Chapter18-2
夜が眠ってゆくナノスの街。
エルミスは重い瞼を開けて目覚めると、身体の節々が筋肉痛の様な痛みを患わっている事に気付く。だがその痛みよりも、己が今生きている事、そしてベッドの上で眠っている事に心底驚き得ていた。
「……何が起こった?」
早朝の涼やかな風がカーテンを揺らしてエルミスの頬を撫でる。良い風だ、と思いながらも、なぜ生きているのかが不思議でしかない。
「中毒症状を自覚したのは良かった。だが動けずに記憶もぼんやり……なるほどな、あれだとレヴァンの友人が魔力放出をするのに手間取るわけだ。…でもなんでオレは生きてんだ?」
記憶が曖昧な為、中毒症状を自覚した後は何も覚えていないエルミス。唯一最後にはっきりと覚えているのは、身体の異変をスキャニング魔法で確認しようとして魔法文字を形成できなかった事だ。絶望と幸福に蝕まれた思考に潰され、後はよく覚えていない。
「まぁでもラッキー、って思っておくか」
起き上がってぼさぼさの髪を手櫛で直すだけでも腕の関節と腰が痛む。一瞬顔を顰めながらついでに痛みをなんとか引かせようとストレッチをしていると、出入り口のドアに数回のノックが叩きこまれ、ドア一枚を挟んでいるにも関わらず元気な声が通り抜ける。
「エルミスーおはよー!!おきてんだろー!!」
「……おはようレヴァン。おまえ、ずっと元気だよな」
ベッドから降りてドアのカギを開けると、随分と興奮状態のレヴァンが姿を見せた。また薬物中毒か?と思い、一応スキャニングをするが異常無し。ただの元気なレヴァンにホッとしつつ部屋へ招くと、着替えてすぐ家を飛び出してきたのか、制服を着崩しながら備え付けの椅子に座るレヴァンに、相当急いで来たことが見て取れる。
「急いで来たのか?」
「おう!昨日は徹夜して、寝たのは一時間!でも"出来上がって"アドレナリンドバドバ!!」
「……出来上がって?おい、一から説明してくれ」
目がほんのりと充血しているのは寝不足で、何かが出来上がった達成感で興奮しているという情報を口にするレヴァンに、エルミスは一体なんの話なのかと首を傾げる。
まずそこからか!とレヴァンは自分の膝を軽く叩いてスクールバッグから銀紙に包まれたピザトーストを取り出すと、まだ温かいのか銀紙に湯気の湿り気が付いていた。一口齧って咀嚼しつつ、空いた片方の手で身振り手振り動かしながら説明をし始める。
「罰として空のストッカーを配り終わった後にな、ナノス代表の元に報告しに行ったんだよ。報告してくれって言われたからな」
「おう」
「んぐんぐ…んで、報告しに行ったら、ナノス代表が"大人と競争するか?"って言われてよ!」
競争。争うことが何かあっただろうか、とエルミスは考えていると、どうやらレヴァンもその時同じことを思っていたようで、
「なんの競争ですかって言ったら、"特効薬、君か、研究員総出で行う大人達か、どちらが早く、そしてしっかり効くものを作れるか"って言われたんだよー!!すごくねーか!?」
「ちょいちょい待て、つまりレヴァンが特効薬を作る許可を得たって事か?」
「そーいうこと!!」
ぱちん!と指を鳴らした人差し指でエルミスを指すレヴァンに、"なるほど、ちゃんとした許可を得ての薬作りか"と納得する。そして"出来上がって"という事は、その特効薬が出来上がったのだろう。
「んで、レヴァンが一番か?」
「とーぜん!まだラジオで臨時ニュース流れてなかったからな。一番早くエルミスに伝えて、嘘ついてない証拠にしようと思って」
臨時ニュース、新しい新薬が出来ればそういったニュースがナノスでは流れるのか、とエルミスは考えつつピザトーストを咥えたまま再びスクールバッグに手を入れて探し物をするレヴァンを眺める。スクールバッグから出てきたのは一つの箱。その蓋をゆっくり開けると、中身は固定器具でしっかりと固定されている試験管が出てきた。
四本ある試験管の二本を抜いてエルミスへ差し出したレヴァンに、試験管とレヴァンを交互に見ながらエルミスは受け取る。
「一本はエルミスにやる。もう一本はねーちゃんに渡してくれ」
「……それは良いが、今日はお前のねーちゃんと出会う予定はないぜ?」
「でもおれより確率は高い。出会ったらでいいし、…その時はおれが作ったってことは内緒な!」
「なんでだよ……」
"絶対、また無茶した!って怒る"と、姉の怒った顔を思い浮かべる弟に肩を揺らして笑いながら、エルミスは試験管がしっかりゴム栓で蓋をされている事を確認すると、机の上の作業ベルトに掛かっているストッカーポーチへと仕舞った。
「代表との面会可能時間は朝の九時からなんだ、エルミスは証拠だから付いてきてくれ」
「しゃーねーなぁ。……って、まだ二時間もあるじゃねーか」
「先生の店でモーニング食べるか?おれもこれだけじゃ足りねーし」
「ナイスアイディア。んじゃ着替える」
面会時間が九時という情報を得たエルミスは、ホテルに備わっていた時計を確認する。
まだ七時を回ったばかりという事実を目で見て、二時間という自由な時間をどう過ごすか考えようとした時、レヴァンの提案で空腹のサインが鳴った。良い提案だと指を鳴らすと、寝巻姿からいつもの作業着に着替えるべく上着に手を掛けたのだった。
今年はまだ一回も雪が降っていません。ほんの数年前は雪かきするのも怠いなぁと思う程めちゃくちゃ降ってたんですけど、今は降る気配すらみせません。楽だからいいと思う反面、雪が積もっているときの香りが感じられないのが少し寂しい。
真面目な事書くなって?
今日のぐらぶるのガチャは、サラって子が出たんですけど、相方がサラママっていうからなんやろと思ったら、どうやらママみのある九歳だったようで……ママ……ママやん……