第4話 扉
揺れる。
その爆発音の正体が何かの砲撃音だと気がついたのはすぐだった。
もちろん部屋も揺れて天井から埃が、小さい石が落ちてくる。
それだけではなくてよくわからない装飾品や調度品が床に散らばった。
族長さんはというと目を見開いた後、何か諦めたかのような顔で目を細めていた。
いや、諦めというよりかは……ちょっと違うようなそんな感じだった。
それにしても、僕はこの音を——聞いたことがある。
不気味だ。
どこで、いつなんて知らないけど、とにかく聞いたことがある。
そして変に落ち着いている。自分でも不思議なくらい。
砲撃されたのに、崩れた音がしたのに、この部屋が崩れて生き埋めになるかもしれないのに、なにも感じない。
これから起きることを"知っている"みたいに。
おかしいよ。
もし、崩れたりして生き埋めでサヨナラなんて嫌だ。
でも今は出ない方がいい気がする。揺らした犯人がまだいるかもしれない。
人じゃないかもしれないけど。
取り敢えず扉を開けていつでもでれるようにして、外から見えない位置に外かトーアの人が来るまで隠れておこう。
崩れそうになっても族長さん抱えてでる時間ぐらいなら、きっとあるはず。
……抱えれるかな。
立ち上がる僕を族長さんは何も言わなければ止めなかった。
なんで悠々としているんだろこの人。
扉を、……引く。
「……えっ」
水浸しだった。
見える景色は穴だらけになっていた、なんてことはなくてそこまで変わっていなかった。
いなかったけど……湖には波ができて打ち付けて、地面には水溜りがたくさんできて、岩壁の一部らしい砕けた岩が落ちていた。
異様だった。雰囲気にしろ何にしろ。
そして、ナニカが、空から降りてきた。
それは宙に浮いていた。
物理的に浮くはずが無い 。
それは変だった。
よくわからない、何かがある。
それは大砲だった。
金属で補強された木の車輪に金属の砲身を挟む二本の木製の腕木でできた。
それは黒い靄をまとっていた。
でもただの靄ではなくて、おぞましいと感じるような。
それは乗せていた。
巨大な黒い靄の塊に黒い瞳の生き物とは思えない何かを。
それは、僕に砲口を向けていた。
その瞳で僕を見つめながら。
心臓を掴まれたように、
動けない。
鼓動だけが早くなっていく。
動けない。
砲口に黒い光が吸い込むような光が収束していく。
だめだ、動けない。糸に縛られているみたいに動けない。目が離せない。
「お前さん! 部屋入って閉めろ!」
声がかかる。物真似下手のあの人の声だ。
でも、どこにもいない。どこだ。
そんなことより、閉めないと!
足をひく。
あれ……動く、体が動く!
部屋に入って、手を掛けて、扉を閉めて背中で押さえる。
「よーっし、止まった! 撃てッ!」
別の人の扉越しでもうるさいぐらいの声が聞こえてくる。
直後、扉の隙間から強い、まばゆい光が射し込んでくる。
それに負けないぐらいの金切り声のような耳障りな音が響き渡る。
ナニカの断末魔。
見ていなくてもそうだと思った。
「もう大丈夫さ、開けてみんさい。」
ずっと座っていた族長が僕の前まで薄暗くみえる部屋の中歩いてきてそう言った。
その言葉通りに恐る恐る開けてみる。
さっきとは変わらない景色。
でもそこには一門の大砲が、車輪は外れ腕木は折れた大砲が鎮座していた。
「あれはな、魔物じゃ。酷使され捨てられた物は魔界に喚ばれ魔が宿る」
魔物と成り果てた大砲を哀れむように族長さんは言葉を紡いでいった。
「ここはな大昔、といっても200年前程じゃが魔界と繋がっていた場所じゃ。ちょうど湖のところじゃよ。今は閉められている扉じゃが稀にあやつらは出てくる」
「そんな所に住んでおる我らと共にするか出て行くか、太陽が7回昇るまでに決めなさんな」
大砲を見に綺麗な白髪の人が集まってくる。
「ここはトーア、俗に言う死霊術を扱う一族の村じゃ」
集まった人達の話し声の中その言葉ははっきりと僕の耳に入ってきた。
死霊術という族長の声はどこか、とても寂しそうだった。