五十三話 なんだコノヤロー
少し修正致しました。
雪風は水の魔法を覚えてから、事あるごとに水の魔法を使うようになった。
背中を掻く時なども今までは地面にこすり付けて掻いていたが、最近では水で手を作って背中を掻いている。
すずめちゃんと遊ぶ時なども水の手を出して遊んでいたが、遊び終わった後のすずめちゃんがびしょびしょになるので今後禁止させた。
しかし、雪風が魔法を覚えた事で、これからどういう風に鍛えていくかの方向性が決まった。
雪風は、これから魔法使いとして鍛えていく事にした。
こんなINTの低そうなわんこが魔法の使い手になってしまうとは。
使えても、威力が低そうな気がしてならない。
が、この世界はゲームではない。
少なくとも、魔法を使う仕組みに賢さはあまり関係ないのだから。
私は放出系が苦手なので教えられる事にも限界はあるが、初歩的な部分は教えていけそうだ。
手に負えなくなったら、ムルシエラ先輩にお願いすればいいだろう。
これから一緒にアールネスへ帰るわけだし。
雪風のお母さんと別れた私達は、次に浅井へ向かった。
浅井は帰り道でもあり、お妙さんがいる場所でもあるからだ。
聞いた話によれば、どうやら寄り道せずにその宿場を通る事ができそうだった。
そして私達はその宿場へ訪れた。
「ここが、お妙さんがいる宿場町か……。合ってるよね?」
少し自信がなく、私は椿に訊ねた。
「そのはずだ。同じ名前の宿場町は、近場にないはずだ」
「ふぅん」
私が何故自信を持てなかったのかと言えば、その宿場町があまりにも静かだったからだ。
大通りには人がいない。
建ち並んだ店は、どこも閉まっている。
まるで、その様相は人の住んでいないゴーストタウンのようだ。
人の気配はある。
でも、息を潜めて、気配を必死に消そうとしているのがわかる。
戸の隙間から、私達をうかがっている気配があった。
その視線には、怯えがある。
「恐がられてるね……」
呟くと、すずめちゃんが首を傾げる。
「そうだな」
椿が同意する。
「何があったんだろう?」
「わからん。だが、厄介ごとだろうな。……このまま通り過ぎてもいいと思うが?」
「ちょっと気になるから、お妙さんに話を聞くよ。この状況を説明してくれると思うから」
話をしながら歩いていくと、番所が見えた。
ここで聞くのもいいかと思ったが、それはできそうになかった。
番所の戸は叩き壊され、中はめちゃくちゃにされていた。
赤い染みが派手についている。
多分、その赤い染みは血だ。
最近ついたもののように見える。
壁や柱に刀傷も見られるから、何かと争った末に誰かが斬られて血を撒き散らした……。
そんな所だ。
誰が斬られて、誰が斬ったのか、という事はわからないが……。
この町に来てわからない事だらけだが、今のこの町の状況が異常である事はわかる。
と、そんな時である。
大人数の足音が近付いてきた。
そちらを見ると、曲がり角を曲がって十数名の男達が私達の前へ姿を現した。
全員厳つい顔で、着物の上に上着を羽織っている。
「てめぇら、何者だこの野郎!」
男の一人が私達に怒鳴る。
「てめぇらこそ何者だ、バカヤロー」
私が返す。
そう言われたら、こう返すのが礼儀である。
「何だと、この野郎!」
「なめてんじゃねぇぞコノヤロー!」
なんか、ノリがいいなこの人。
実は転生者じゃないのか?
「お前ら、忍の仲間かこの野郎!」
うん。
それは間違いないな。
私は椿《忍》の仲間だ。
「だったら、何だってんだコノヤロー! ザッケンナコラー!」
「白状しやがったなこの野郎! やっちまうぞこの野郎!」
「やれるもんならやってみろよコノヤロー!」
「やってやんよこの野郎! なめんなよこの野郎!」
男達が襲いかかってきた。
うう、悪乗りし過ぎた。
すずめちゃんを守れるように陣取ろうとしたが、先に椿がすずめちゃんのそばについてくれた。
椿が守ってくれるなら、攻勢は私が担おう。
乱戦になる。
殴りかかってくる男達をいなしつつ、殴り返し、蹴り飛ばしていく。
男達は格闘技などの心得があるように見えなかったが、喧嘩慣れはしているようだった。
動きに躊躇いがなく、勢いがある。
強かに、サッカーボールキックの要領で顎を蹴り飛ばす。
その姿はさながら、龍が如く!
椿に迫っていた男に気付き、私はそちらへ跳躍する。
横回転して勢いをつけ、強烈な空中回し蹴りが男の側頭部へ直撃した。
その姿はさながら、スザクの如く!
蹴り飛ばされた男が転がされ、うつ伏せに倒れこんだ。
その時に、上着の背中に書かれていた文字が見える。
背中には、龍の一文字が記されていた。
その上着には、見覚えがあった。
あ……。
この人達、お妙さんの子分だ。
着地した時に、別の男が私の方へ殴りかかってきた。
対応しようとした時、殴りかかって来た男が太い水流を横からぶつけられ、倒れこんだ。
それをやったのは雪風だ。
雪風のハイドロポンプである。
「この犬っコロ!」
男の一人が雪風を蹴りつけようとする。
が、足が当たる瞬間、雪風の体が水に覆われた。
水はクッションのように蹴りの衝撃を受け止め、雪風は蹴りをその身に受けず跳ねた。
着地の時も水がクッションになって、何事もなく地面に落ちる。
雪風は無傷だ。
あれなら安心だ。
しかし、どうしよう。
相手はお妙さんの子分だ。
殴り飛ばすのも悪い気が……。
でも、もはや殴り飛ばさないと話を聞いてくれない気がする。
あと三人しか残ってないし。
まぁいいや。
やってしまおう……。
手加減すればいいだろう。
私は残った三人を殴り倒した。
意識のある一人の襟首を掴んで顔を近づける。
「お妙さんはどこにいるの? 私達、友達なんだけど」
「……信じられるかよ……。親分の居場所探してる奴に、吐いてたまるか」
地道に探すしかなさそうだな。
最近、北野監督の例の時代劇を見ました。
そのついでに、ヤクザモノの方も見ました。
歯医者が恐くなりました。




