表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/175

Chapter18 最終新人研修三日目

挿絵(By みてみん)





 ナノスの防魔法文字近くにキャンプ地を移動し終え、すっかり夜の闇で辺りが見えなくなったナノスの森。ただ一つ、焚火の灯火が当たりを照らしている静かな森で、セリーニは再び日記帳を広げていた。



(少しずつ、長く薬物を取り入れていて突然摂取を止めた場合、身体は緩やかに薬の症状が抜けていき、脳や身体が薬を欲する事によって中毒を自覚するものだと習いました。……ならば、ネリアの中毒症状は、必ず薬物を投与する人物が側に居て、ある日を境に接触が無くなったという事……)



 少しかさついている指でページを捲っていく。どこかにその痕跡がある事を祈りつつ、少し丸い字を追っていく。



 ランプの明かりが揺れる。その揺らぎに気付いてセリーニが顔を上げると、簡易椅子を持ったカーラがセリーニの隣へと腰を掛けるところだった。随分と集中していたのか、隣に来るまで気が付かなかったセリーニに、カーラは軽く口元に弧を浮かべて笑っている。



「気配に鋭いセリーニ隊員が、それほどまで集中するのは珍しいな」

「すみません…警戒態勢であるというのに」

「気にするな。交代制で、今休憩中だというのに気を張る方が間違いだからね。まぁそれでも珍しい事に変わりは無いが……また見ているんだな」



 簡易椅子を広げて隣に座ったカーラは、日記帳へと視線を向けてそう語ると、火の番をしていた隊員に向かって"代わるから休んでおくと良い"と声を掛ける。ぺこりと頭を下げて簡易椅子を畳みテントへと戻っていく隊員の背中を二人で眺める。



「今日は一日大忙しだった裏で、セリーニ隊員の弟くんが作った薬を元に、多数の研究員達が急ピッチで特効薬を作っている。明日には出来上がっているとの事だ」

「…!そうですか…」

「だが、特効薬が出来たからと言って、犯人を野放しにしている現状は変わりない。……別件は何だった?」

「友人の行動記録を出来るだけ教えてほしいという事でした」




 パチン。火種が弾けて夜森に舞い上がる。別件の内容を知らされていなかったカーラにセリーニはそう伝えると、納得の頷きを小さくしながらカーラは新しい薪をくべていく。


 弟の危険な行動で、命を救う薬が出来上がるのは良いことだが、姉であるセリーニの心境は複雑だった。ああいった危険を再び起こさせない為にも、犯人を必ず捕まえなければならない。



「……セリーニ隊員は、今回の薬物中毒事件をどう見る?」

「どう、とは…?」


「殺す意味を持った事件か、それともただの殺人快楽主義か、だ」


「……」



 日記帳に視線を落としたままカーラの言葉を脳内でループさせる。犠牲者は決して少なくなく、一貫して同じ手口による犯行である事。だが人を殺すためにわざわざ薬物中毒という回りくどい物を使うのか、そう考えたセリーニは、



「――ある種の実験なのでは、」



 そう答えた。その答えにカーラも同じだと言わんばかりに組んでいた脚を変えて、深々と簡易椅子へ凭れかかる。ギシリと簡易椅子が軽く悲鳴を上げるが潰れる事は無い。




「良い判断だ。中央に事件報告の資料が回ってくるときに毎回思っていたんだ。態々中毒性を持たせて殺す意味をな。別に人を殺すなら即効性の毒でもいい、小指の爪先だけでコロッと人が死ぬような薬をナノスで集めることぐらいは可能だ。でもそれをせずに、中毒によって人を殺す手間を掛ける理由なんて一つか二つぐらいしかない」


「……」



 カーラの言う事は最もだ。人を殺す手段はそれぞれかもしれないが、殺すだけなら"時間"など必要ない。薬を扱うならばそれこそ即効性の毒で殺してしまえばいいのだ。


 だが犯人は"時間"を掛けて人を殺している。中毒に堕とす為の薬の製作、中毒から抜けられないようにするための時間、全てが回りくどく、そしてただ殺すためだけの行いではないという事。



「……最初の犠牲者が、セリーニ隊員の友人だ。その日記帳は、きっとセリーニ隊員を犯人の元へと導いているのかもしれない。…あー、これはあくまで私が勝手に持ち出したものだが、」



 カーラはそう言って懐から数枚束になった資料を取り出して、焚火に視線を向けたままセリーニの元へと差し出す。緋色の灯火によって見える資料の文章には、連続中毒死の犠牲者の行動記録と書かれており、セリーニはそれを受け取って膝の上へと置く。



「本当は副隊長各以上しか扱ってはならないものだが……私が勝手に持ち出して、勝手に落とした。出来れば拾ったやつは燃やしてほしいところだなぁ」

「……ありがとうございます、カーラ隊長」



 わざとらしいカーラの言葉に、セリーニは小さく礼を言って資料を眺め始める。



 必ず共通する事があるはずだと信じて。




chapter18突入です。皆さん今日で三日目が終わりますが良い正月をすごしていますか?

私は昨日のうちに全ておせちを食べきってしまったので、今日はのんびり柿食べて過ごしてます。もう歯ごたえの無い柔らかい状態なので、横半分に切ってスプーンで掬って食べてます。うまし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