7月っ!
「またも歩く。」
如月市のスポーツ新聞を読むとこの記事が出てくる。これを読んでいる主人公は瞳子にしゃべりかける。
「世間は彼の価値に気がついたようね。」
石田ユメはシーズンが始まって以降はなかなかヒットが打てず、打率は低かった。しかし彼女は優れた選球眼のおかげで高い出塁率は維持出来た。
「ファンは四球でしか出塁できない選球だと、ヤジっていましたからね。調子のよいものですよ。」
「だけど誰もが見落としていた価値を私たちは見つけるわ。」
世間でもレイカーズ首脳陣が出塁率を重視して補強に走ったことは、今の段階では広く知られるようになった。そしてレイカーズが成功したことで他の球団も参考の対象にもなる。
しかし現在のレイカーズのデータ担当の意思決定科学部門、通称チームセイバーはさらに精緻されたデータを作成している。
そして主人公の頭の中にはさらにデータを活かしたチーム作りのアイディアがあった。
「信頼できるリリーフは最終回に登板させるべきか?」
ある一室には監督、コーチ、チームセイバーが集合していた。そして主人公はある質問を出す。
「最終回で点を取られるわけにはいかんからな」
監督は話す。最初はあまりチームセイバーを信頼していなかったが、最近は作成したデータを参考にしてくれている。
「それにクローザーには特別の資質が必要だ。失点が許されない場面の重圧は相当なものだ。」
「私たちは精神面についてはデータ化は出来てはいません。」
「ですから選手の精神力についての評価は、監督とコーチたちの判断に任せます。」
主人公は現場の人たちに対する配慮は忘れない。前の世界であった現場とアナリストの軋轢は、野球のデータ化を
「それについては任してくれたまえ。しかし君には何かの提案があるんだろう。」
「はい、この資料を見て下さい。」
そこにはイニング別の失点とアウトカウントとランナー別の得点期待値を表したグラフである。
例えばノーアウトランナー無しならば、平均で0.45の失点となる。
「では野村さん、解説をお願いします。」
最近はデータアナリストとして球団関係者に信頼されてきた少女は、多少の緊張感がありながら解説する。
「このグラフからバントとクローザーについての私なりの考察を言います。」
無死ランナー一塁の場合の得点期待値は0.818
1死ランナー二塁の場合の得点期待値は0.624
つまりバントをしてランナーを進めても、0.194点分の得点の可能性を減らしていることになる。
「野球は1イニングで3つのアウトを取らない限りは攻撃は続きます。なので基本的にはバントは貴重なアウトを相手に献上することになります。」
ただし、接戦の試合終盤や投手が打席に入るなど、バントは絶対に無駄とは言えない。用は無死ランナー一塁ならば、条件反射的にバントするのは良くない。
「また最も信頼出来るリリーフがいつ登板するかについてですが、9回とは限らないとも言えます。」
無死ランナー二塁、またそれ以上にランナーがいたり進んでいる場合。
1死ランナーで二人以上でかつ三塁にいる場合。
この条件では得点可能性が1.00を越える。つまりほとんどの場合は投手は失点を許してしまう。
「しかしリリーフ登板する投手もブルペンでの調整がある。役割通りにしないとケガや本来の力を発揮できないと思う。」
投手コーチからの突っ込みに野村肇は答えられない。そこで主人公は助け船を出す。
「基本的にはそうですね。しかし長いシーズンの中でも負けられない試合があります。またプレーオフのような短期決戦もあります。」
「用は789回を予定通りに投げさせることを金科玉条にしてしまうと、クローザーの無駄遣いになってしまいます。」
「そこの所は監督、コーチ、選手の皆さんで話し合って下さい。」
監督はしばらく考えたあと
「なるほど、頭に入れておくよ。」




