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クロエ武芸帖 ~豪傑SE外伝~  作者: 8D
倭の国編
61/145

六十話 決戦! 豪傑忍者VS赤青双子

 途中で視点が変わります。

 椿視点


 私は、抜け忍を討つために頭領の命に背いた。

 服部の忍として、頭領の命に背く事は許されない事だった。


 それでも……。


 妹の仇が近くにいる。

 そう思うと平静ではいられなかった。


 今でも、はっきりとあの光景を思い出す。


 あれは、あの四人と私達姉妹で任務に当たった時だった。


 現場の偵察から戻って来ると、宿には誰もいなかった。

 あったのは、置手紙が一枚。


 内容は、四人が里を抜けるという事と妹を人質にとったという事だった。


 急いでそこに向かうと、ボロボロに痛めつけられた妹がいて……。

 そして、妹は私を呼び……。


 同時に、ころりとその首が落ちた。


 斬り落としたのは、青葉と紅葉だった。


 あの時の事を思い出すと、憎しみが溢れてくる……!

 それは押し留める事のできない気持ちだった。




 私は連中の姿を探していくつか怪しい所を巡り、そして竹林のお堂に辿り着いた。


 そこに、紅葉と青葉はいた。


 二人は絡み合うように身を寄せ合い、座っていた。


「紅葉! 青葉!」


 名を呼ぶと、二人がゆっくりと私を見る。


「あら、椿お姉さんじゃないの〜」

「一人かしら? お仲間はどうしたの〜」


 この期に及んで、変わらない口調に苛立ちを覚える。


「お前達こそ、他の二人はどうした?」

「知らないわ〜」

「私達、一緒にいるけれど仲間ってわけじゃないもの〜」


 くすくすと、二人はおかしそうに笑う。


 かんに障る……。


「だったら、お前達を先に始末してから奴らも殺してやる!」

「あら、できるかしら〜?」

「今のあなたじゃ、できないと思うわ〜」


 私は、手に隠し持っていた棒手裏剣を握り直した。


「だったら、試してみろ!」


 手裏剣を投げる。

 手裏剣は紅葉の顔に迫ったが、当たる直前に青葉が小刀でそれを叩き落した。

 鉄と鉄がぶつかり、火花が散る。


 しかし、それは織り込み済みだ。


 口元に指で円を作り、そこを通して息を噴き出す。

 私の息は炎となり、二人に迫る。


 火遁かとんの術だ。


 それに対し、紅葉が同じように口元から水流を吐き出す。


 水遁すいとんの術で返したのだ。


 炎と水がぶつかり合い、ジュウッという音と共にお堂が蒸気に満たされる。


 視界が白に染まる。


 そんな中、こちらへ走り寄る影があった。


 手裏剣をいくつか投擲する。

 その影は、あっさりと手裏剣を身に受けた。


 途端に、人影が崩れた。

 バシャッ、という水音が聞こえた。


 あれは人ではない。

 水による変わり身だ。


 それに気付いたと同時に、背中を熱い物が走った。

 すぐに痛みが追いついてくる。


 背中を斬られたのだ。


「うっ」


 呻きながらも、振り返り様の斬撃。


 後ろにいた青葉は小刀でそれを受ける。


 しまった。


 そう思った時には遅かった。

 私の小刀が斬り折られる。


 二人の持つ小刀は妖刀だ。

 私の小刀では受ける事すらできなかった。


 それでも、次いで放たれる突きを避けて腕を掴む。

 腹部を殴った。


「ぐっ」


 そのまま、雷撃を腹に流す。


「あああ〜〜っ!」


 青葉は悲鳴を上げる。


 このまま死ね!


 恨みを込めて雷撃を流す。

 しかし、殺す事は叶わなかった。


 上から、降ってきた紅葉が私を斬りつける。


 紅葉は私の肩から胸までを浅く斬り付け、腹を蹴って青葉から離される。


「惜しかったわね〜」

「あのままなら殺せたのに〜」


 二人は笑う。


 くそ……。


 ……今の斬撃には、明らかに殺意がなかった。

 やろうと思えば、私は殺されていたはずだ。


 それをしなかったのは恐らく、あえての事だ。


 こいつらは、私もなぶって殺すつもりなのか……。

 妹にしたように!


