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閑話 酔娘伝

 酒が行渡ると、料理が振舞われた。

 家の入り口からまっすぐ向かった先に台所らしき場所があり、そこでコルドラが料理をしていた。


 大きな体を小さくしながら作っている姿が少し可愛らしい。


 私が手をつけたのは、何かよくわからない肉を焼いた料理だった。

 塩気の類はないが、何かの木の実を刻んで上にかけている。

 カラフルである。


 この村の食べ物は、甘い味付けが主流のようだった。

 もしくは、コルドラの好みか。


 しょうゆをかけたい。

 と思いつつ、私は肉をみ、酒で流し込む。


 杯を干す度、少しずつ頭の痛みは薄れてきていた。

 それに代わって、気持ちよさが感じられるようになっている。


 ふわふわしている……。


「ふわふわしてるなぁ、おまえなぁ」


 私は料理にがっついていた雪風のわき腹をガッと掴んだ。


『やーん、じゃましないで!』


 怒られちゃった。


「ごめんね、ユッキー。許して」

『いいよ!』


 やったー!

 許された!


 ……もうちょっと飲もうっと。

 ああ、うめぇ……酒うめぇ……。


 コルドラが声をかけてくる。

 雪風は今、お食事に夢中で何を言っているかわからない。


 でも、気合で解読してやる!


 何?

 胸を揉ませろだぁ?


 お前が揉ませろよ!


 私はコルドラの胸を正面から両手でガッと掴むと、コルドラはそれに対して声を上げて私を突き飛ばそうとした。

 しかし、私はその動きを読み、スッと背後へ回り込む。

 手の平による全体的な面への揉みから、乳首を重点とした集中的な揉みへとその攻勢を変化させた。


 私のテクニカルな所を見せてやる!


「ああぁぁぁ……っ」


 コルドラの口から、聞いた事のないような高い声が漏れた。

 私がこれまで培ってきた戦闘技術は、直感によってその弱点を看破するまでに至っていた。

 弱点を集中攻撃されたコルドラが、あえなく沈む事は自明の理であった。


「勝った! うおおおおぉっ!」


 勝利の雄叫びを上げると、周囲の目がこちらに向いた。


 ……私、何していたんだっけ?

 ふと冷静になる。


 ……わかんないから、お酒を飲もう。


 私は杯でお酒を飲み始める。

 しかし、かめの中身はもう底が見えるほどになっていた。


 かめを持ち上げて、そのまま口をつけて一気飲みする。


 飲み損なって口端を流れていく酒を勿体なく思いながら、私は酒を飲み干した。

 空になったかめをどんと床へ置くと、いつの間にか集まっていた視線に気付く。


「おおおおおおっ!」


 周囲の戦士達から歓声が上がった。

 気分がよくなったので、手を振る。


 そんな中、コルドラが大声を張り上げる。

 何を言われたか解らないが、とりあえずクロエという単語だけ聞き取れた。


『なにをするんだ、クロエ!』


 不意に意味のわかる言葉がかかる。

 周囲を見ると、視線がコルドラに集まっていた。

 ざわめきが起こる。


 けれど、声が聞こえた方向は私の足元だ。

 汚れた口の端をぺろりぺろりと舐めながら雪風が私の足元まで来ていた。


「もういいの?」

『おなかいっぱいになった!』

「よかったね」

『うん!』


 よしよし、と頭を撫でる。


『それより、コルドラがなにかいってるよ!』


 さっきのやつかな?


「何か怒らせる事したっけ?」


 とんと憶えていない。


『あたしのむねをもんだだろうが!』


 ああ、思い出した。


「私の胸を揉んでやるとか言うからでしょうよ」

『いってねぇーーーっ。あたしがつくったさけのあじはどうかときいたんだ!』

「手作りなんですか!? すっげーうまいです」

『ならよかったが、よくはない』


 どういう事なの?


『あたしのめいよはきずつけられた。きずつけられためいよは、たたかいによっていやさねばならない』

「お酒のお代わりある?」

『ひとのはなしをきけっ!』

「乳首、感じるんですよね?」

『うるさい!』


 否定はしないんだ。


「で、何の話だっけ?」

『めいよをかけてしょうぶだ』

「お酒のお代わりは?」

『しょうぶがおわるまでおあずけだ』


 何だって!


