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五話 クロエの任務

 あの日、私はアールネスの王城へと呼び出された。

 案内されたのは、会議のための個室であり……。


 長机の上座には王様が座っていた。

 その左右には、アルマール公とフェルディウス公が控えていて……。

 それだけでなく、ティグリス先生と父上まで居た。

 先生と父上は、長机の左側に並んで座っていた。


 私は下座の席へ促されてそこに座る。


「時間がないので、単刀直入に言おう。すぐに南部へ向かってほしい」


 すると、王様がそう告げた。


「へ?」


 素っ頓狂な声が出た。


「どういう事ですか?」


 すぐさま問い返す。

 しかし王様は答えず、アルマール公を見た。


 アルマール公が一歩前に出て、話し始める。


「本当に時間が無いので簡単に説明しよう。今、南部のカルダニアでは第一王位継承者ジェスタと第三王位継承者アーリアの率いる反乱軍が政変を起こそうとしている」

「それで?」


 だからどうして私が行かなくちゃならないの?

 帰ってきたばかりなんですけど?


「我々国衛院は、秘密裏に反乱軍側の支援を行っていた」


 反乱の扇動をしていたって事?


「何故ですか?」

「首謀者であるジェスタ王子が、我が国と融和する考えを持っていたからだ。彼を王位に着ける事で、少なくとも彼の治世の間はアールネスも平穏を獲得できる」


 確か、南部は定期的に攻めてくるんだったか。

 でも、その王子様率いる反乱軍が勝てばそれもなくなる、か。


「が、どうやらその反乱軍が国軍とぶつかって大敗したらしい」

「え?」


 負けたの?


「いつの話ですか?」

「三時間前だ。ついさっき急報が入った」


 三時間前の他国の状況を把握する手段をアルマール公は持っているのか……。

 どうやってるんだろう?


「一応、王子殿下と王女殿下は逃げ延びたらしい。君には、彼らと合流して護衛をしてもらいたい。彼らの生存を優先して、最悪の場合はアールネスへの亡命を手助けしてほしい」


 何ですと?


「やですよ!」


 私は机に両手をついて立ち上がった。


「何で私なんですか?」

「適任だと思ったからだが」

「国衛院の仕事なんだったら、そちらの人員を出してくれればいいじゃないですか! ルクスとか!」

「残念ながら、愚息では実力不足だ。細作スパイとしての才能はないし、武力で君に敵わない」

「私も細作スパイじゃないんですけれど?」

「君ならできる」


 一言で済ませないで!


「何より、私一人行ってどうなるっていうんですか! 私を何だと思ってるんです? 一人で何十万といる軍を潰せと?」

「君ならできるさ」


 だから一言で済ませるな!


「できるわけないでしょう!」


 アルマール公が苦笑する。

 何、わろとんねん!


「だから言ったはずだ。クロエは嫌がるだろう、と」


 そう、父上が発言する。

 誰でも嫌がると思うよ。


「やはり、私が行こう」

「だから、君とティグリス君は向こうで顔が割れているから行かせられないとさっき言ったじゃないか」


 席から立とうとする父上をアルマール公が制する。


「なら何故呼んだ?」

「それもさっき言ったよ? 参考意見を聞きたかったからだって。君達ほどカルダニアの戦い方に詳しい人間もいないだろう」


 父上に対して、アルマール公は溜息を吐いて返す。


「私としては君と同程度の実力を持ち、なおかつ軍に所属していないクロエ嬢が一番適任だと思っている。機転も利くし」


 ふぅん。

 買ってくれているのは嬉しいけれど、今は嬉しくない。


 ふと、そこでアルマール公は表情を消した。


「これは国の行く末を決める大事な任務だ。あらゆる面で妥協はしたくない。だから、私は君を絶対に説得してカルダニアへ向かってもらうつもりだ」


 真剣な様子で私に言葉をかける。

 私は息を呑んで、アルマール公の話に耳を傾けた。

 傾けざるを得なかった。

 そんな迫力を公は持っていた。


「いいかい? よく聞いて、よく考えてほしい。今のカルダニア王は二度、この国へ攻めてきた過去がある。歴代と比べても、これだけの頻度で攻めてきた王は他にいない。実に好戦的な人物だ」

