御装置に組み込まれているスロットを確認すると、黒色の魔力が底に溜まるストッカーを見つける。これが原因か、と考え、ストッカーポーチに手を入れると、一際魔力の反応を示すストッカーを取り出した。



「……使えるかどうかはわかんねぇけど、使えたらラッキーだな」



 仄かに黄金色へと変化し始めたストッカーは、エルミスがナノスに来る前に作った"闇属性に対抗するための魔法陣"が刻まれた飴硝子入りのストッカーだった。それを黒色の魔力――闇属性の魔力が底に薄らと残るストッカーの上から差し込んでいくと、カチリという音と共にほぼ空のストッカーが下へと落ちるのを手で受け止めながら、エルミスの作ったストッカーがスロットへと装着された。



 防魔法文字を侵食していた闇属性の魔力が、金の粒子と共に消えていく。その光景に"道具は上手く出来た"と考えながら、空いているスロット全てにマナが満タンのストッカーを全て差し込む。勢いよく減り始めたストッカーの中身は、魔力残滓を空に撒きながら崩れゆく防魔法文字の崩壊を一時的に止めているが、時間の問題だろう。


 そして、まだ空を漂う魔力残滓に薬物中毒を引き起こす薬の成分は残ったままだ。



 再びポーチに手を入れてスロットに嵌っているストッカーを割らずに抜く道具を取り出し、嵌っている上部へと当てて鎚でコンコンと軽く叩き、挿してすぐ空になったストッカーを抜き取ると、槌を作業ベルトに戻してストッカーポーチから一本の試験管を取り出した。



「(防魔法を使って薬を撒き散らしたのは移動中に見た。なら、中毒症状を消す為の特効薬を広げれば何とかなるだろ……使うぜ、レヴァン)」



 空のストッカーに魔力を通して器用に上部を軽く折り、レヴァンの作った特効薬を注ぎ入れると、再び魔力を通して上部を指で潰し蓋をすれば、先ほど抜いた場所へと差し込んでいく。


 カチン、と軽い音を立てて嵌った特効薬入りのストッカーと、満タンのマナが溜まっているストッカーを起動させる様、防魔法制御パネルを操作しマナを魔力に変えて二つを結びつけると、時計塔を中心として弾ける様にナノス全体を特効薬が駆け巡り始めた。




「よし、―――あとは防魔法文字を修復するだけだ」





 エルミスのやっている事を一通り見ながら、ネイドは全ての計画が潰えていく事実を受け入れずにいる。


 計画通りに進まない、それどころか己の計画が潰されていくという事実にネイドは焦りを感じた。今まで事が上手く運んでいただけに、積み重なっていく計画の失敗で余裕が無かった。身体は拘束されている、防魔法文字の崩壊はなぜか止まってしまった。そして死んでいないナノス代表から権限を受け取った少年は、本来今朝死んでいる筈だというのに"生きている"―――!!


 今自分が出来る最大限の"探求心を満たす為の行動"は何か、ネイドは考える。このまま何も成果を得られずに終わるのであれば、今目の前にある物を使えばいい。そう思いながら、ネイドはメリシアの元へ駆け寄るセリーニへとブレる視点を合わせた。

 



 エルミスが防魔法制御パネルを操作している間に、セリーニはメリシアの上体を腕で支えて意識があるかどうかの確認をすると、眠らされている状態のメリシアの手がぴくりと動いた。次に腕の筋肉に力が入るのが分かり、"中毒症状による無意識に身体を動かしている状態"である事を悟ると、セリーニはネイドから奪ったストッカーを割ってメリシアの身体に掛ける。



 エルミスが挿したストッカーによって完全に防魔法文字の崩壊は停止したが、それでも崩れた防魔法の影響で凶悪な魔獣が入り放題になってしまっている状況に変わりはない。そして、たとえ特効薬をナノス全体に撒いても、中毒症状を既に引き起こしている人間の魔力が暴走し始めたら、特効薬と言えど即効性が無い事はナノス代表を見ていて分かってる為、薬が効くまでに身体の痛みを訴える者が出る。



 早急に防魔法文字を修復して、暴走する魔力を制御し、魔獣を中に侵入させない様にしなければならない。



 スキャニング魔法で防魔法システムの仕組みを一つずつ理解しながら操作していくエルミスの後ろで、転送魔法陣が作動するのが分かった。



 複数の足音が風に攫われて消えていく。どうやらナノスのギルド隊員と法を取り締まる行政だろう。




「メリシア管理官を運んでくれ――、……中毒症状を引き起こした犯人、ネイド氏。君を拘束する」

「っ……まってくれ、なぜ私が犯人だと?」



 ネイドはあくまで白を切るつもりだった。一連の会話は全てこの防魔法制御室の中で行われた為、誰かに聞かれる可能性などない。それなりに信用を得ていたと思っていたネイドが"なぜ薬物中毒の犯人"とピンポイントに中てられた事を考えていると、ナノス支部のギルド隊員に混ざって総隊長が顔を出した。



「白を切るなんざ男らしくねぇなおい。ぜーんぶ聞こえてたぜ、これでな」

「っ……通信機…!!」



 総隊長が持っている専用通信機から同じ声と言葉が聞こえる。その紛れもない"通信機"の機能を、目の前の"研究"に夢中だったネイドは注意を疎かにしてしまったのだ。



 最後まで上手くいかない現実に、ネイドは眉間の皺を最大限にまで刻んだ。





dashの時の桝アナウンサーめちゃくちゃうきうきでかわいい。


今回は長めです。一応予告しましたが、長いと思ったご新規さん、これからもこんな感じのがちょくちょく出ます。猛者は「まーた始まったわホンマに」と思っているかもしれません、始まってしまいました。


本当は区切ろうかと思っても居たんですけど、どうしても区切る箇所がないなぁと思って、そのまま載せました。やっぱり勢い大事よ。何事も。



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