終章 未知への境界線
森の中を進む間。
体力の戻りきっていないアードラーと、元々体力のまだ養われていないすずめちゃんは何度か足を止めたが、その都度私が負ぶって進んだ。
その甲斐もあり、前に聞いていた通り八日の道程で私達は森を踏破する事ができた。
そこでここまで送ってきてくれた女戦士達と言葉を交わして、別れを惜しむ。
最後に、オルタナと言葉を交わす。
『おまえをむらへまねきいれたとき、こうなるとはおもわなかった。いろいろなものがかわっていった。わたしのこころも、むらのありかたまでも。それもよいほうこうにかわったとおもう』
「たまたまだよ」
『どうであれ、おまえのなはこのむらでながくかたりつがれるだろう。まじんクロエ』
すごい肩書きをもらったもんだ。
でもそれは私だけじゃない。
「そっちもでしょう。勇者オルタナ」
『そうだったな。いまとなっては、それほどこころもおどらない』
「どうして?」
『わたしのこころが、すでにむらのそとにあるからだ』
それって……。
『ニナタがのぞむなら、わたしはいずれふたりでこのむらをでようとおもう。ここにはない、おおくのものをみつけたいのだ』
「そう」
ニナタちゃん自身は、どうやらその気になっているようだけど。
私は彼女が最後に見せた笑顔を思い出してそう思う。
『わたしたちはまた、いずれどこかであうことになるかもしれないな』
「わかった。その日を楽しみにしているよ」
差し出された腕をがっちりと掴み、オルタナの言葉に応える。
森が途切れた先には、草原が広がっていた。
私達は、そこへ一歩踏み出す。
次々に、歩を進めていく。
一度立ち止まり、振り返った。
オルタナ達はまだ、こちらを見ていた。
森と草原の境目に壁があるかのように、一歩も草原に踏み出さず私達を見送ってくれる。
私は彼女達に手を大きく振った。
みんなが、手を振り返してくれる。
今はあそこまで……。
でも、オルタナの世界はいずれさらにあそこから広がっていくのだろう。
そしていつか……。
楽しみだな。
そう思いながら、私も未知の世界へと歩き出した。
大事な家族の待つ、家へ帰るために。
密林編はこれで終了です。
本当はかなり短い話の予定だったのですが、思っていた以上に長くなりました。
不思議。
次の話とセットで出す予定だったのですが、密林編以上に長くなる事は明らかなので密林編で区切りとします。
続きはまた、いずれ。
気長に待ってくださるとうれしいです。
ある地域に残る伝承に、魔神クロエという名が出てくる。
これは魔神クロエと勇者オルタナが、村を支配していた邪神を退治する内容のものとなっている。
魔人という称号を賜った人間はその地域に多く見られるが、魔神という称号を得た者はこのクロエだけである。
そして正確な時期については不明だが、同じ時期に世界各地に「クロエ」もしくは「ビッテンフェルト」という名が多く見られるようになる。
これら全てが偶然の一致であると著者には思えない。
各地に残る逸話にクロエという名があれば、それはクロエ・ビッテンフェルトの事なのではないかとそう思えるのだ。
ともすれば、かの有名な大天使クロエルもまたその内の一つなのかもしれない。
流石にそれは考えすぎだろうか?
『クロエ・ビッテンフェルトの伝説』より抜粋。




