二十二話 クロエVS漢宝VS黒旋風
なぎ払うように発した炎を漢宝は殊更に警戒し、距離を取った。
そんな漢宝へ右手の五指を向け、私は指先から小さい火球を発射する。
漢宝は驚き、四発を避けたが一発だけ足に火球を受けた。
履物の布地が燃える。
「くっ……!」
燃え移った火を払って消そうとする漢宝。
その隙を私は見逃さない。
距離を詰め、右拳で攻撃する。
途中で気付かれて避けられたが、左頬に掠った。
初めて、一撃が当たった。
反撃の拳が伸びる。
それを左腕で防御し、右手を相手の腹に翳した。
右手の平に、魔力による爆発を発生させる。
漢宝は爆発に吹き飛ばされ……たように見えたが多分爆破の寸前で後ろに跳んだようだ。
腹部の衣服が焼け、腹が見えているが想定していたよりもダメージは見えない。
でも、焦りを含んだ表情だけは隠せない。
この慌てぶり……。
やっぱり、この国ではあまり放出するタイプの魔法は発達していないのだろう。
いや、発達していたとしても主流ではないんだ。
度々聞く、妖術というジャンルに違いない。
そしてこの国の人間はその妖術に、あまり良い感情を持っていないのだ。
だから、あまり出会う事もないんだろうな。
ま、私も放出するタイプの魔法使いは苦手だ。
ムルシエラ先輩と何でもありで戦ったら、勝てる気がしないし。
コンチュエリはまだなんとかなる。
あの二人みたいに、私も大火力で魔法を使い続ければ漢宝も封殺できるのだろうが……。
残念ながら、それをすると私はすぐに魔力が枯渇する。
こうして、的確なタイミングで節約しながら使うしかない。
「どうしたぁ!」
床に炎を走らせながら叫ぶ。
本当は跳んでキックしてから使いたい所だが、多分それをやるとキックした時点で見切られて反撃を食らうだろう。
「ホアチャー!」
若干、調子に乗り出し、足に炎を纏わせて蹴りつけたらまた軸足を蹴られて体勢を崩された。
畳みかけられそうになったが、なんとか対応した。
調子に乗るのはよくない。
放たれた拳を防御した瞬間に、魔法の電撃を流す。
「……!」
怯みと痙攣で動きの鈍った漢宝の頭を横殴りした。
初めてのクリーンヒットだ。
そういうふうに闘技で戦いながら、時折魔法を使って虚を衝くように戦う。
絶対的に安心はできないが、これならなんとか戦えそう。
そう思っていた時だった。
建物が大きく揺れた。
「何だ?」
漢宝が戸惑いの声を上げた。
それから間もなく、もう一度揺れる。
今度は先ほどよりも大きく、ガクッと体が落ちるような感覚を覚えた。
床の角度が、傾いていく。
少しずつ、徐々に傾きが加速していく。
これは、塔が倒れようとしてる?
それに気付くのと同時に、地面へ魔力を流す。
その魔力に反応し、床へ投げ捨てていた強化装甲が私の方へ集まってくる。
再び装着すると、私は窓へ魔力縄を放つ。
窓枠にひっかけ、引いた反動で外へ跳び出した。
一度塔の外壁へ張り付くと、周囲を確認する。
塔の下を見ると、地上階が燃え盛っていた。
私の魔法……ではない。
未だに大暴れしている黒旋風の姿がここからでも見える。
焼け野原やんけ……。
黒旋風が炎を撒き散らしながら暴れた結果、塔が焼けたという事か……。
状況を把握すると、傾いた塔はそのまま崖の方へ倒れている最中だ。
近づいてくる崖。
塔のぶつかる場所から離れた場所へ向けて、魔力縄を放った。
それを頼りに跳び、魔力縄にぶら下がって崖へ移動する。
崖に張り付き、塔が完全に倒壊するのを見守った。
漢宝はどうなった?
自分の安全を確保し、そちらへ考えが向く。
辺りを探すと、私と同じように崖へへばりついている漢宝を見つけた。
漢宝もこちらを探していたのか、視線が合った。
……さてと。
漢宝はこれができるんだろうか。
私は崖に足を着け、立ち上がった。
壁走りの要領である。
その様子を見て、明らかに漢宝の表情が変わる。
やっぱり、できないんだ。
私は崖にへばりついたままへ走り寄り、その勢いのまま漢宝を蹴りつけた。
「ぐあ」
片手で防いではいたが、それでも威力を殺しきれずにうめき声を上げる。
卑怯だとは思うが、私は必ず帰らなくちゃいけない。
私は反撃できない漢宝に対して攻撃の手を緩めなかった。
防御もまともにできない状況で蹴り殴り、最後に後頭部を殴りつけて顔を岩壁に叩きつけてやると、力を失ってふらりと落ちた。
そんな彼女に魔力縄を放ち、落下を阻止した。
「捕縛完了、と。私の勝ちだ」
書いていてなんなのですが、魔力持ちが天下を取れない倭の国の侍は強すぎるのでは?




