Chapter17-4
とある離島で、女性が中毒死として見つかってから訳半年後、離島全ての人物が中毒作用による様々な死を迎えた。
一人の中毒死が見つかってから約一年後、ナノスの研究員が出張で離島を訪れた時、初めて離島が死の島になっていた事が分かったのだ。
ネイドは街を死に追いやる為に目を付けたのは"防魔法"だ。
街を護る防魔法文字は、魔物の攻撃等で傷つき、必ずメンテナンスが必要になる。地脈のマナを魔力に変換し、防魔法文字として形成して再び街の安全を守るそれは、ある意味"そこに居る人間全てに干渉できる魔法文字"だ。
離島の防魔法文字管理室は灯台にあり、警備する者はすでに中毒死を遂げている。管理者はネイドから薬を買っていた中毒者で、ネイドの頼み一つで関係者以外立ち入り禁止の灯台内部へと迎え入れてしまった。
ストッカーの上部のみに穴を空け、マナに薬物を入れて反応させたものを、防魔法制御装置のスロットにセットする。管理者に起動させるように言うと、二つ返事で管理者は防魔法制御装置を操作し、スロットにセットされた薬物入りのマナを離島全域に広げた。
ネイドは予め薬物中毒にならない様に予防薬を打っているため、離島全域に広がる薬の中毒になる事は無い。
防魔法制御装置を起動させた管理者は、うっとりとした表情で粗相をしてしまっている。もう廃人寸前の男はこれからどうなるのか、と観察すると、そのまま大きく万歳をして海へと飛び込んでいった。幸福からの運動発散行動は過去に二件ほどあった珍しいケースだと、ネイドはノートを取りつつ灯台を降りる。
島の住民はすでに理性を保つ者などいなかった。ある者は床に伏せてひたすら何かに祈り、ある者は暴行を働き、ある者はそこに居ないなにかに話しかけ、ある者は下腹部を丸出しにして趣向を満たし、ある者は身体の痛みを訴えた。
幻覚を見てそれぞれの幸福、そして恐怖を得た住民は、次第に狂い、殺してくれと叫び出し、その叫びを聞いて泣きながら、あるいは笑いながら殺す者が現れる。
ネイドは歓喜した。人が最大級の幸福を得ているにも関わらず、死を選ぶ存在が居るという事に。人の手で、自分の手で、ネイドの視界には命を散らしていく人の姿が映る。
だがまだ足りなかった。幸福ばかりが先に来て、あとから恐怖がやってきては意味がない。同時に、幸福と恐怖の間に挟まれた生き物の本能が見たい。
そうネイドは改めて考えながら、一人で離島を脱出したのだった。
ネイドはその後、アステラス国の北側にある小さな村にたどり着き、住民全員を薬物中毒にして観察する。それを繰り返す事約四回、少年だったネイドは、すっかり大人になっていた。
知識も経験も増えてはいたが、相変わらず目的が達成出来ておらず、五つ目の村も住民全て廃人にしようと計画した時、一人の白い男がネイドの元にやって来た。
『私に御用ですか?』
『あぁ。お前が本土に来てから、三つほど村の住民を消したことを消したのを知っている』
『…計四つですが、二つ目から見ていたんですね』
三つという言葉に、随分と前から観察されていた事を知るネイドは、白い男の瞳がアスタリスク形である事に気付いた。今まで見ていて薬物に干渉していないという事は、魔族には効かないのだろう。
『それで、どうするおつもりで?』
『お前の情報によると、人間に幸福と恐怖を同時に与えたいという願望があるようだ』
『…!……、』
メモに残したこともないネイドの願望を言い当てた白い魔族。青白く輝く小さな魔力の塊らしきものを見ながら語る白い魔族に、ネイドは初めて言葉を詰まらせた。
『簡潔に言おう。そのまま続けてくれ』
『……は?』
『そのまま続けてくれ。足りない物はこちらが用意する』
拍子抜けだった。てっきり妙な要求が来るかと思っていたネイドだったが、そのまま続けろという言葉に肩の力が抜けてしまう。むしろ協力するのか、足りない物まで用意するという待遇。
なにかを企んでいるのか、はたまた此方に甘い罠を仕掛けているのかは分からないが、使えるモノは使ってしまおうとネイドは結論を出し、協力者を得たのだった。
魔族の協力を得たネイドは五つ目の村の住民を全て中毒症状にしてメモを取りながら、ある事を思い出していた。
夜の海、船の光で黒い影になっていたものが飛び散る一部始終だ。興奮、幸福、そして絶望を同時に受けたあの完璧なサンプルは、どうしたら引き起こされるのか。
研究所でなにを研究していたのか、ナノスと関係あるならば、ナノスに行くべきだ。そう考えたネイドは、次の行き先をナノスに決める。
そして彼は出会った。惹起の誘花という禁断の花に。そして彼は知識を生かして研究員ではなく教師になり、社会科見学にてこっそり拝借した一粒の種から研究を始めたのだった。
全ては己の見たい答えを得る為に。
今日は予約投稿です(現在17:57)
お正月の天気が曇りのち雪と書いてあったので、初日の出は拝めなさそうです。今年は拝めてたんですけどねぇ…。
予告していた通り、正月もナノス編が終わるまでは更新を続けます。多分ですが余裕で一月末ぐらいまで続く予定です。ナノス編が終わったらお正月休みをください。
そろそろブクマが50いきそうですね…!!猛者が沢山いて私はうれしい!