「……なら、三度目がある?」


 アルマール公は頷いて、先を続ける。


「そして前の戦争が終わって、十年以上が経っている。戦争の準備期間としては十分すぎる時間だ。それでも攻めてこなかったのは何故だと思う?」

「反乱軍の存在があったから……?」

「そうだ。今までは反乱軍の存在を警戒し、容易に戦力を動かせなかった。しかし、その反乱軍もなくなった」

「……でも、反乱軍と戦ったなら、損耗もあったはずですよね」


 その補填のために、また準備期間を要するのではないだろうか?


「あったさ。私もそれを期待していた。しかし、その損耗が私の予想以上に少なかった。それもほぼ皆無と言っていい」


 アルマール公が言うには。

 元々、反乱軍は数で負けていたが、今回の決戦でぶつかり合った結果簡単に敗れ去ったそうだ。

 まさに鎧袖一触の有様だったらしい。


「カルダニア王の内心はわからないが、この数年中に攻めてくる可能性は高い」


 近く、戦争が始まるかもしれないのか。


「一度始まってしまった戦争は、簡単には終わらない。前は大勝したが、今回もそうなるとは限らない。何年も長引くかもしれない。そうなれば、君にとって最も許しがたい不利益を被る可能性が出てくるぞ」

「どういう事です?」


 脅すような口調だった。

 いや、実際に脅しだったのかもしれない。


 その口調に私は警戒と不快感を覚える。


「君達に戦ってもらう事はもちろん。戦況が苦しくなれば、戦力の確保に形振なりふり構ってられなくなる。幼いと形容できるような若い兵士が戦地へ送られるだろう」


 アルマール公の言葉を考え、私はその意図を察した。

 血の気が引く。


「ヤタを戦地に送るつもりですか!?」

「君の家は武家だ。君の娘も軍人になるだろうから、その可能性はさらに高い――ちょ、ちょちょ、ちょっと待った! 二人共、振り上げた椅子を下ろしたまえ!」


 私は立ち上がり、今まで座っていた椅子を手に振り上げていた。

 頭に血が上った咄嗟の行動である。

 どうやら、父上も同じ行動に出ていたらしい。


「そうならないために、今手を打っておく必要があるのだ!」


 アルマール公は焦りながらも、そう答える。


「王の御前だ。とりあえず、二人共落ち着きなさい」


 今まで黙っていたフェルディウス公が厳しい声で言い放ち、私と父上は渋々ながら振り上げた椅子を下ろして座り直した。

 ただ、父上の態度があからさまに悪くなり、机に足を放り出すようにして座り直していた。


 それを見咎めるように、フェルディウス公の表情も険しくなった。


「言葉より手が出るのは、君達の悪い癖だぞ」


 それは……確かにそうかもしれない……。

 気をつけよう。

 ただでさえ武力特化で血気に逸りやすい性分なのだ。

 もう少し、心を落ち着けて対応できるようにならないといけない。


 一つ息を吐いて、私はアルマール公に問いかける。


「私が行けば、戦争にはならないのですか?」

「確実な事は言えない。が、勝算はあるかもしれない……」


 訊ねると、アルマール公から妙にあやふやな答えが返ってきた。


「反乱軍は負けたのですよね?」

「確かに負けたのだが……」


 やっぱり、歯切れが悪い。

 現地の情報を怖いくらい把握しているアルマール公にも、よくわからない事があるというのだろうか?


 もしかしたら、アルマール公自身向こうの状況を知りたいのかもしれない。

 そのために、私を向かわせようとしているのかも……。


 どうしたものだろう?


 だが、反乱軍は負けた。

 ならば、向こうへ行ってもたいした事はできないかもしれない。


 十中八九、亡命の手助けをするという事態になると思う。

 だとすれば、やはり戦争は回避できないのではないだろうか?


 私が行く意味があるんだろうか?