「うおおおぉ!」


 私は叫び、二人に向かっていった。


 クナイを手に取り、斬りかかる。


 けれど、その刃は二人に届かない。

 受ける事すらせずに、ただ私を翻弄して少しずつ斬りつけてくる。


 一人を追い詰めても、もう一人が私を斬りつけてくる。


 どんな忍術も同じく、上手くかわされてしまう。


 悔しいが、私にはこいつらを殺す事ができないようだった。


「このっ!」


 クナイで斬りかかる。

 難なくかわされ、私の体はよろめいた。

 そのまま転ぶ。


「ふふふ。あらあら、そろそろお疲れかしら〜?」

「もうおしまいなの〜」


 二人が笑いながら言う。


「まだまだ……」


 とはいえ、手立てがない……。


 私では、この二人に勝てない。

 絶望的だった。


 それでも、立ち上がる。


 妹の事を思うと、諦める事などできなかった。


 その時だった。

 お堂の入り口が蹴破られた。


「椿!」


 そうして姿を現したのは、くろえだった。




 クロエ視点


 紅葉と青葉。

 この双子にやられたのだろう。


 椿は体中を傷だらけにしていた。


 駆け寄り、私は椿を背に庇うようにして立った。


「お仲間が助けに来たみたいよ〜」

「頼もしいわね〜」


 双子がからかうように言う。


 私の側らにいた忍が、左手に手裏剣、右手に小刀を構える。

 あからさまなニンジャの構えだ。


「何故、来た!」


 椿が私に声を上げる。


「友達だからね。椿一人じゃ大変でも、私達二人なら負けないでしょ?」


 隣で構えていた忍が「え?」という顔をする。


 ごめん。

 別に戦力外だとかそういう意味じゃないんだよ。

 ちょっとカッコイイ事言いたかっただけなんだ。


 双子が笑う。


「ふふふ、お友達でしたか〜」

「でも、たいした事なさそうね。二人なら勝てるなんて、私達の力量を測れないような方ですもの〜」


 まぁ、実際相手の強さを測るのは苦手だけどね。


「そう、奇遇だね。私も思ってたんだ。あんた達の事「たいした事ないな」って」

「「へぇ〜」」


 双子の声を揃い、目を細められた。


 二人が何かを投擲してくる。


 クナイだ。


 私は飛来するクナイの柄掴んで止めた。


「ぐあっ」


 隣で呻き声が上がる。

 見ると、案内してくれた忍の肩口にクナイが突き刺さっていた。

 どうやら、私と同時に忍の方も狙っていたらしい。


 間髪いれず、青葉が小刀を構えてこちらへ迫ってくる。


 白狐を抜いて応戦。

 刃を防ぐ。


 次の瞬間、紅葉が青葉の背後から飛び込んでくる。


 こ、これはジェットストリームア……。


 なんて思っている内に、紅葉の小刀が私に振り下ろされた。


 振り下ろされる腕を掴んで斬撃を防ぐ。

 が、その隙を衝かれて青葉が斬りつけてきた。


 途中で気付いてなんとか身を退いたが、脇腹を薄く斬られた。

 紅葉も私の顔を蹴って掴まれた腕を解く。


 毒を警戒して傷口を自分で少し抉り、白色をかけて治す。


「毒の心配はしなくてもいいわよ〜」


 言いながら、紅葉が斬撃を加えてくる。


「毒で死んでしまうと、つまらないもの〜」


 続けて青葉も言いながら追撃してくる。


「それはよかった。信用はできないけど」


 私も言いながら、紅葉の斬撃を交わして青葉の腹部を殴りつけた。


 青葉が吹き飛び、壁に激突する。


「かはっ」


 口から小さく息を漏らした青葉をさらに跳び膝蹴りで追撃する。

 そのまま壁を突き破り、青葉共々お堂の外へ飛び出した。


「青葉!」


 初めて、紅葉の必死な声が聞こえた。


 多分、追いかけてくる。


 振り返ると、紅葉が壁の穴から飛び出してきた。

 そして同じく、もう一人……。


「お前の相手はこっちだ!」


 椿が飛び出し、紅葉に向けて蹴りを放つ。

 空中にいた紅葉が、思わぬ攻撃に避ける事もできず蹴り落とされる。

 地面に激突した。


