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Chapter2-4


挿絵(By みてみん)




 


「お帰り…!心配してたんだよ」

「わりー、ただいま父さん」

「ただいまレオン。さぁて…エルミス、説明してもらうわよ。レオンも来て頂戴」



 店のカウンター前で割れたガラスや鉢植えの掃除をしている父親が、妻と子を見てほっと一息つきながら出迎える。心配という言葉にリーラはごめんなさいと謝りながら軽い抱擁をし、レオンの手に握られていた箒と塵取りを持ってカウンター内に置くと、工房に続くドアを開けて夫と子を招く。

 エルミスとレオンはいつも作業している定位置に置かれた椅子に座り、リーラは素材が置かれているレオンの机を少し片づけた後腰を掛けながらエルミスを見る。



「よし、とりあえず…なぜ神代の書物に触れなければ、黒い魔法文字が見れなかったのか、説明してくれるかしら」

「それは父さんも気になっていた。教えてくれ」



「ん、分かりやすく言うなら、この神代の書物自体が"魔法道具"の役割をしているところにある」



 ごそごそとポーチから神代の書物を取り出しながら簡単に説明するエルミスに、母親は首を傾げているが、父親は気付いた様で、ぽん、と手を叩いて納得の表情を浮かべた。



「なるほど。…そういう事か」

「ちょ、ちょっと…職人だけで分かった様に頷かないで、せんせ…じゃなかった、私にも教えて頂戴」



 父と子の間では解決しているが、肝心の母親はまだ理解していない為、思わず学校と同じような口調になるのを慌てて訂正しながらエルミスと夫に詳細を求めた。



「リーラ、この神代の書物には、色々なページに呪文と魔法陣が書いてあるだろう?」

「えぇ…と言っても内容が理解できない文字と魔法陣だけど…」

「その呪文と魔法陣が魔力に反応して、軽微ではあるが効果が発動しているんだよ。丁度俺が確認した時と同じように光っていたんじゃないかな?」

「…!た、確かに…。本が薄く輝いて魔力を帯びていたわね…」



 夫の説明に妻はやっと理解した様に数回頷きながら大風の中で振れていた本が輝いていた事を思い出す。父親の一段と分かりやすい説明にエルミスも母親と同じように頷きながら言葉を付け足す。



「闇属性に対抗して反応する魔法文字にオレの魔力が注がれた、だからあの三本の黒い魔法文字が闇属性だと分かるし、本が反応して光った」

「でもエルミスは最初本に触れないで反応していたね。なんでか教えてくれるかな?」



 理屈は分かったが、肝心のエルミスが最初に本を持たずに反応していた事をレオンが思い出すと、エルミスはうーん…と軽く悩むようなしぐさを見せた後、ポーチに神代の書物を仕舞いながら口を開く。


「オレも良く分からねぇんだが…爺さん含めた家族会議で"鍵となるものを触った"って言っただろ?」

「あぁ」

「えぇ」

「あれが…んー…今のところ推測でしかないが、色んな情報や魔法の塊なのかもしれねぇってところだ。ただ、そこはオレにもよくわからねぇから、とりあえず神代の書物が無くても見れる…ってだけ」




 あの小さな輝く球体が"鍵"であるという事は空間を構成する魔法文字によって判明しただけであって、鍵自体はエルミスにとって謎のままだ。


 ただ、あの鍵に触れた後一切分からなかった神代の文字が読める様になったり、魔法陣の意味や闇属性の魔法を目視出来るようになるなど、相当高度且つ複雑な魔法で作られた鍵という事だけは理解できる。


