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Chapter2-3

挿絵(By みてみん)






 大鳥のシルエットを捉えながらエルミスは走り続けつつ、ギルド隊と騎士団員の話を耳に入れる。どうやらリーコスがあの大鳥を対処できるという事らしく、光属性の魔法で浄化するリーコスには、あの黒い三本の魔法文字が見えるのだろう。

 だがその肝心のリーコスは、同じ大鳥が暴れている西地方で光属性魔法を行使しているらしく、まだ被害の少ない王都は後回しになっているようだ。


 息の根を止める魔法や武器を使う手もあるが、魔獣の類でも出来るだけ希少な魔獣は保護対象となっており、あの大鳥も魔獣の類でありながら希少なため、王宮に近付くまではぎりぎり生かしているのだろう。一般市民を非難させながら魔大砲の準備を進めている騎士団員達に見つかって避難の巻き添えになる前に細い路地を曲がる。



 王宮へと向かっている大鳥のシルエットをちらちらと捉えつつ走り続ける。最近ずっと走りっぱなしだなとエルミスは苦笑しながら、ストッカーポーチからごそごそと風の魔法陣が刻まれたスイッチストッカーを取り出した。



「 風の跳躍 」



 エルミスの言葉と共に魔法文字が一本身体を取り囲んで風の魔法が発動し、パキンッと砕けたスイッチストッカーが吹き荒れる風に攫われ消えた。

 走りながらぐっ、と踏み込み一気に飛ぶと、風が足裏を掬い上げる様に押し上げて大きく跳躍する。すとんっと屋根の上に降り、ほんの少し見やすくなった視界で大鳥を捉えると、屋根を伝って走りつつ大きく開いた空間は跳躍を繰り返し、出来るだけ魔法が届く場所を探している途中で住民の避難を手伝っている母親の姿を捉えた。



「母さん!」

「え…エルミス!?あなたなんでこんなところに、」

「オレ、あの大鳥対処できる!」

「……、…後で詳しく聞くわ!魔法が届くところまで先に行ってて!」



 足の悪い老人を負ぶさりながら走っていた母親はエルミスの言葉を聞くと、魔法が届きやすい範囲まで先に行けと大声で伝える。エルミスも頷いてそのまま屋根から屋根へと飛び移りつつ、走る息子の後ろ姿を見た母親は"王宮の方に向かっている"と気付くと、地下施設が備わっている安全な教会へと老人を降ろしてエルミスと同じように風の魔法で屋根に上がり走り出す。


 ティールブルーの頭を視界に入れリーラは長い脚を最大限に活かして子の背中に追いつくと、王都の中で二番目に高いラジオの魔法電波塔へと互いに飛び乗り着地した。最も王宮に近い場所であるここであれば、向かってくるはずの大鳥へと比較的魔法が当てやすい。大鳥は大きさの割に速さは無く、まだ王宮へと到達はしていない。



「エルミス、」

「母さんまずはこの本を持ってあの鳥を見てくれ」

「…!……黒い魔法文字の様なモノが三本あるわ。ただ、…うーん、読めない…」

「あれは"禁忌魔法"によって付与された闇属性が大鳥に暴走を促しているんだ。本に書いてあった魔法文字で浄化できる…はず」

「第一王子しか使えない光魔法じゃないと、ああいう暴走は止められないってお偉いさんの会議で聞いたけど…」



 エルミスへと説明を求めようとしたリーラの言葉を遮るように、まずは百聞は一見にしかずとばかりに本を強引に渡して大鳥の方を指さす。滅多に強引な誘導はしない息子に流されるまま輝きを帯びる本を渡され大鳥を見ると、三本の黒い魔法文字がくるりくるりと回っているのが確認できた。ただ読めない事に変わりはなく、どういった対処法をすればいいのか分からないリーラは、エルミスの言葉を聞いて真っ先にリーコスを思い出す。


 エルミスは母親の手から本を取ると、リーラの視界は黒い文字が見えなくなる。その理由は何となく理解できたが、肝心の対処法をエルミスに聞くと、エルミスはストッカーポーチから満タンのストッカーを十本取り出しながら説明をし始めた。



