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クロエ武芸帖 ~豪傑SE外伝~  作者: 8D
倭の国編
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四十九話 告白

 昨日の事。

 山内の城下町へ辿り着いた私達は、すずめちゃんの兄と会おうとした。

 が、すずめちゃんの兄は、大掛かりな捕物ですぐには会えないとの事だった。


 その時の話で私がすぐに思い至ったのは、捕物ですずめちゃんの兄が死んでしまうのではないかという懸念。

 いや、不安だ。


 考えすぎかもしれないが、そんな事には絶対になってほしくない。


 そう思った私は、椿に頼んで鬼の熊虎率いる盗賊団の居場所を探ってもらう事にした。

 椿は、山内に待機していた服部の仲間に連絡を取ってくれた。


 すると、しばらくして山内の忍達は鬼の熊虎の居場所を探し出してくれた。


 私はその情報を元に奉行所の人々よりも一足先に盗賊団の根城へ赴き、全員を蹴散らした。


 当初は全員の関節を外してやろうと思っていたのだが、丁度その時に奉行所の役人達が寺を包囲していたので任せて逃げる事にしたというわけである。


 そして一夜明けた今日。

 私とすずめちゃんは、兄である乃島のじま秋太郎あきたろうと初対面する事になった。




 朝の明るさに目を覚ます。

 ふと気付くと、すずめちゃんが私のそでを掴んで眠っていた。


 雪風も私とすずめちゃんの間で丸まって寝ている。

 わたあめ! と言いたくなるような体勢だ。


 そでを掴むすずめちゃんの手は強固だった。

 放すまいとするように、強く強く握られている。


 別れたくないと、思っていてくれているのかな……。

 そう思うと、引き剥がす事に躊躇いを覚える。


 今までは、それでもよかったんだけどね。

 これからは、違うから。


 私はすずめちゃんの手を優しく解いた。


 布団にすずめちゃんと雪風を残し、私は朝の支度をする。

 服を着替え、髪を梳く。


 そうしている内に、すずめちゃんが起きた。

 すぐに、近寄ってくる。


 彼女を着替えさせ、髪を梳いた。


 昨日買った餅を焼き、朝食代わりにする。


 そして、乃島家へ向かった。


 中へ通され、対面した秋太郎は父親よりも母親に似ていた。

 お花さんの面影がある。

 作る表情は硬く、生真面目そうな印象がある。


 それでも秋太郎は私を見て驚いているようだった。

 目を見開いたかと思うと、すぐに眉間へ皺を寄せていた。

 多分、昨日の私の正体に気付いたのだろう。


 今まで、漆黒の闇(略)マスクをつけて気づかれた事はなかったというのに、それを一目で見破るとはたいした慧眼である。


「乃島秋太郎と申します。この度は、遠路遥々ご足労いただきかたじけなく思います」

「いえ、夏木さんにはよくしていただきましたから。このような事で労をこうむるとは思いません」


 私は、秋太郎に夏木さんが死んだ時の仔細を話した。


「左様でございますか……。両親は、亡くなってしまったのですね」

「はい」

「……くろえ様は、父の仕事をご存知でしょうか?」

「それは……はい」

「それがしは、あのような仕事をする父を嫌うておりました。あのようになりたくないと、そう思って家を出たのです」


 反発から、って事か。


 そういえば、夏木さんもそんな事を言っていたっけ。


「しかし今になって思えば、父は家族を守ろうと必死だったのでしょう。今になって、それがわかります。それに、今のそれがしがあるのは父上から教わった剣術あっての事……」


 そう言った秋太郎の表情は平然としている。

 しかしその左目から、つーと涙が伝った。

 続いて、右目からも遅れて涙が溢れる。


「何も思わぬと、思っておりました。父が死んだとて、涙など流れぬと。甘い見通しでした……」


 秋太郎は目を閉じ、しばし涙を流し続けた。

 変わらず表情を変えぬまま、ただひたすらと。


 再び目を開けた時、口を開く。


「情けない姿をお見せしました」

「情けない事などありません。当然の有り様です」

「かたじけない事です」


 秋太郎は頭を下げた。


 そんな姿を見て、私は一つ息を吐いた。


 私には、言わなければならない事がある。


 一度、隣に座るすずめちゃんを見る。


 決意を固める。

 先ほどの説明で、言い出せなかった事を言おうと思った。


「言い難い事ではありますが……」


 顔を上げた時に、私は口を開く。


「この仕儀しぎにおいて、私にも責任の一端はございます」

「それは、どういう?」

「私は一時の感情で、事情を解する事もなく、夏木さんを……下田にけしかけました。夏木さんが死んでしまったのは、私の身勝手な行動のせいでもあるのです……。私のせいで、夏木さんは死んでしまったような物なのです……」


 搾り出すように、私は告白した。


 秋太郎の目がすっと細められた。

 すずめちゃんも私を呆然と見ていた。


 すずめちゃんにも今まで、話さなかった事だ。


 沈黙が場に下りる。

 誰も、喋ろうとしなかった。


 その静かな時間が、私にはとても長く感じられた。


「よくわかりました」


 秋太郎が言う。


「それがしは、あなたに何を言っていいのかわからない」


 当然だ。

 自分が親の仇だと、告げたようなものなのだから。


 私は俯く。


「だが、あなたがその事を悔い続けている事はよくわかる。だからこそ、それがしがあなたに言える事は、感謝の言葉だけです」

「え?」


 思いがけない言葉に、顔を上げる。


「あなたの事をどう思えばいいのかわからない。だが、それがしは感謝を伝える事に躊躇いを覚えていない。両親の死を伝えに来てくださった事。妹をここまで連れてきてくださった事。その感謝だけは、心から伝えたいと思える。それだけで、良いでしょう。あなたに言いたい言葉がそれだけなら、それで……」


 どうやら、秋太郎は私への気持ちをうやむやにしてくれるようだ。


 私は何も言えなかった。

 ただ、深く頭を下げた。

 クロエはサイズでバレました。クロエほどでかい人間は、この国では稀です。

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