 はっきりと分からないならば仕方ない、と両親は軽く顔を合わせて一つ頷き、質問は終わりとばかりに立ち上がる。



「さて…私はまた学校に戻って中央大舞踏講堂に避難した住民の誘導をしてくる。あなた今日の夜どうする?」

「ノルマを終えたら帰るよ」

「分かった、じゃあまた後でね。エルミスも頑張るのよ」



 工房の外へと向かいながらリーラは夜帰ってくるかどうかをレオンに質問する。妻の背中を追う様にレオンは返事をしながら工房の外へ出て、その背中をエルミスも付いていきカウンターに置きっぱなしの箒とちりとりを持ってカウンターを出た。

 人混みに混じっていくリーラの背中を夫と子が見送り、まだ散らかっている道や店の前を掃除始めつつ周りの状況を確認する。

 瓦、トタン、皿の破片やガラス、毟られたような家の木材や角が丸いレンガ、ぬいぐるみに服にととにかく色んなものが纏めて一角に置かれていた。



「しっかしすげーな…サイクロンより派手だぜこれ」

「西地方の方がもっと被害が凄いらしいよ。王都の防魔法師と魔法建築士に大工さん、ギルド隊に騎士団の半分は西地方に向かって修復作業を手伝っているらしい」

「……オレん家の屋根飛んでねーかな?」

「飛んでたら日曜大工で直すよ」



 専門職じゃないけどね、とレオンが笑いながら言いつつカウンターに飛び散っている土を払い落とし、水で濡らした雑巾で拭く。"おーい!木を持っていくの手伝ってくれー"という声にエルミスとレオンが向かうと、倒れていた木を大きめの角材ほどに寸断する大工達がいた。

 大勢の人々で木や負傷した人を運び、道に散らばったガラスや鉢植えの土を綺麗にしていけば、比較的強風が来る前の風景にはなった。大半の防魔法師と魔法建築士、そして優秀な大工が王都アステラスの関門を抜けた西にある産業地レフコス地方に向かっているため、屋根が飛んだりしているところは仮修復のシートでカバーしているのがちらほらと見える。


「今日はみんな大忙しでお店暇だと思うし、魔法学校の貸し出し修理の続きをしようか」

「わかった。一週間後まであんま時間ねーし、さっさとやろーぜ」


 シゼラスへと戻った二人はそのまま工房へと続くドアを開けて中に入る。いつもは窓から入り込む光が出迎えるが、今は塞がれているためカウンターの見える特殊硝子以外の陽ざしがない。装飾器具のスイッチを押し明かりをつけると、二人の鍛冶師はそのまま日が暮れるまでひたすら鎚で合わさった素材を打ち、スロットに魔力を通して確認をする作業に没頭した。





*****************






「じゃあエルミス、父さん先に帰るからね」

「んー了解」

「明後日はおじいちゃん帰ってくるから、エルミスも家に帰って魚食べるんだよ」

「おう!爺さん釣れたかなぁ」

「お土産、期待しておこうね。じゃあお先、お疲れ様エルミス」

「ほーい、お疲れ父さん」



 作業ベルトを机に置いたレオンは、貸し出し用魔法剣のスロットを確認しているエルミスに一声掛けつつ軽く背を伸ばして身体を解す。明後日祖父が帰ってくる事を聞いたエルミスは釣りの成果を予想しつつ、父親の言葉通り土産という釣りの成果を楽しみにしていた。前回釣りに行った祖父の土産は魚と貝で、母親の作った魚介ベースのスープに貝が入るだけで、あれほど出汁が違うのだなと驚いた日が懐かしい。


 父親が工房から出てオープンの掛札をクローズにひっくり返す音が聞こえる。エルミスは一人になった工房でほんの少しだけラジオの音を大きくしながらそのまま作業を繰り返す。鎚を一つ一つ剣身に叩いて、マナと素材を融合させながらマナの路を作り、不純物を取り除く工程を繰り返しつつゆっくりと夜の月が空を飾っていった。




