Chapter19 最終新人研修三日目-2
防魔法文字が崩壊する三十分前。
レヴァンが先生と呼ぶ老婆の喫茶店で朝食を取り、時計が九時を指し示そうと秒針が回るのを見たエルミスが、そろそろだと気付いてグラスに残ったフルーツティーの残りを飲んでいる処だった。
「レヴァン。その様子だと薬は出来たのかい」
「うえっ!?先生なんで知ってんの……?」
「ナノス代表は元教え子、おまえさんの事も筒抜けだよヒッヒッヒ……」
肩を上下に揺らして笑いを響かせる老婆にレヴァンの青ざめていた顔が安堵に変わる。噂になっていたら競う為に内緒にしていた意味がないからだ。
こっくりと頷いてスクールバッグに腕を入れて漁り、器用に箱を中で開けて試験管を取り出し老婆へと渡す。
「……ほうほう…、」
暫く試験管を眺め、ゴム栓を取り手で扇いで香りを確かめた後、レヴァンとエルミスが目を見開くほどの光景を目の当たりにする。
老婆の周りを一本の魔法文字が走り出し、試験管と共に魔法文字の輪が降り注ぐ。その光景は正しく、
「スキャニング魔法……!!」
「先生使えたのかよ……!!」
簡易スキャニングをし終えた老婆は数回納得するように頷くと、試験管を驚いたままの顔をしているレヴァンに返す。ナノスにはスキャナーが少ないと聞いていたエルミスも、まさか目の前にスキャナーが居た事に驚いてしまった。
試験管を箱に入れたレヴァンは、今まで知らなかった事実に驚いたまま、伝票の裏に走り書きを始めた老婆に戸惑いを含んだ声で質問をする。
「おれ先生がスキャナーって知らなかった……」
「言って無いからね、セリーニも知らないよ。……なるほどねぇ、筋の通った特効薬だ、中毒症状を引き起こすあの成分を充分に打ち消す事が出来る」
書き終わった文字の後ろにトン、とペン先を当てて締めた老婆がレヴァンの質問にそう返すと、薬の出来を褒めながら伝票をエプロンのポケットに入れる。
「もしかして先生、おれのやつを参考にして作るのか…?研究員も作ってるぜ?」
「大体一緒さ。飲んでからの効き始め、副作用がどれだけあるか、それだけの違いだ。研究員の作ったものが最上級に良いと断言するのは甘い……、…お前さんが自分で作った物を、胸を張って勧めれる物が出来上がっている。それを自分で理解する事だよレヴァン」
「……おれが、胸を張って勧めれる薬…」
老婆の言葉を繰り返すレヴァンに、エルミスも同じことを祖父や父親に言われた事を思い出した。
人に薦める為には、その物が絶対的に自信作である事を伝えなければならない。"ちょっと失敗した"、"自信はあまりないけど"、と前置きするのは"遠慮"ではなく"実力不足"と思われる可能性があるからだ。そういった物をわざわざ手に取るぐらいならば、自信をもって勧めている職人が作る物を手に取る。
レヴァンは実力のある研究員が作った薬の方が良いという意味合いを含んだ言葉を言ったが、老婆は自信を持てと言った。つまり――……
「ちゃんと出来ててよかったなレヴァン」
「うおおおお…!!まじで良かった……!!これでちゃんとナノス代表に見せられる…、って!もう九時回ってる!エルミス行くぞ!」
「切り替え早ぇなおい…。ごちそうさまでした、代金これ」
「あいよ。丁度だ、また来ると良い」
いつものメニューを頼んているため、すでに代金は把握済み。エルミスは硬貨を置いてレヴァンの後を追うように店から出ると、その慌ただしい後姿を見送った老婆はキャスター付きの椅子から降りてドア横に掛けてあるプレートを"準備中"にひっくり返す。
孫の治療薬を作るためだけに置いてあった工房に踏み入れるのは一年以上だと考えながら、曲がった腰を軽く伸ばして工房へと向かった。
頭痛薬の副作用の凄さがやばいです。頭痛を治す事を引き換えに喉の痛みと鼻水を召喚させるか、頭痛を我慢するかの二択。でも頭痛の方がつらいという。頭痛が痛い。
このchapterは最初だけ短めですが、段々一話分の文字数が多くなってきます。流石にここまで来てくださっている猛者には物足りねぇもっと寄越せよホラ!と言われそうですが。。。
それではchapter19対戦よろしくお願いします。