五十四話 支配された町
浅井の宿場町へ訪れた私達は、お妙さんの子分達に襲われた。
そして、その子分達を倒した。
倒れ伏す男達を私は見渡す。
お妙さんの居場所を聞こうとしたら、拒否された。
どうしたものだろう。
あとは、足で探すしかないだろうか?
いや、万能ソナーで探せばいいのか。
と思い至った時。
私は倒れる男達の中に見知った顔を見つけた。
気を失っている男の頬を叩いて起こす。
「ん、んぅ……。はっ!」
「おはよう」
「て、てめぇ」
「あんた、前に雑賀でお妙さんに――」
「あーーっ! それ言わないでくだせぇ!」
勢い込んでいた男が、私の声を遮るように慌てて声を上げる。
やっぱりそうだ。
この男は、お妙さんを脅迫した甚五郎のそばにいた仲間の内の一人だ。
「そういうあんたはどうして無事でいるの?」
「命乞いして許してもらったんでさぁ。ケジメは取らされましたが」
「ケジメって……小指あるじゃん」
男の指は五本ともある。
「別の所を取られまして」
「別の所?」
「次やったら、男やめさせられやす」
ああ、そうなんだ。
クロエ、わかった。
「甚五郎は無事じゃすまなかったんですが。あっしらは許されました。あっしら、甚五郎ほど度胸はありませんからね」
「本当だろうね? 同じ事をしたら、私だって許さないよ。女の子にするだけじゃ済まないからね」
「しやせんよ。それにあとでわかった事でやすが、組の中で何人かあの事知ってやして。感付いた何人かの兄貴分に脅されやした。だから、知ってても何もできやせん。みんな姐さんほど優しかないですから、下手したら殺されやす。玉取られた上に、命取られるなんて洒落になりやせん」
うまい事言いやがって。
でも、そうか。
前にお妙さんは、あんまり部下から慕われていないみたいな事を言っていたけれど。
組の中には、お妙さんを守ろうとしてくれている人もいるんだ。
なら、安心かな。
「それより、あんた私がお妙さんの知り合いだって知ってるんだから、案内してくれるよね?」
「そりゃあ、もう」
こうして、私達はお妙さんの所へ案内してもらえる事になった。
案内されたのは、何の変哲もない民家だった。
中の一室に通される。
すると、中では難しい顔をしたお妙さんがキセルを吸っていた。
お妙さんは私に気付くと、驚いた顔をする。
「あんたら、会いに来てくれたのかい」
「はい。招待されたので」
お妙さんは笑みを作り、キセルを置いた。
「元気そうだねぇ。また会えて嬉しいよ。でも、ちょっと時期が悪かったねぇ」
お妙さんの笑みが苦笑に変わる。
「確かに。町の様子を見てきましたが、明らかにおかしいですよね。何があったんです?」
お妙さんは溜息を吐いた。
「ああ。ほんの二、三日前の事だよ。あいつらがこの町で好き放題し始めたのは……。番所の役人も皆殺しにされて、今この町はあいつらに支配されてるのさ。」
「あいつら……。何者なんです? そいつらは」
「忍だよ。あいつらは、自分達を抜け忍だと名乗ったよ」
抜け忍……。
「抜け忍だと?」
椿が聞き返した。
見ると、表情が険しい。
「どんな奴だ?」
「四人組の男女さ」
「その中に、双子はいなかったか?」
「いたよ。赤い服と青い服を着た、同じ顔の奴らがね」
椿の表情が、怒りと嬉しさの中間にあるようなものに変わった。
「そうか……!」
椿は出て行こうとする。
「どこ行くんだい?」
「連中を始末する。恐らくそいつらは、我が服部忍軍から抜けた忍達だ」
「あんた、服部の忍だったのかい……。居場所がわかるのかい?」
「この町にいると知れたなら十分だ。あとは自分で探す」
椿の様子がおかしい。
怒りっぽい性格ではあったが、こんな考え無しの行動をする子じゃなかったのに。
この豹変は、お妙さんが言っていた赤と青の双子が関係しているのか。
シンメトリカルドッキングでもするのかな。
「待ちな! 今のあんた、ちょっとおかしいよ」
「当たり前だ!」
何が?
「今、情報集めさせてるんだ。飛び出すなら、居場所がわかってからでもいいと思うけどねぇ」
「ちっ」
椿は舌打ちする。
それでも、お妙さんの言うように待った方がいいと判断したのか椿は部屋を出て行こうとしなかった。
「それよりあんたら、よく私の居場所がわかったね」
「町を見て回ってたら、お妙さんの子分に喧嘩ふっかけられたんです。で、戦って説得しました」
「何だって?」
お妙さんは目つきを鋭くする。
「すいません。お妙さんの子分を殴っちゃって……」
「そいつはいいんだよ。それより……」
お妙さんは部屋の外、廊下からこちらを伺っていた子分達に目を向けた。
「情報だけ持って来いって言ったろう! 喧嘩ふっかけてどうするんだい!」
「す、すいやせん、姐さん! でも、舐められるわけには……」
「半人前が生意気言ってるんじゃないよ! お前らが行った所でぶっ殺されるのがオチだ」
「へ、へい」
おお、親分っぽい。
「もういいから行きな」
「へい、失礼いたしやす」
子分達が廊下から姿を消す。
「うちも何人か殺られちまってねぇ。これ以上、殺されたくないのさ」
「そうなんですか。それでも、居場所を探しているのはお妙さんがかたをつけようと思っているからですか?」
「そういう気持ちもあるんだけどねぇ。一応、服部の方にも依頼はしてんのさ。でも情報はあった方がやりやすいだろ? 少しでもあいつら何とかするのに協力したいのさ」
そういう事か。
「お妙さん。この一件、私にも手伝わせてください」
「そいつは頼もしい事だけど……。いいのかい?」
「友達でしょう?」
「ははは。そうだねぇ」
私とお妙さんは笑い合った。
そんな時だった。
「奴らの居場所がわかりました!」
そう言って、子分の一人が部屋へ駆け込んできた。