 丁度夜九時のお知らせがラジオから流れる。放送はそのままジャズ音楽へと変わっていった。



「 量子接続 魔力流動 固定 流動 再度固定 魔力強制放出 属性接続 ……ん、規定に合ってるな」



 柔い布で軽く魔法剣を磨いて魔力を送りスキャニングをする。貸し出し道具は必ず一定の数値に沿って作る様になっており、鉱物の量やマナとの混ざり具合が全て決まっている。

 多少の誤差は許容範囲とされてはいるが、出来る限り同じものを作る技量も持たなければいけない為、普段から"常連"を相手にしている鍛冶屋にとっては新鮮味且つ良い練習になる。スロットに入ったストッカーを通して魔力が通っていることを確認しつつ、鉱物とマナの混ざり具合、既定のマナの路と重さをしっかり確認すると、そのままスイッチストッカーを入れて属性接続の確認もすれば、しっかりと魔法剣が属性を帯びている事も確認できた。


 磨ぎの作業も済ませた後、修理出来た魔法剣を鞘に納めて"修理済み"と書かれた木箱に入れ、そのまま次の魔法剣を手にしたその時、ドアをノックする音が工房に響く。





 コン、コンコン、コン。独特なリズムは"関係者"の合図。この時間だと差し入れを持っていくと言っていた母親だろうと、エルミスは手に持っていた修理前の魔法剣を作業台に置き外と繋がるドアノブに手を掛ける。



「母さんわざわざサン…」




 外からの攻撃を防ぐ防魔法を解除しながらドアを開けつつ"サンキュー"と言葉を続けようとしたが、母親と全く違う体格と髪の色、なにより見慣れた"男"に言葉が止まる。



「やぁ、エルミス。熱心にやっているじゃないか」

「りっ……リーコス。お前…」

「エルミスの御母上と偶然会ってね。差し入れと着替えを持っていく任務は俺が引き受けた」

「……おいお前、なに怒ってんだよ」

「……」



 母親手製の手提げ鞄を持った男…リーコスが工房の中に入り込みドアを閉めつつ手に持っていた手提げ鞄をエルミスへと渡す。防魔法が自動で発動したドアの先に人の気配はない。


 手提げ鞄を受け取ったエルミスは、中に入っているバスケットを取り出し作業台に乗っている魔法剣を避けて置きながら、"怒っている"リーコスに理由を聞こうと尋ねる。一見なにも変わりない"第一王子"の言葉と表情ではあるが、幼馴染のエルミスには"怒っている"と分かるほど、微妙な声色の違いが含まれていた。



「…エルミス、君いつも大事なものはストッカーポーチに入れているね?」

「…?ん、あぁ。そうだが…」

「じゃあ、これは何かな?」

「…!!」




 普段エルミスの父親が座っている作業椅子に、長い脚を組んでリーコスは座りつつ怒っている理由を明確に理解していない幼馴染の視線を奪い逸らさない様にしながら、ギルド制服のポケットに手を入れてあるものを取り出した。



 "二十六番"と書かれたプレートがリーコスの指によって摘まみ出されると、エルミスの目が見開きストッカーポーチの中を確認し始める。一気に引っ掴んで作業台の上に置くと、家の鍵、セリーニのギルドカード、メモ帳、そしてストッカーとスイッチストッカーがカチカチ、カラカラと音を立てている。だがその中に肝心のプレートがない。



「……な、ない」

「どこにあったと思う?」

「……う、裏路地?」

「残念、魔法電波塔の上だ」




 ピンッ、と親指で弾いてプレートを飛ばせば、パシッと空中でキャッチするエルミスに軽く手を叩いてナイスキャッチと笑顔を向けて褒めるが、その目は笑っていなかった。






前話でめちゃ長くなりますって言ったんですが、あまりにも半端な区切りがあったので、一つにするか、区切る場所を変えて二つにするか迷った末の二つです。

今回のあらすじ絵がなぜミニキャラじゃないのかと言いますと、せっかくの見せ場だったので普通の等身(?)にしました。

次回は多分長いです。じっくり楽しんでください。

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