 話を聞いて考えるほど、そう思えてくる。


「現地での護衛ではなく、亡命させる事だけを前提に動けば誰でもいいのでは?」


 私が訊ねると、アルマール公は髭を撫でながら答える。


「不確かな事は言えないが、反乱軍に継戦けいせんの意思を感じる」


 相変わらずあやふやな事を言うアルマール公だが、その言葉にだけは自信を感じた。


 直感か、もしくははっきりとした根拠を持っているのか……。

 根拠があるならば何故それを提示しないのかは謎だが、アルマール公は私を派遣する必要があると感じているようだ。


 アルマール公の言葉が本当なら、戦場で護衛する事になる。

 武力の高い人間がいくべきなのだろう。


 父上やティグリス先生が適任なのだろうが……。

 二人は顔を知られている。


 二人に匹敵し、顔を知られていないという条件に私はぴったりと当てはまるのだ。

 だから私を派遣する事にしたのだろう。


 これは、行くべきだろうな。

 個人的な感情は「行きたくない」と嘆いているが、私の理性的な部分がそう結論を出した。


 アルマール公の話が本当かはわからないが、戦争を回避できる可能性が少しでもあるのならそれに賭けてみたい。


 もしヤタが戦場へ送られる事になったとしても、私がそばに居てあげられれば何とかする。

 命に代えても守ってみせる。


 だけれど、私がその時にヤタのそばにいられるとは限らない。

 それは歴史の強制力があるからだ。


 十五年後の未来に、私はヤタのそばにいない。

 幼い頃からずっと、いないのだ。


 十五年後の様子を見る限り、戦争が起こっている気配もなかったが……。

 それは私が今からカルダニアへ向かった事で回避された結果かもしれないし、何かしらの理由でその時までカルダニアが攻めて来なかっただけかもしれない。


 アルマール公の言葉通り、反乱軍がこれからさらに戦いを継続して巻き返したという事も考えられる。


 少なくとも歴史の流れに抗わなければ、あと十五年は安心だという事になるのだが……。

 それは不確かな事だ。

 ヤタ達が未来へ帰った後、カルダニアが戦争を仕掛けてくるという事もあり得る。


 ならいっそ、今カルダニアへ出向いて戦争の可能性を潰してしまった方が安心だ。


 決まった歴史を回避する事を諦めたわけではないが、失敗した時の事も考えておかなければならないし……。

 私にとれる手段は講じておいた方がいいだろう。


「わかりました。では、行ってきます。……すぐに出る方がいいんですよね?」

「その通り。その前に任務の詳細について話しておこう」


 私が了承すると、具体的な任務についての話し合いへ移行する。

 父上とティグリス先生から、カルダニアの戦力についても聞く事になる。


 向こうにはこちらの素性を知る協力者がいて、合流後に接触してくる予定だという事。

 現地では、その協力者の指示に従う事。

 カルダニアは戦闘に対する魔法技術がアールネス以上に発達しているという事。

 遠距離戦に特化した戦略を取るが、中には古式の闘技を修めた者が居る事。

 ただし父上とティグリス先生が過去に大暴れした結果、今ではその古式闘技が兵士の育成に取り入れられている事。

 重要人物の名前等。


 私が知っておくべき事についての話が終わると、アルマール公がアールネス側の動きを教えてくれる。


「カルダニアの国境までは軍に送らせる」

「軍を動かすんですか?」


 私一人のために?


「そのまま国境付近の砦へ駐留させるつもりだ」

「それは大丈夫なんですか?」


 相手が警戒するのでは?


