Chapter18-4
「各自確認、A班から報告を」
〈A班、内周北エリア痕跡無し〉
〈B班、内周東エリア痕跡無し〉
〈C班、内周南エリア、爪痕、動物を食い散らかした跡あり。爪の大きさから言ってツインズの可能性〉
「よし。D班内周西エリアはセリーニ隊員の報告場所以外に爪痕が複数、動物の死骸、体毛があった。B班はC班へ、A班はD班に合流して。合流したら通信で報告する事」
〈〈了解です〉〉
クネーラの指示で通信機から一斉に返事が返ってくる。少量のノイズ音が切れると、クネーラは通信機が付いている腕を下げ軽くしゃがむ。木の根に付着している剛毛を手で取り、改めてじっくりと観察する。
「……雄か、雌か…どちらか、」
体毛だけでは分からない。鼻を近付けて匂いを嗅ぎ、獣に混じる血の臭いを感じ取ったクネーラは、体毛を地に散らして再び通信機を操作してナノスの森全体を描く地図を出した。魔力によって描き出されるホログラム調の森へ、魔力を込めた指で点を打つ。
(襲う雄か、逃げる雌か……私と出会うのが雄であれば、完璧なんだけれど…)
本来の生息地である北・マヴロス地方でツインズの生態を研究している学者によれば、普段狩りをするのは雄であり、雌は雄に危険を知らせる為の嗅覚と聴覚が特別発達していたらしい。そして雄雌で逃げ、もし逃げ切れなかった場合は雄が囮となる。死に絶えても番が生きていれば再生する身体の為、危険が去った雄の位置を、雌が嗅覚を頼りに探すらしい。
人間を襲ったのは間違いなく雄であり、負傷したギルド隊員を追いかけたのも雄だろう。そして離れていた番が雌で、後からセリーニ達を襲ったのはその雌だ。本来逃げるはずの雌が襲いにかかったのは、人間という存在が"ひ弱"であると"目"で分かったからだとクネーラは推測する。
それでも危険が迫れば、雌は雄より逃げる確率が高い。どんなに知恵を取りいれても、本能に抗う事は出来ないからだ。
「第一王子、各エリアに隊員が揃い次第、お願いします」
「分かった」
光の使者として扱うクネーラの言葉に、リーコスは剣柄に手を掛けたまま頷く。
風が木々を揺らし、鳥が飛び立つ。やがて音はやがて消え、辺りはクネーラとリーコスの呼吸のみとなった。
気配はない。動物が本能で逃げているのだろう。それほど辺りに気配という気配が漂っていない。
カチリ。クネーラの通信機が小さく光る。どちらの班も合流したという報告だった。
「第一王子、お願いします」
クネーラの言葉に対し、リーコスは声ではなく魔法剣を抜いて答えとする。鞘に小さく擦れる音が、静まり返っている森に響いた。
サクリと、なんの抵抗もなく地面に剣先が刺さる。柄をしっかりと握り、魔法剣がゆっくりと黄金の輝きを帯びてリーコスの身体が光に包まれ始めた。
『 神言 』
『 我が聖なる断罪の剣 神の名代として意思を唱えよ 』
黄金の魔法文字がリーコスを軸として回り出す。クネーラは何度かリーコスの"闇魔法浄化"の場面を見たことは有ったが、相変わらずリーコスの周りを回る魔法文字を読むことは出来ない。
『 悪しき呪いを光で照らし 闇の全てを光で暴く 』
予めセットしてあったストッカーがパキンと音を立てて割れ、淡い翠のマナが一気に黄金色の魔力色に変化すると、リーコスの魔法文字を形成するように粒子が凝固していく。
『 闇の力を纏う者よ 神の光を持ってその身を晒せ 』
パキン。セットしていたもう一本のストッカーも割れ、魔法文字を形成していく。
余程多くの魔力が必要なのかと、クネーラはリーコスの表情を見る。至って冷静かつ涼しげな表情だったが、額から滴る汗が、魔法文字を形成するための難しさを物語っていた。
『 全てを 神の意志を代行する者也 』
三つ回っていた魔法文字が一つになり、リーコスの足元に黄金色の魔法陣が現れた。パンッ!と弾けるかのように魔法陣の円から放たれた黄金の円が森一帯に広がる。
クネーラとは別の場所でそれぞれ待機していた隊員も、その黄金の波に目を見開いたまま驚いていると、少し遠くの方でうめき声が聞こえたのが分かった。
