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クロエ武芸帖 ~豪傑SE外伝~  作者: 8D
朱雀国編
130/145

閑話 布の棒術

 立ち居振る舞いを見れば、そいつが武術を齧っているかどうかがわかる。

 攻撃の動作を見れば、その錬度がわかる。

 だが、実際の強さは戦ってみなければわからない。


 俺の目の前にいる女はどうだ?

 黒い髪と目をしているが、ここらで見かけない西の色が見える顔立ちの女。

 武装した俺の部下達を危なげもなく蹴散らすこの女はどうだ?


 布の棒術。

 初めて見た物だ。


 手から水を出していたが、あれは妖術か?

 なら、こいつは方士なのかもしれない。


 だが、明らかに戦い方は武人だ。


 一枚の布で、刃のついた槍を相手にしている。

 だというのに、怖じける様子も気負った様子もない。

 全方位から来る攻撃を完璧に避け、的確な反撃で着実に兵士を無力化している。


 しかも、相方の援護をするだけの余力もある。

 その相方の方も悪くない動きをするが、目を惹きつけるのは女の方だ。


 場慣れしている。

 そして何より、その戦い方は女のそれではない。


 女でも強い奴というのはざらにいるが、俺が知っている奴はみんなのらりくらりと避けたり、数を重視したりする。

 だいたいがそういう戦い方に傾倒していく。

 それはそれが女の体に向いた戦い方だからなんじゃねぇかと俺は思ってる。


 しかしこの女の一撃一撃には、確かな力が宿っていた。

 無駄が無い。

 相手が防御に転じれば、槍の柄ごと折って一撃を叩き込む。


 このまま部下に任せていたら、逃しちまいそうだ。

 俺はこっそりと女へ近づき、棍棒を振り下ろした。


 俺は、武人じゃねぇからな。

 正々堂々なんて考えはない。


 その棍棒が布の棒術によって打ち払われる。

 部下を殴り倒しつつ、そのついでに俺の棍棒を打った。


 こちらを見もしないでどうして打ち払える?


 そしてその一合でわかる。

 この女の武の底は、俺が思う以上に深い。


 そこでようやく、女はこちらを見る。

 本格的に標的を俺に定め、攻勢をかけてきた。


 薙ぎの一撃を棍棒で受ける。

 が、次の瞬間頭部に重い一撃が加えられた。

 あまりの威力に、意識が跳びそうになる。


 その後すぐ、棍棒を振り回しながら下がった自分の判断を褒めてやりたい。

 正直、何故攻撃をくらったのかわからなかった。

 ちゃんと防いだはずだ。


 改めて女へ視線を向けると、また別の場所へ視線を向けている。

 襲い掛かる俺の部下へ棒を振るっていた。


 それを見て理解する。

 布でできた棒は、そのしなり方が異常だった。

 元が柔らかい物だから当然だろう。


 防御しても、異常なしなり方をする先端が頭を打ち据える。

 ただ防いでも防ぐ事ができない。

 思った以上に厄介だ。


 もう一度仕掛けようと近づく。

 すると、女は周囲を薙ぎ払うように大きく棒を振り回し、俺へ再び横撃を浴びせた。

 あまりにも突然の事に面食らったが、どうにか打ち払うように防御して頭部を狙うしなりを防いだ。


 視線が再び、こちらへ向けられる。

 もう、そらさせる事はしないぞ。


 俺の棍棒と布の棒が打ち合わされる。

 しなりを警戒し、打ち払うように攻撃は防ぐ。

 厄介な代物だが、そうしていれば恐るべきものではない。


 そう思っていた。

 しかし、それが甘い考えだと俺はすぐに悟る。


 相手の攻撃が、重すぎる。

 軽く振るわれているように見えるはずのそれは、その見た目に反して明らかに重かった。


 一度二度ならともかく、数合を経ればこちらの腕が痺れ始めていた。

 打ち払う労力もまた、多大なものとなる。

 思いがけず、体力を削られる。


 女にしては太い腕だが、俺に比べれば歴然とした差がある。

 そんな細腕で、何故こんな重い一撃を連発できる?


 ……重み?

 そうか、重みか。


 振り下ろされる布の棒。

 受けるのは先端になる。

 まっとうに受けてもしなりはないと判断し、打ち払わずに棍棒で防御する。


 ミシッと、功で強化された棍棒が悲鳴を上げてたわむ。

 ひびが入る。


 布に物を打ちのめすだけの重さは無い。

 あの棒にある重さの元は、吸収された水だ。

 あいつは布の中の水を移動させる事で、棒の重心を自在に変えているんだ。


 もう一撃が、振り下ろされる。


 今、あの棒の重さは先端にある。

 先端だけに重さを集中させたあれは、ただの棒ではなく槌のようなものだ。


 再びの一撃を受けると同時に、棍棒の半ばが砕け散った。

 そして、振り下ろされた一撃は俺の頭頂を打ち据えた。

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