「今現在、反乱軍の王族は国境の方向へ逃げているそうだ。それを追って、カルダニアの国軍も国境へ近づいている。こちらとしては、その警戒のために軍を移動させるだけだよ」


 そういえば、私が適任だと言った時、理由として軍に所属してない事を挙げていた。

 それは国防のために軍の戦力もできるだけ維持したいという意図があるからだろう。


 しかし国境の方へ向かっているという事は、反乱軍の王族はやっぱり亡命するつもりなんじゃ……。


「まぁ、一応訓練だと言い張るつもりだが」

「それに難癖つけられたらどうするんです?」


 それが火種になって戦争突入なんて嫌だよ。


「今の状況ではできんよ。反乱軍が完全に鎮圧できるまでは攻めたくても攻められない。まぁ、国境付近に部隊を置くくらいの事はするだろうが……」


 国内が安定するまではどれだけ挑発的な事をされても放置せざるを得ない、か。


「いろいろと言ったが、君が一番に優先すべき事は反乱軍に所属する王族を確保する事だ。これだけはよく憶えておくように」


 アルマール公は最後に、念を押すようにそう言った。




 話し合いが終わると、すぐに自宅へ戻った。


 旅支度を整える。

 倭の国に持って行った瞬間装着式強化装甲しゅんかんそうちゃくしききょうかそうこうはムルシエラ先輩に修理してもらうよう使用人に頼んでおき、私は旧式の装甲を用意した。


 用意した物を玄関へ集めていると、その音を聞きつけたのかアルディリアとアードラーが玄関までやってきた。


 アードラーの腕には、雪風が抱かれていた。

 執拗にアードラーの顔を舐めようと足掻いている。


 すずめちゃんも、二人から少し離れてついてきていた。

 私を見ると、すぐに私の方へ駆け寄ってくる。


「何してるの?」


 アルディリアが訊ねた。


「すぐに家を出る事になったんだ」

「え、どうして?」


 二人が驚いた表情で私を見た。


「とんでもない事が起こるみたいだから」

「いったい何が起こるの?」

「第三次大戦? みたいなやつ」


 実際、三回目らしいからね。


「みたいなやつって……」

「南部が攻めてくるかもしれないから、それを阻止しろって」


 ちょっと違うが、急がなくてはいけないので端折はしょって答える。

 私自身、少しイラついているのでそっけなくなってしまった。


「帰ってきたばかりなのに、どうしてクロエが?」


 アードラーが訊ねる。


「私が適任なんだってさ」


 答えながら、用意した荷物を床にドサッと置く。


「そう、また行くのね……。じゃあ、私も行くわ」


 アードラーの言葉に、アルディリアが彼女を見た。

 私も驚いて、彼女の顔を見る。


 さらっと何言ってるの?


 しかし彼女の表情は真剣そのもの。

 明らかに冗談ではない。


「いや、彼女が行くなら僕が行った方がいいよ」

「二人とも連れて行くつもりはないよ。アルディリアは多分、部隊の指揮を執るために残されると思うから」


 多分、立場上行きたくても行けない。


「私は?」


 アードラーが訊ねてくる。


「危険だから」

「私、アルディリアより強いわよ」

「今は僕の方が強いよ」


 アードラーの言葉に、アルディリアが妙な対抗心を見せて答える。

 アードラーはアルディリアを軽く睨んだ。


「君が行くべきじゃないという点については、僕も賛成だ」

「どうしてよ?」


 アードラーも睨み返す。


「あの子が寂しくならないように、せめて自分だけでもそばにいる。そう言ったのは君じゃないか」


 あの子、というのはヤタの事だろう。

 アードラー、そんな事を考えてくれていたのか。


「ええ。そうよ。……でも、私じゃクロエにはなれないもの」


 視線をそらしながら、アードラーは答えた。

 その表情には悔しさが滲んでいる。


 不意に、私の方へ視線を向ける。


「あの子のそばには、あなたが居なくちゃいけないの。だから、今回の任務がすぐに終わるよう手伝いたい。必ず連れて帰れるように、私がそばにいるの!」


 彼女の気持ちは、よくわかった。

 それはとても嬉しい事だ。

 でも、その気持ちを受け入れる事は躊躇ってしまう。


 私は知っているのだ。

 私が失踪した時、彼女もまた共に失踪したという事を……。


 これは、歴史通りに事が進んでいるという事だ。

 できるなら、避けたい。


 そんな事を思っていると、アードラーは雪風を床に下ろした。

 そしてさりげなく私へ近づき、服の上から的確に私の乳首を摘んだ。


「!!!!!!!!」

「それに、何か隠している事があるでしょう?」


 ぎりぎりと摘まむ力を強くしながら訊ねてくる。


 ア、アードラーさん!