「光属性の魔法とは直接書かれてない。ただこれは"神代魔法と鍛冶技術が書かれた本"で、尚且つ"禁忌と闇属性に対抗する為"の魔法らしい。光属性とは違うが、あれが"禁忌魔法によって付与された闇属性"の魔法であるならば……神代魔法で浄化ぐらいなら出来るはず」

「うーん……リーコスくんを待つより早いか。……お母さんが束縛するから、確実に当てる事、いいわね?」

「時間は、」

「対象物が大きいから五秒」

「充分!」



 エルミスの真剣な目を見た母親は、子供がやると決めている事にやめろとは絶対に言わない。

 王宮へと向かう大鳥が一回、また一回と羽ばたく度に突風が発生し、屋根瓦や鉄板、重たい馬まで軽々と風に攫われ宙に浮く。エルミスとリーラの身体も強く押されるが、まだ距離がある為身体が浮くまではいかない。だがそれも時間の問題だろう。


 リーコスが到着するまでにどれだけの被害が出るのか分かりながらも、国の決めた保護法によってぎりぎりまで手出しが出来ずにいるこの状況、出来うるならば早急に手を打つ方がいいと判断した母親は、確実にエルミスの神代魔法が当たる様に束縛魔法を使う事を決める。


 対象物が大きい為、リーラもエルミスのストッカーポーチから五本ストッカーを取り出しつつタイミングを見計る。



『 神判 』

「 …途絶 」



 エルミスの呪文が始まり、言の葉が魔力に結びつきエルミスの身体を回り始める。エルミスの声で発するものとは全く違う魔法文字に、リーラは思わず息を飲んだ。



(神代の魔法文字…なんでしょうね、あれは)



 くるりくるりと、一単語のみエルミスの身体を中心として回る魔法文字を、リーラは読むことが出来ない。だが声として発音した単語の読みなのだろうという事だけは分かる。



『 我が聖なる断罪の剣 絶対の意思を持って神に応えよ 』

「 強大たる空の大鳥 偏向する風の大翼 」



 一本の魔法文字が互いに完成する。円となった魔法文字が身体を回るが、決定的に違うのは魔法文字を輝かせる色だ。一般的に扱われている青白いリーラの無属性魔法文字とは違い、エルミスの周りを回る一本の魔法文字は金色に輝いている。母親はその魔法文字の輝きに見覚えがあった。


 唯一の光の使者として生を置いているリーコスが、特殊な魔法を用いて魔獣を沈める時に放つ輝きと同じなのだ。



『 悪しき呪いを絶ち向き 輝く神気は命を救う 』

「 寂静の時重 拘束せし移動の力 視界に与えるは夜の暗転 」



 二本目の魔法文字が完了すると同時にパキン、パキン、と二人が持つストッカーが割れる。対象物の大きさを考えながら魔法文字に魔力を乗せる為、十分に効き目がある様念入りに魔力を丁寧に込めつつ、魔法が暴走しない様に適切な威力を考えながら魔法文字を形成していく。



『 闇の力を纏う者よ 我が光を放ち闇の戒めを解き放つ 』

「 満たす力源の封緘 扇ぐ大翼は枯渇する 」



 リーラの魔法文字が先に三本完成する。動きを止めない大鳥をしっかりと見据えて狙う対象を捉えると、最後の一本となったストッカーを指で折るように割れば、濃いマナを魔力に変えて一気にブーストさせていく。



「先行くわよ!」

「おうっ…!」



「 我が拘束 汝に制御を与える者也! 」



 リーラの身体を包む三本の魔法文字が重なると同時に、右掌を大鳥に標準を合わせて広げると、掌に集まる魔法文字の塊は一つの小さな青白い光の球となって一気に放出される。まるで箒星の様に一筋の光を描きながら大鳥に光が吸い込まれると、動いていた大翼はまるで一枚の絵の様に動かなくなった。

