春期キャンプやぞっ!
2月1日、如月レイカーズの春期キャンプが始まる。今季も優勝してそして一部リーグへ進出することを目標とする選手、なんとかレギュラーを掴み取りたいと考える選手、右往左往する新人。
そして新しい環境に溶け込もうとする補強選手。
オフシーズンに補強された選手の評価は地元紙のスポーツ欄には、良くて取り敢えずパッチワーク的な穴埋めで補強、悪くて戦力向上はしていないというものであった。どちらにせよ世間の評価は芳しくはなかった。
そのなかで一番評価の低かった山崎レイは今季の復活の為に投げ込んでいた。投手の彼女の昨年の成績はとても酷かった。
登板30試合 8勝15敗 防御率4.90
投げていたボールの感触は悪くなかった。それなのにアウトが取れない。一昨年には活躍したために余計に苛立ちが抑えられなかった。
「私はこんなものじゃない。見捨てた球団を見返すためにも、拾ってくれたレイカーズに報いるためにも。」
補強の評価ではまあまあだったのが石井ユメであった。全体的なツールは平均的なものという評価。本来は三塁手ではあるが、このキャンプでは他のポジションも練習していた。
それは主人公のある構造からである。
「よっ、よろしくお願いしますっ!」
そうたどたどしく話したのは今年からプロ入りする清水まゆである。もともとはこの王国のマイナー競技をしていたが、高校生の頃にその競技では低身長だという理由で、部活に入ることが出来なかった。
そして代わりにに野球部に入った。初めは本当に下手ではあったが、優れた身体能力と覚える早さから3年生になる頃にはレギュラーを取ることが出来た。しかし本来ならプロ入りするほどには結果は出してはいなかったが。
(大丈夫かなぁ?)
(本当にやっていけるのかな?)
彼女が心配するのは無理もない。彼女の野球のキャリアはたったの3年、それなのに彼女は二部リーグとはいえ、立派なプロスポーツチームに入ったのだから。
「教えてくださいっ!」
キャンプ地で元気な声が響く。東條有香の声だ。今年の彼女はたくさんのコーチに教えを乞えた。本職である一塁手では打撃コーチに頼むことは多くても、まさか守備や走塁、コンディショナー、挙げ句の果てには投手コーチやバッテリーコーチまで。
そこまで教えを乞う者は他にはいなかった。
ある者が何故ここまでするのか聞いたところ、
「上手くなりたいからです。一番守備の上手い一塁手になりたいです。」
これを聞いた者は失笑したが、次を言葉には驚愕してしまう。
「走塁や盗塁でもチームに貢献したい。打てるためにも投手の心理を知りたい。上手くなれるツールがあるなら何でも伸ばしたいです。」
これを聞いた人々は皆が確信した。コイツは伸びると。
色々な思惑と希望の中で、キャンプの日々は続いていく。
「BABIPだったかしら?」
瞳子は主人公に尋ねる。既に聞いた言葉だったが、聞き慣れない単語なのでもう一度聞いてみた。
「そうです。それとFIPですね。」
これは移籍市場で獲得した山崎レイについてのことである。去年の成績は8勝15敗、防御率4.90である。
しかしBABIPとFIP、2つの指標では彼女の成績は旧来の指標が示す結果より、良い内容の投球であったことを教えてくれる。
まずはBABIP。これは運を示す指標でもある。野球という競技はどんなに良い当たりの打球も守備の真正面ならアウト、逆に詰まった当たりでも野手のいない所へ飛べばヒットになる。これを考慮したのがBABIPである。
概要は本塁打を除くインプレーになった打球が安打になった割合。計算式は(安打-本塁打)÷(打数-本塁打-三振+犠飛)
この指標では全プレーの平均値は.300であり、基本的にはだいたいの選手はこの数値になる。逆に運がよかったり悪かったりするとこの数値より大幅に上下してしまう。
つまり、投手からすると、.300より数値がかなり低ければ運が良かったことになる。強い打球が野手の真正面に来た割合が高い。逆にに.300よりかなり高ければ運が悪かったことになる。打ち取った当たりが野手が取れない場所に行ってしまった割合が高いことになる。
この指標では山崎レイのBABIPは.355で、平均値よりかなり高いことになる。彼女の昨シーズンは運の悪いシーズンでもあった。
そしてFIP。この指標は擬似的な防御率である。
投手にとって安打になるかどうかは運が介在する。しかし与四球、被本塁打、奪三振は投手の責任である。そしてこの指標はこの3点を重視することで投手の真の力量を出来る限り正確に測ろうとするものである。
この指標では山崎レイのFIP3.76。つまり彼女の本来の力量はこれに近い防御率を残す投手ということになる。
「昨年の山崎レイの成績は本来の力量からきたものではなく、運の悪さで成績を落としたものだと推察出来ます。」
そしてレイカーズは安価で彼女を獲得することが出来たであった。
「肇ちゃんやゆかりさんには頭が上がらない思いですね。スカウトたちが納得出来るだけのデータを出してくれたのですから。」
この新しい指標だけではスカウトたちには納得は得られなかった。しかし彼女たちが算出したデータである球種別の空振り率をだしてくれたのは、短期間で作ったものなので多少は不完全ではあったが、説得には十分なデータであった。
山崎レイの球種別の空振り率は
速球 21.7%(全体平均17.2%)
スライダー 43.5%(全体平均34.5%)
チェンジアップ 20.6%(全体平均31.5%)
全球種空振り率 26.8%(全体平均23.6%)
彼女は空振りが取れる優秀な投手であることは十分に説明出来たおかげで、昨年の不調は運の悪さであったと説明出来たのであった。
MLBの実在する選手を参考にしました。