「あっちはあっちでやるみたいだし……。私達は私達で、やろうじゃないか」

「くっ」


 青葉は起き上がりつつ、呻く。


「一人は寂しい?」

「あなたなんて、私一人で十分よ」


 口調にも余裕がないね。


 白狐に口元を寄せる。


「少しだけ、力を貸してあげて……」


 囁くと、椿に向く。


「椿!」


 叫び、白狐を椿へ投げた。

 クルクルと回りながら飛来する白狐を椿は受け取った。


 椿が私に頷く。


「どういうつもり?」


 青葉が怪訝な顔で訊ねる。


「こっちの方が、私にはしょうに合っているからね」


 肩を巡らせ、軽く拳を振って見せてから構える。


「さて、勝手な話だけど。さっさと終わらせてもらうよ。正直に言って、あんた達はつまらないんだよね。強いには強いんだろうけど、心が躍らないから」

「私も同感よ……。さっさと終わらせてあげる。でも、結末はあなたの敗北だけれどね」


 言いながら、青葉は竹林を走り出す。

 私もそれに倣い、併走を始めた。




 青葉は、あらゆる忍術と体術を駆使して攻撃してきた。


 火や水を吐き、雷撃を飛ばし、蝦蟇がまを召喚し、煙幕を張り、変わり身や分身の術まで使ってきた。

 妖刀や拳と蹴り、組技まで使ってくる。


 けれど、そのどれもが椿を相手にした時に見た技だ。


 しかも、そのどれもが椿と比べて低水準だった。


 結果として、青葉はボロボロである。


「紅葉……紅葉さえいれば……」


 足に力が入らないのか、跪いた青葉が呟く。


「でも、今のあんたは一人だ」

「……本当に、そうかしら〜?」


 不意に、青葉はにやりと笑って言う。


 その言葉に気付く。


 私達のいる場所に、紅葉が現れた。

 それを追って、椿も現れる。

 椿は私に気付きながらも、紅葉と戦っている。


 青葉が口元を歪めた。

 笑みの形に……。


 まさか、初めから合流するつもりで戦っていた?


 そう思った次の瞬間、椿の足元の地面が盛り上がる。

 杭のような土の柱が突き上がった。


 椿はそれをかわしたが、その隙を衝いた紅葉の斬撃によって白狐を弾かれる。


「私達の勝ちよ! 私達は、二人なら負けないわ〜!」

「どうかなっ……!」


 弾かれた白狐がこちらに向けて飛来する。


 私は弾かれた白狐の柄尻へ後ろ回し蹴りを当てた。

 蹴られた白狐はまっすぐに飛び、紅葉の背中へ突き刺さった。


「ぐ、あ……」


 紅葉の口から、苦悶の声が上がる。


 椿は紅葉の背中に回りこみ白狐を引き抜くと、首を斬りつけた。


 鮮血が散り、椿の顔を赤く染める。

 紅葉はその場でうつ伏せに倒れた。


「紅葉……? うそでしょう、そんな……」


 呆然とする青葉。

 その間に、椿は私へ向けて白狐を投げた。


 白狐が私の手に渡り、青葉はハッと正気に戻る。


 腹を狙って突き出される白狐に合わせ、小刀の腹でそれを防ぐ。


 が、私は白狐から手を放し、膝蹴りを放つ。

 狙うのは、白狐の柄尻だ。

 膝で、白狐を蹴って押し込む。

 青葉の小刀は折れ、白狐の切っ先が彼女の腹部に突き刺さる。


「うぐ……」


 そんな青葉を殴り飛ばす。


 青葉は吹き飛び、紅葉と折り重なるようにして仰向けに倒れた。


 そこに……。


 跳躍した椿が落ちてくる。


「地獄へ、堕ちろ!」


 叫び、椿は突き刺さった白狐の柄尻を踏みつけた。

 全体重を以ってのストンピングで、白狐を蹴り込む。


「ああぁぁっ!」


 白狐は青葉の体を貫通し、紅葉の死体共々串刺しになった。


「あ、あ……」


 最後に小さく息を漏らすようなかすかな声を出し、青葉は動かなくなった。


「終わったんだ、な」


 言うと、椿はその場で仰向けに倒れた。


 あとで調べると、紅葉は妖刀を腹部の辺りに構えており、白狐はその刀も貫いていた。 

 柊と茨は何で忍術を使わなかったんでしょうね?

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