「南21エリア、西15エリアにいます」
リーコスは探知によって把握した二つの闇属性の場所を、クネーラが開きっぱなしにしている通信機のホログラムに黄金の点を打つ。細かく区切られたエリアで光る黄金の点が指すのは南21、西15と書かれた場所だった。
〈クネーラ隊長、ツインズと思しきうめき声が聞こえました〉
「そうか、そのまま通信を付けたまま接触。雌だったら追ってこちらへ、雄だったら逃げてこちらへ誘導。エリア移動の際は随時報告をして」
〈了解、――それぞれ…、…で、……〉
隊員たちの声が遠くになったのを確認して、クネーラも通信を繋げたまま腕を下ろす。A班と合流予定のクネーラとリーコスはその場で待機していると、段々と近付いてくる人の気配に振り向く。次第に聞こえる枯れ葉を踏む音、土を蹴る音と共に、漂う血の香りでクネーラの顔つきが一層真剣な物へと変わると、辛うじて道として機能している山の上からA班の隊員達の後ろに、異形の目を持ったツインズが一匹姿を現した。
「ク…、クネーラ隊長!」
「そっちの気配を探って追いかけてきたのね…!!」
崖の様な斜面を滑って下る隊員達を庇うようにクネーラは前に出ると、崖を滑らず大きく飛んで踏みつぶそうとするツインズを見上げる。想像以上に大きい、と考えながら、クネーラは背中に据えていた大剣の柄を握って勢いよく振り上げた。
真っ二つに裂ける黒い物体。血が一気にクネーラへと降り注ぎ、ツインズの半身がクネーラを避けて転がった。
「BC班聞こえる?」
〈聞こえます!〉
「南5エリアで落ち合いましょう。そっちが早かったら逃げない様留めてて、」
〈了解!〉
向こうの通信機から聞こえる風の音と荒い息遣いの音で、番を追いかけ回している事を把握したクネーラは、血濡れた腕を下ろして大剣を持ったまま南側へと数歩下がる。その背中に付いていくように隊員とリーコスが下がると、真っ二つに割れたツインズの身体のみが地面に横たわっていた。
「……本当に"目"があるのね。けれど、それぞれ大きさが違うわ」
「第一王子とセリーニ隊員の証言通り、こちらを目で捉えていました…神経が通っており、六つとも視覚があります」
「新種や亜種って訳でもなさそうだし、……誰かが手を加えるには手が込みすぎてる」
未だ動く気配のないツインズを観察するクネーラは、瞳孔が開ききっている異形の目達を眺めながら、どういう理由で目が付いたのかを考える。だがその意図を計る事が出来ず、ただただ人を襲うようになってしまったツインズに目が付いたことで、これほどまで厄介になるのかと身をもって体感する事になるのだ。
「……!動くわ。皆指示通りに。特別許可魔法部隊は、私がまずいと思った時に水矢を打つ事、いいわね」
「了解!」
「第一王子は魔力を。ストッカー変換よりも己の魔力で結ぶ魔法文字の方が良いはずです。出来る限り温存を、」
「分かった。無茶だけはするなクネーラ隊長」
「……了解!」
第一王子からの言葉にクネーラはきゅっ、と表情を引き締めて大剣を構える。見据えた先には、肉が脈打ち滴る血が集まってくる異様な光景。再生している、と見て分かるその光景に、大剣の柄を握るクネーラの手に力が入る。
肉は完全にくっつき、毛皮が覆う。ぴくぴくと動く筋肉はやがて身体を動かす事に慣れる様動き、開ききっていた瞳孔は再び色が戻る。
来る、と思ったと同時に、クネーラの大剣が鋭い爪を受け止めた。
「全体引けぇーーーー!!」
クネーラの掛け声が一斉に隊員の足を動かし、クネーラもまた爪を弾いて次の一手を受け止めながら、決死の誘導作戦が始まった。
たむらけんじのぶっちゃ~けbarという番組があります。よく見てるんですが、今週はラーメン愛好家の方々が出ていました。
街頭インタビューで天下一品のこってりの話をする人が居て、あー久々にこってり食べたいなぁと思った次第。なぜ天下一品のこってりはおいしいのか、賛否あるこっさりもすきです。
天下一品の本店食べたことあるんですけど、やっぱりおいしい。チャーハンセットキメた時は至福だった。