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第3話 泡




「おかえりレイ君!」



 石壁に沿って螺旋状になっている坂を降りた所の水瓶の上でバケツをひっくり返していたらティアさんが出迎えてくれた。


 服も着替えたみたいでオレンジ基調のワンピースを着ていた。



 重かった……。




「ただいま。……れい?」





「そう! レイ君、(きみ)のことだよ。ほら名前ないと不便でしょ?」





 本当、唐突に名前……貰ってしまった。



 そっか、僕はレイでいいんだ。

 レイ、レイ…………レイ、か。なんか嬉しいや。


 


「ありがとう ございます」





「それでね、落ち着いて聞いて欲しいんだけど……なんとレイ君!」




「空から落ちてきた、ですよね? 」




「そうそう! 本当に落ちてきたかはわからないんだけど外に出てたら光の柱が空から射していて……」




「って、あれ? もしかして思い出した?!」




「いや、それが全然何一つ思い出せてなくて。その話なら外にいた男の人が少しだけ教えてくれたんです」




「外に? ……ま、いっか。で『光の柱』だからレイ!」




 私は泣き虫だったから(ティア)って呼ばれてるんだ。気に入ってるけどね。

 とニコニコと付け足しながら由来を教えてくれた。


 光、か。




「2文字で私より短いし覚えやすいから忘れないでしょ?」



「……うん、確かに忘れない」






「あ、それと楽に話してよ!」



「つまり……?」



「私周りが歳上ばかりで慣れてないんだよ敬語使われるの。だから普通に、さっきみたいに友達として話してくれないかな?」



「友達として、っていいの?」



「うん、私がレイ君と友達になりたいの。友達になってくれるかな?」




 こんな、記憶もない出自不明な僕と友達になってくれるなんて。


 答えなんて、もちろん——



「うん、よろしく」



 良いに決まってる。



 ティアちゃ……ん……。ティアさんだ。さん。

 向こうも君付けだし、問題ない、はず。



「で、帰ってきたところすぐで申し訳ないんだけど、長老のところ今から行こうか。会いたいんだって」



 町でも村でもなかった。一族の集落なのか。




「うん了解。この服装のままで行って大丈夫?」




 こう、位の高い人と会うときには正装に着替える必要があるんじゃないのかな、とは思った。

 いや、今の僕の服装も正装といえば正装に近いんだろうけど……。


 ちなみに僕が今着ているのは、いわゆる教会とかで司祭さんが着る……えっと、そう、キャソックだ。紺色の。



 まぁ、絶望的に似合ってないんだけど。これでいいのか、本当に微妙なところ。





「大丈夫大丈夫! 族長そんなこと気にしないし緊張しなくてもいいと思うよ!」



 「あとさ、服全然似合ってなくてもきにしないで!」とティアさんはにっこりと、笑って、右手を握って親指を立てて、追撃してきた。

 いや、僕だって好きで着ているわけでは無いし……、いや好きで着てたのかもしれないけど!



 少なくともレイは好きで着ているわけではないんだ!





「よし、行こうか!」




 揺れる茶髪についていく。



 にしても、何でここに水が沢山あるのに僕はわざわざ登って水を汲みにいったんだろう?



 気泡が上がっていく。


 ぱっと見た感じ凄い綺麗で透き通っている。底まで見えていてもいい気がするけど暗くなっていて目を凝らしても全く見えない。

 ちょっと不気味なのは本当に水があるだけで、生き物もいなければ水草も何も生えていない。あっても岩だけだ。




「おばぁーちゃーん! 連れてきたよー!」



 そう言いながらティアさんはいくつかあるうちの、1つだけ、ほんの少し、木の色が違う扉を開けた。


 意外と近かったこととか、割と丁寧に開けたことがどうでもよくなるぐらいにティアさんはすごいことを言っていた。




 おばあちゃん。


 ティアさん、もしかしてお孫さんで次期族長なの?





 そんなことを考えていたら奥からしわがれた声が聞こえてきた。



「はやく、はやく入りなさいな」



 捕まえて食べてやろう、そんな声ではなくて普通に招いている声。

 いや、当たり前か。



 暗くて見えない部屋の奥から視線を感じる。

 いや、当たり前だよ。族長さんがいるんだから。



「失礼、します」




 部屋の中には高そうにみえる絨毯に色とりどりな装飾品が壁を彩っている。

 他にも怪しげな煙が部屋中を漂っている。

 そして、何も匂わないのが怖い。


 そして、族長はというと目の前の絨毯の上に置いてある椅子に座っている。

 長い逞しい髭を生やして杖を持って威厳がある——ではなく、小さい。というのが第一印象だった。髭もなければ杖も持っていない、威厳がある、というよりかは親しみやすいおばあちゃんだった。



「よう来なさった。適当に座りな」




「…………」




 緊張で唇が乾く。


 僕も族長さんも何も言わないままで数分が過ぎて、重たい沈黙が流れていく。


 水中にいるみたいに息がつまる。

 何かを声に出そうとすると泡になって消えていってしまうような。


 族長さんの視線が怖い。






「お主の目、見せてみさい」



 沈黙を作ったのが族長さんなら壊したのも族長さんだった。


 不意に立ち上がったかと思ったら丸めた背中をそのままに近づいてきた。



 いや、近い、近いです族長さん。

 この方目見えてるのか、というか全部盲点なんじゃないかってぐらい近い。



「こっち、みーさいな」


 恐る恐る目を合わせてみる。

 怖くなるぐらいにじっ、と瞼がほとんど落ちているせいで小さい紫の瞳が見ていた。



「……何もありゃせん。空虚じゃ。お主の中身は空洞かい」



 そんなこと、言われても……。

 僕は何も覚えていない、そりゃ空洞だよ。




「それにお主、何人おる?」



「それって、どういうこ——」









 突然、爆発音が響いた。






 そして崩落音。

 何かが崩れていく。



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