二十二話 戦闘妖精
「この子の名前、どうしようか」
街道を行く途中、隣を歩くすずめちゃんに声をかける。
無論それは、少し前に通り過ぎた宿場町でパーティインッ! した新しい仲間の事だ。
一言で言ってしまえば、お犬様である。
その犬は白い子犬で、視線をすずめちゃんからさらに下へ持っていくと歩いているのか転がっているのかわからんような歩き方でコロコロと動いている姿が見られる。
「んー……」
すずめちゃんが考え込む。
私も少し名前を考えてみる。
コロコロしてるし、コロマルとかどうだろう。
もしかしたら「我は汝、汝は我」とか言って地獄の番犬を召喚してくれるかもしれないし。
そして即死魔法の使い手になってくれるのだ。
「じゃあ、ゲンハチ」
すずめちゃんが提案する。
飼い犬に親父の名前をつけるのか。
ゲンハチねぇ……。
私はゲンハチ(仮)を抱き上げた。
やだ、柔らかい!
この子柔らかいわ!
抱き上げたら手が毛の中に埋まる件。
思わずそのままぎゅっとしたくなる。
と、そうじゃない。
パタパタと尻尾を振るゲンハチ(仮)を高く持ち上げて然るべき場所を確認する。
「それはダメだよ、すずめちゃん。
「どうして?」
「この子、女の子だ」
女の子の名前にしては厳つすぎる。
それとも、あえて名前をゴツくしてギャップ萌えを狙う?
「んー……。じゃあ、どうしよう?」
そこでお花さんの名前は出ないんだね。
女の子か……。
この世界の主要人物(女性)の法則に照らし合わせれば、鳥の名前か……。
……犬に鳥の名前とかどういう事なの?
そういえば、すずめちゃんも鳥の名前だ。
もしかして、プレイアブルキャラクターなのかな?
将来、成長したチヅルちゃんに会えたら聞いてみよう。
と、そうじゃない。
今は名前の方だ。
特徴から攻めてみようか。
白い。
眉毛が麻呂っぽい。
シロマロ?
「雪風!」
すずめちゃんが提案する。
沈みませんとか言うの?
穿いてない系の子なの?
いや、実際穿いてないどころか全裸だけど。
「何で?」
「雪みたいに白いから」
風はどこから出たし?
この俊敏性皆無のようなコロコロと歩く姿のどこに風を感じたのか私にはわからない。
「雪風! 雪風にしよう!」
しかしながらすずめちゃんの猛プッシュを受け、子犬は雪風になった。
女三人。
姦しい旅になりそうだ。
その夜。
私達は野宿した。
近くの森で野鳥を狩って、火で炙って食べた。
味付けは塩である。
一応、こんな事もあろうかと荷物に入れていたのだ。
すずめちゃんはその塩だけで食べているが、私はもう一味足している。
土産として購入していた七味をかけている。
風味が良くなり、ピリッとスパイシーになって美味しい。
これはすずめちゃんには辛いだろうから、私だけだ。
実際、一口食べてすごい顔をしていた。
雪風は生でも良さそうだが、一応焼いて食べさせた。
味付けはしていない。
犬に限らず、動物に塩分はあまりとらせてはいけないらしいから。
食事を終えて、火を消す。
闇に辺りが満たされると、途端にすずめちゃんは私の所へ寄ってくる。
相変わらず、その体は震えている。
巻いて鞄の上に縛っていた毛布を広げる。
地面に寝転び、毛布を体にかけた。
幸い、下は草になっていて少しマシだ。
眠る時、すずめちゃんは私と手を繋ぐ。
繋がないと眠れない。
今もそうだ。
その繋いだ手から、彼女の震えが伝わってくる。
雪風が布団の中へもぐりこみ、私とすずめちゃんの間に割って顔を出す。
とても温い。
ふわふわと触り心地も良い。
少しだけ、すずめちゃんの手の震えが小さくなった。
このまま、ゆっくりとでもいいからその恐さが消えていってくれればいいんだけどね。
私だけじゃできない事かもしれないから……。
お願いね、雪風。
翌日。
私達は街道を進み、山道へ入ろうとしていた。
そんな時、雪風がコロンコロンと唐突に走り出す。
どこ行くねーん!
雪風が向かったのは、街道からそれた道無き森の中だ。
雪風は立ち止まり、こちらを向いて「わん」と吠える。
「ついてこいって言ってんのかな?」
すずめちゃんが言う。
犬は喋らぬ。
でも、確かにこっちを向いて吠えている様子は、ついて来いと言っているようにも見える。
少なくとも「このまま野生に帰るワン」という様子ではない。
どう見ても、こっちを気にしている。
すずめちゃんが雪風の方に走り出す。
雪風もそれを見て走り出した。
仕方ないなぁ……。
このまま森の奥地へ導かれても困るから、捕まえて連れ戻そう。
蹴躓いて転びそうになるすずめちゃんを抱き上げ、私は雪風の方へ走り出す。
途中から斜面になっており、雪風は案の定転んで文字通りコロコロと転がっていく。
意外と速いな。
追いつくのが大変だ。
ちょっと本気を出そうか。
私は木へ跳び、魔力の棘を足から出して幹に足を固定する。
そのまま跳躍し、別の木へ跳び移る。
次々に木を蹴って進み、雪風を追った。
「おわーっ!」
すずめちゃんが驚いて声を上げる。
それにしても、雪風はどうして急に走り出したんだろう?
ジャムでも見つけたかな?
そしてなんとか追いつき、雪風の前に下り立った。
それでもどこかへ走ろうとする雪風を抱き上げる。
「勝手にどっか行っちゃダメだよ」
「わん」
それは了承の返事だろうか?
ぺろりと鼻先を舐められた。
走り出してもすぐに捕まえられるよう、警戒しながら地面に下ろす。
すると、雪風はその場で立ち止まってどこかへ行く様子は見せなかった。
あれ?
本当にわかってくれたの?
すずめちゃんも下ろす。
「たまげた……」
さっきの移動はすずめちゃんにとって刺激が強かったらしい。
と、その時である。
ふと、視線を感じた。
そちらを向く。
しかし、誰もいない。
気のせい……。
じゃないな、これは。
直感的に思う。
「すずめちゃん。何があっても、ここから動いちゃダメだよ」
「何かあった?」
「うん。何かあるかもしれないんだ」
私は、万能ソナーを足から発した。
この付近一帯を探るように広く発する。
「キャン」
雪風が鳴く。
え!
雪風、魔力持ってる!?
が、今はそれどころじゃない。
さっき視線を感じた方向で、かさりと何か動く音が聞こえた。
その音の場所へ、駆け寄る。
万能ソナーは、周囲一帯を魔力の波で探る技だ。
魔力を持っていない人間がそれを受けても何も感じないが、これが魔力持ちの人間であった場合は体を魔力に探られる感覚で不快感を覚える事になる。
雪風もそのせいで鳴いたのだろう。
そしてさっき探った結果、魔力を持っていた存在は雪風ともう一つ。
視線を感じた方向、十メートル先くらいに一人にいる誰かだ。
その場所へ向かう。
そこにいたのは……。
私の目の前に、黒装束の男が跳び出す。
出会いがしらに何か投げつけてきた。
咄嗟に白狐を抜いて弾く。
鉄火が散り、金属音が当たりに響く。
弾かれ落ちた物は手裏剣。
男は右手に小刀を持ち、左手には手裏剣を持っていた。
この構えは……ニンジャ!
アイエエエエエ!?
再びのリアルニンジャとの遭遇であった。
これが今年最後の更新ですね。
皆様、良いお年を。




