表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/175

Chapter17 良心 - syisi = neid

挿絵(By みてみん)





「――以上だ…。ごめん、ねーちゃん。おれどうしてもやらねぇとって思って……」

「……一先ず、レヴァンの身体が無事でよかったです。ただ、先生が保管していた惹起の誘花の種を無断使用した事については、法に従って罰を――」


「おいおい、そりゃあ堅物すぎるぜセリーニ隊員」



 昇りだしてきた朝日が窓から差し込んできた頃、友人が例の事件に巻き込まれた処から、自分の身体を実験台にした処までの全てを語ったレヴァンに、セリーニの静かな声が一室に響く。


 確実に怒っている事が分かる声色だった。身内だからこそきっちりと罰を受けねばならないと言おうとしたセリーニの声を、聞き覚えのある低音が止める。



 ほんの少し隙間の空いたドアから聞いていたのだろう総隊長が、肩を竦めながら室内に入ってくる。自動でロックされる仕組みのドアがなぜ、とエルミス以外の三人は驚いているが、エルミス本人は"荷物を持ったらすぐに帰るだろう"という考えと、ドアノックで一々鍵を開けるのが面倒な為、職人が誰でも入れるようにした癖がここで出てしまった。



「総隊長…!なぜここに、」

「なぜって、お使いから帰ってくるのが遅いから、重すぎて運べねぇのかと思っちまってなー」



 そう言って作業部屋に入り、大きな風呂敷を二つ抱えて出てくると、セリーニとリーコスは慌てて一つずつ持ち抱えようとするが、総隊長は床に置いて二人を制するように軽く片手を上げて止める。



「話はその坊主が薬を作るとこから聞いていた。想定するに昨日の日中に起こった未遂事件の友人がその坊主だったんだろう。報告しか聞いていなかったが、今俺の中で辻褄があった。……でだ、セリーニ隊員」

「は、はい……」


「法の罰ってやつは、なぜあると思う?」



 定められた法を破れば、必ず罰を受けなければいけない、というのは、小さな子でも理解している事だ。だがそれが"なぜあるのか"と言われれば、セリーニは少し考えた末、自分の答えを言葉にする。



「法を破るものがいるから、でしょうか…」

「そうだ。法ってやつは一種の縛りだ。その縛りを破ろうとする"悪い奴"がいるから、罰を設けた」



 ばちん、と指を軽く鳴らしてセリーニの方に指をさしながら正解を語る総隊長。



「だがそれは、悪い奴が悪い事をするために法を破るから罰を設けるのであって、」

「……」


「悪い事に使わず、誰かのために法を破ってまでも物事を完遂しようとしたやつを、罰するのは粋じゃあねぇ」



 その言葉にレヴァンの落ち込んでいた表情が和らいだ。ギルドの総隊長といえば、アステラス国のトップ層と言ってもいい。その総隊長に違法である惹起の誘花の種を無断使用、ましてや自分自身を実験台にするという"やらかし"を、見逃してくれるとは、とてもではないが思わなかったのだ。



「だがまぁ、それではセリーニ隊員の気持ちが収まらねぇってんなら、俺が考えた罰則を坊主に受けてもらう。それでいいか?」

「……ありがとうございます総隊長。その罰則を、弟にお願いします」

「だ、そうだ。よかったな坊主!」

「は、はい…!!ありがとうございます総隊長殿!!」



 にっ!と眩しい歯を見せて笑う総隊長に、完全に青い顔に血色が戻ったレヴァンも礼を言って罰則を受ける決意を固めた。




 総隊長が指示した罰則は二つあった。


 まず一つ目は、実験結果と薬の成分表を研究員たちと共有し、薬を無効化する為の新薬を作る手助けをする事。



 二つ目は……、



「おっっっっ……っも…!!」

「じゃあ、このナノス支部一番の地理を持つねーちゃんの指示に従って、空のストッカーを全部配ってってくれな。じゃあ頼んだ!」



 セリーニとリーコスは総隊長の指示でキャンプ地に戻り、総隊長とエルミス、そして大量の空のストッカーが入った風呂敷二つを持って玄関前までやって来たレヴァンが、ストッカーを割らないようにゆっくりと腕を下ろして休憩する。


 玄関前で待機していたナノス支部のギルド隊員に軽く説明した総隊長は、休憩していたレヴァンの背中をバシバシと軽く叩いて励ます。



「頑張れよレヴァン」

「エルミス…がんばる…!」



 再び風呂敷を持ち上げたレヴァンは、エルミスの労いに頷くと、ギルド隊員の背中を付いていくように歩き出した。


 後姿が完全に見えなくなるまでエルミスは見送っていると、隣に居た総隊長が、レヴァンから預かってきたノートをぱらぱらと捲って確認している事に気付き、総隊長に視線を向ける。




「分かる?」

「いんや。専門家でもねぇからさっぱりだな。……早いとこ犯人をひっ捕まえておかねぇと、対策をしても意味がない。んじゃ、俺は代表のところに行って声掛けしてくるから、エルミス坊も街歩くときは気を付けろよ~」

「ん、総隊長も気を付けて」



 ぽん、とエルミスの頭に軽く手を置いて髪を撫ぜた総隊長は、そのままノートを丸めて歩き出した。"丸めると丸めた皺が付くんだよなぁ"とエルミスはぼんやり考えつつ、今日も暇になってしまったため、適当に街を散策する為に歩き出す。






 早朝静かなナノスとは違い、陽が完全に顔を出せば木々の音と共に人の声も風に乗ってやってくる。朝食を食べ損ねてしまったエルミスは、途中テイクアウトのドーナツを買って頬張りつつ、脚が向かった先は時計塔前だった。



 整えられた芝生を歩いていき、建物の中に入る。思い出すのは新しい夢の事だ。



「オレの先祖の知り合いが、時計塔を設計したって事か…?それにしては、」



 "ちょっと馬鹿っぽい奴だったな、"という言葉を呟きつつ改めてゆっくりと一階部分を一周していく。



 神代文字で書かれているのは、主に関門としての役割を得ている柱との連結、六つの魔法文字を形成する為に必要な補助、そしてナノス全体の濃いマナを魔力に変換するための魔法文字だ。複雑且つ織り交ざった呪文が多く並んでいるが、エルミスが理解できるのは半分程度。残りの半分は専門外の為、普通の魔法文字で書かれていても、理解できるのは魔法建築に携わる人間のみだろう。



 だがエルミスが知りたいのは、この魔法文字をどうやって刻んだか、だ。




(この魔法文字が刻んである素材、透明な金属とほぼ同じだ。一見、石の材質が見えるから、石に刻まれているのかと思ってたが……、内側だけ壁紙みたいに透明な金属が貼ってある)




 刻まれている神代文字に指を滑らせる。少しざらりとしている指触りに、一体どうやって綺麗に魔法文字を刻んだのかと考えていた時、後ろからポン、と肩を叩く手にびくりと驚いて後ろを勢いよく振り向いたエルミス。


 その驚きとは真逆の笑顔を向けたのは、ナノスに来て初日に顔を合わせた人物だった。




chapter17きちゃあああああああああああ


と、いうことでね。このchapterは、ちょっとだけ残酷な表現がやってきます。前書きで色々注意事項等を書いてお知らせするので、苦手な方はさらーっと読み流す程度にお願いします。


前までうちのカレーがごろごろ野菜だったんですけど、食べにくいのでちっちゃく切りました。好評です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