 だが対象物が大きく完全に止まるのは約三秒、そこから四秒で大翼が低くなった高度を持ち直すために一瞬もがくだろう。



 だがその三秒は、既に三本の輝きを放つエルミスには充分な時間だった。



『 全てを… 神の意志を受け継ぐ者也…!! 』



 言葉を放つと同時にエルミスを囲む三本の魔法文字は重なり合い一斉に弾け、エルミスの足元に巨大な魔法陣が浮かび上がる。

 輝く魔法陣は正しくエルミスが神代の書物で見た"禁忌と闇属性に対抗する為の魔法陣"だ。大翼が動き出そうとしている大鳥の真上に巨大な魔法陣が浮かび上がり、一斉に大鳥を囲う三本の黒い魔法文字を吸い上げる様に分解しているのが分かる。



 空を裂くような大声を上げもがく大鳥に、どうなっているのか分からない母親は難しい顔をしてエルミスに問いかけた。



「…もがいているように見えるけど、大丈夫なのエルミス」

「おう、これ触って見たら分かるぜ」



 エルミスには見えて、リーラには見えない。きっと今大鳥を見ている殆どの人間にはリーラと同じように"大鳥がもがいて声を上げている"と認識しているに違いない。

 エルミスが持っている神代の書物に触れて今一度大鳥を見たリーラの目に映ったのは、分解された黒い魔法文字が黄金に輝く魔法陣へと吸い寄せられていくところだった。魔法文字を全て吸い上げた黄金の魔法陣はさらりと消え、エルミスの足元に現れていた魔法文字も消えるところを見ると、どうやら全て分解し吸い終わったようだ。大鳥は落ちていた高度を一気に上げてそのまま王都を去っていく。



「おぉー…!えらい我が息子!お疲れ様!」

「…つ、疲れた…魔力切れで体力も終わってやがるぜ…リーコスは毎回こんなことやってたのかよ…」

「ほら、お母さんがおんぶしてあげるわ」

「そ、そんな歳じゃねーよ!一人で歩ける…」



 疲れ切った表情のエルミスに背中へと飛び乗ってこいと指示を出したリーラをエルミスは首を振って遠慮する。母親だって上級魔法を使ったのだ、疲れているのはお互い様だと言わんばかりにごそごそとストッカーポーチから満タンのストッカーを二本取り出し母親に一本渡す。

 ストッカーのマナを魔力に変え、半分の量になったストッカーをエルミスがポーチへ、リーラは内ポケットに仕舞いながら魔法電波塔の中にある階段を使って地上を目指す。



(光属性の魔法を持っていない奴が光属性に似た神代魔法を使うと大量の魔力を消費するのか…?)



 予測では五本使うだろうと思いながらも、保険として十本ストッカーを用意したエルミスは、予想を反して魔法文字を精製する度に魔力が持っていかれたことを思い出す。結局五本ではなく十本用意したストッカーを全て使って大鳥を囲う闇魔法文字を分解し浄化した。無論対象物の大きさも考慮せねばいけないので、通常の人間に使うなら三本、そして保険として五本程度だろう。


 自前の属性であれば魔法文字精製と威力相応の魔力を注げばいいが、持ち得ていない属性を使う場合は通常よりも多く魔力を使用する。だからこそスイッチストッカーとストッカーを同時に使う機会が多い。


 それでも桁違いだったのだ。たとえ対象物が大きい事を予想していても、だ。



(リーコスに聞きてぇけど…色々聞くと勘繰られそうだしやめとくか…)



「エルミス、今日は夜どうするの?」

「学校の貸し出し道具の修理」

「性が出るわねぇ」

「…学校側が一週間後に納期って言った時点で夜も作業だぜ」

「……差し入れ持っていくから頑張るのよ!」



 "学校側の人間め!"とジト目で母親を見ながら階段を全て降りきり、ガラス張りだったであろうドアノブを開けて割れたガラス片を掻き分ける。ぱき、ぱきりとガラスを踏む音を立ててしまうのはもう仕方ない。すぐそばにある割れた鉢植えを見る限り、飛んできてガラスドアに当たったのだろう。改めて相当な風だったことが分かる。


 被害状況や安否確認をする騎士団員とギルド団員たちを見ながら魔法電波塔を後にして心配しているであろう父親の元へと母子は歩き出した。




次も夜九時前後に更新予定です。

ブックマークを付けていただいた方、有難うございます!キャラクターたちの成長や日常を見て楽しんでいただければ嬉しいです:)

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