 痛いっす!


「何でそう思うの?」


 痛みを堪えながら訊ね返す。


「私、服の上からでもこういう事ができる程度にはクロエの事を理解しているのよ。それくらいわかるわ。それくらい、私はあなたの事を愛しているの」


 くっ、私はアードラーの乳首の位置も、アルディリアの乳首の位置も把握していない……。

 確かに、愛の大きさでは彼女に負けているのかもしれない。


「あなたが何を隠しているのか……。何を心配しているのか……。言いたくないなら訊かない。多分、それはその方がいいとあなたが判断したからでしょう」


 確かに言いたくはない。

 心配させたくないから。


「あなたが私を連れて行かないのは、私の事を大事に思ってくれているからだと思う。でもだからと言って、黙って何もしないなんて事はしたくないわ」


 アードラーは強く言い放つと、私から離れた。

 背を向けて、言葉を続ける。


「二人で行けば、きっとすぐに終わる。アルディリアが行けないなら、私が行くべきなのよ。そして私は、あなたを必ず連れて帰る」


「必ずよ」と強く決意するように、彼女はもう一度言った。


「……わかったよ」


 しばし悩み、私はそう答えた。

 きっとアードラーは、どうあってもついてくるだろう。


 上手くいかない事ばかりだ……。


 でも、これは悲観する事じゃない。

 私は誓ったじゃないか。

 歴史を覆して、ヤタのそばにいるんだ、と。


 ここまで歴史通りになっているからってどうした?

 ここから変える事ができるかもしれないじゃないか。


 アードラーの言う通り、二人なら私だけでできない事もできるかもしれない。

 早く帰ってこられるかもしれない。


 だから、まだ諦めるべきじゃない。

 私はそう、自分に言い聞かせた。


「ありがとう」


 アードラーが礼を言う。


 それと同じくして、服の端を引かれる。

 見ると、すずめちゃんが私の服の端を小さな手で強く握っていた。


 私はその手を掴んだ。


 せめて、この子だけでも置いていくべきなのかもしれない。

 けれど。


 なんて強い力だ。

 こんなの私じゃ、引き剥がせないじゃないか。


「すずめちゃんも一緒だ」

「その子も?」


 アードラーが怪訝な表情で問う。


「うん……」


 小さく返事をして、私はアルディリアに向き直った。


 アルディリアは不安そうな表情をしていた。

 けれど、すぐにその表情を微笑みに変える。


「僕にできる事は?」

「……私達が帰ってきた時に「宇宙の心は彼だったんですね」って言って出迎えてほしい。ちょっと元気が出るかもしれない」

「よくわからないけど、わかったよ。……『彼女』じゃなくて『彼』なの?」

「どっちでもいいよ」


 私は苦笑して答えた。


「アルディリアが待っていてくれるなら、それだけで私は安心だ」




 カルダニア。

 反乱軍の隠れ処。


 私達は用意されたテントの中でくつろいでいた。


 反乱軍はカルダニアの国軍に破れ、この場まで逃げ延びた。

 怪我をした兵士達の様子を見るに、ここへ辿り着いてから時間は経っていない。


 なのに、テントや日よけなどの設備を用意するだけの余裕があるようだし、何よりここで合流するよう指定されていた。

 合流を決めたのは、協力者だったという話だ。


 アルマール公は、反乱軍に継戦の意思があるように思えると言っていたが、確かにそれは正しかったのかもしれない。


 ここに逃げ込む事は、最初から予定されていた事のように思えた。


 そんな時だった。


「入ってもよろしいですか?」


 そう、外から声をかけられた。

 若い男の声だ。


 テントの中に居た全員の視線がそちらに向く。


「どうぞ」


 私が答えると、一人の男が入ってくる。

 その人物はバーニだった。


 彼はテントに入ると、私に声をかける。


「クロエ殿」


 そう、私が名乗っていない本名を告げられる。


「あの方から話は聞いています。ようこそ、カルダニアへ」


 どうやら彼が、協力者のようだった。

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