Chapter19-5
〈大正解だ。アンティ君は昔から物覚えがいいね〉
「理解できるか?」
「既に人の域から外れてしまってる考えだ、私には分からないよ」
「俺もだ。――そういや、俺がまだ二十代でB隊の隊長やってた時、一島の島が集団薬物中毒で住人全て消滅したって話が中央で上がった事がある」
専用通信機から聞こえる話を聞いた三人は、異常な思考を持っているネイドに言葉を出す事が出来なかった。セリーニの答えによって、総隊長はやっと言葉を発すると、その問いにナノス代表は首を横に振り、レヴァンも声を発することは無かったがナノス代表と同じように首を振った。
総隊長はネイドの計画を聞いて、若い頃に起こった薬物中毒の話を思い出した。一島丸々全ての住民が死に絶えていたという報告にゾっとする事件だったと記憶していたのだ。
「あれか……あれはたしかナノスが管轄していた離島の"事故"だな。実験の経過を知るために研究員を一人向かわせたら、全員生きていなかったという。あれは私がまだ代表補佐をしていた為詳しい事は聞いていないが、もしやネイド君が……」
「随分似てるぜ。……最終的に全員を対象にするところとか、な」
腕の通信機を操作する総隊長の表情は険しさを増していた。操作する指を止めず、尚且つ話を聞く総隊長の器用さにレヴァンは感心しながらも、絶えずナノス代表の検診をする。
風を切る音が通信機から聞こえる。セリーニが動いたのだろうと三人は察するが、その音と重なるように"カチリ"とスロットにストッカーを挿す特有の音を通信機が拾った。
"何かを挿した"、そう三人は思った途端"パンッ!!"と凄まじい破裂音がナノスの空に響き渡る。その音にレヴァンは窓に視線を注いで空を見上げると、総隊長はレヴァンへと確認を取る様に声を荒げた。
「三本目が崩れ始めたのか!?」
「いや、あれは……紫色!?中毒症状を引き起こすやつです!!」
「なにっ……!!くそっ、緊急連絡!至急ナノス市内に居る全隊員と全団員に告ぐ、薬物中毒の症状が出る薬が全域に撒かれた。魔力のある者はすぐに空のストッカーで魔力を抜き、市民にも伝え、作業を手伝う事。以上だ!」
レヴァンの言葉に魔法文字の連絡から、緊急連絡へと切り替えた総隊長は、声を張り上げてナノスに居るギルド隊員と騎士団員達に伝えて通信を切る。絶え間なくやって来る魔法文字の報告捌きを再び始めた総隊長に、レヴァンは一本残っていた特効薬入りの試験管を総隊長へと渡そうと手に取れば、総隊長の元へと駆け寄り試験管を差し出した。
「あの、良かったら……」
「ん、あぁ。俺はいいぜ。俺は"アスプロ"だ」
「えっ……」
「びっくりするだろ?大体知ってる奴が多いんだが…ま、お前の気遣いはすげー嬉しいから、……ありがとよ」
アスプロ――"魔力無し"の名称だ。その言葉にレヴァンは驚きの表情を浮かべた。総隊長という職に就いているので、てっきり魔法の腕もあるかと思ったのだ。にっこり笑顔を浮かべてレヴァンの頭を撫でる総隊長に釣られるようレヴァンも小さく笑いながら特効薬を箱に戻す。
「そういや研究員が作ってる特効薬はどうなってる」
「明日出来る予定ではあったが、あの研究チームであれば……もうすぐ出来るはずだ、」
「失礼します!!」
そうナノス代表は言うと、勢いよく代表室のドアが開く。五人ほどの白衣の集団にレヴァンの両親も居た為、鉢合わせした事に母親とレヴァンは口をあんぐりと開けたまま黙っていた。レヴァンの父親が特効薬を作る代表だったのか、特殊なケースと成分表を机の上に置いてナノス代表の確認を取っている。
「――、よしいいだろう。もうそのまま使用を許可する、お前たちは摂取したか?」
「「「はい」」」
「ではナノス市に居る全ての者に配布を」
「一部の隊員も動かす」
本来であれば治験をした後に市民へと渡るが、緊急事態の今そう言っていられない。最終許可を出し摂取確認をしたナノス代表に、白衣を着た研究員達は全員返事をすると、代表はナノスに居る全ての人間に配布をするよう伝えた。その言葉に、大変だろうと即座に隊員の手配をする総隊長は通信機を操作し始める。
「では私たちも市民への配布に回ります」
「あぁ、アンティ夫妻は少し残ってくれ」
「……?分かりました。後は頼みます、」
ナノス代表の言葉に脚を止めたレヴァンの父親は、他の研究員に一言添えながら荷物を渡して代表室に留まり、同じく母親もその場に留まった。
「アンティ研究員、君たちよりも先に特効薬を作ったレヴァン君だ」
「ド…………ドウモ……」
「わ、私達よりも早く作ったんですか!?侮れない……」
「そして、君たち夫妻にもこの通信機の内容を聞いてもらった方が良いだろう」
「通信機……?」
そう言って机の上にある通信機を指さすナノス代表に、夫婦の視線は通信機に集中する。
〈僕はね、本当はアンティ君も実験対象に組み込んでいたんだよ〉
〈っ……な。どうして私を……!〉
「「セリーニ!?」」
通信機から聞こえてくる少女の声が我が子だと気付いた夫婦は、セリーニが対面している相手がネイドであるという事に気付くと、通信機に視線を集中させながら両手を握って見守るしか出来ない事を密やかに悔やんだ。
明日はお休みです!水曜日だという事を忘れかけていました。
香川県がゲーム時間規制?でしたっけ。長時間やる事を脱法ゲームとか言いそう。
水曜日にブクマ記念絵描きたいと思ってます、がんばりますぞ~!