「もう許せるぞ、おい!」

『あたしはゆるさんぞ』

「もう許さないからな!」

『どっちなんだよ』

「こうなったら野球拳で勝負だ!」

『なんだ、それは? ……だが、しょうぶごとならいいだろう!』


 コルドラはやる気に満ちた声で答えた。

 私は野球拳について説明する。


『まけたらふくをぬぐ?』

「そう。全裸になったら負け」

『いいだろう! しょうぶだ』


 周囲から注目を浴びる中、私達は野球拳を始める。


「「やーきゅーすーるならーこういうぐあいにしやさんせ」」


 二人揃って掛け声を出し合う。


「「アウト! セーフ! よよいのよい」」


 勝った。


『くっ』


 コルドラは毛皮の服を脱いだ。

 それだけで残るは下着一枚になった。

 トップレスである。


 次で決着だな。


『つぎだ!』


 もう一回勝負する。

 今度は負けた。


 私も負けてられないぞ!


「よっしゃあ!」


 私はがばっと下着以外を全て脱いだ。

 トップレスである。

 コルドラと同じだ。


『いま、どうやってぬいだ?』

「細かい事は気にしないで」

『まぁいい。おなじじょうけんでたたかおうというこころいきにけいいをひょうする。そして、これで……』

「決着だ!」

「うおおおおおおおぉっ!」


 最後の勝負は私の勝ちだった。

 コルドラはスパッと下着を脱いだ。


『なかなかおもしろいたたかいだった。だが、ものたりない。クロエ、こぶしをつかえ!』

「いや、どっちが多くお酒を飲めるかの勝負にしようぜ」

『それはじゅんすいにさけをのみたいだけだろう? おあずけだといったはずだ』


 殴り合いも実は好きだけど、今は酒だ。

 酒の気分なのだ。


『せんしがしょうぶからにげるな。それはふめいよになる。おまえのめいよは、いまのところおまえがようするなかまのめいよにもつながる』

「アードラーの事?」

『なはしらん。しかし、なかまをおもうならしょうぶをうけろ』


 あ?


「おまえ、アードラーに何かしようっての?」

『いや、そんなつもりはないが……。せんしでないもののめいよは、それをようするせんしのめいよがになうものであって――』

「仕返しにアードラーの乳首こねくり回すだと?」

『いってない!』

「その喧嘩買ってやらぁ!」

『ぐあっ』


 私は奇襲気味にコルドラを殴った。


「今、アードラーの乳はワシだけのもんじゃあ!」

『きっかけがよくわからんが、まぁいい。あたしののぞみどおりだ!』


 そんな呟きを漏らし、コルドラも私を殴る。

 顎を捉えたその拳。

 それが撃ち抜かれる事は無かった。

 拳をぶつけられた顎は、拳の衝撃に耐えて動じなかった。


『なにっ!? きかないだと!? あいかわらずのばけものめ』

「化け物? 違う、私は悪魔だ!」


 私はコルドラの首にラリアットを当て、そのまま家の壁へその体を打ちつけさせた。

 壁の丸太がめきめきといくつか折れ、壁に穴が開いた。

 その穴から、コルドラは外へと飛ばされた。


 周囲の戦士達がざわめく。


 なんか楽しくなってきた!

 酒より、もっと戦いてぇ!


「次は誰だ!」


 私は声を張り上げ、カモンカモンと手振りで示す。

 それを雪風が意訳してくれたのか、女戦士達は互いに何事か言葉を交し合ってから立ち上がっていく。


『つぎもあたしだ!』


 雪風がそんな言葉を伝えてくる。

 同時に、壁に開いた大穴からコルドラが這い上がってきた。


 折れた丸太に手をかけると、力を入れる。

 太い腕に青筋が浮かび、めきめきと丸太が音を立てる。

 そして、しまいには丸太が折れた。


 それを担ぐように持つと、私へ向かって柱を振った。


 受けてやろうじゃねぇか!


 私は振られた丸太をあえて受けた。


 殴られ、後方へ吹き飛ばされる。

 魔法のスパイクで地面に固定したが、敷かれた毛皮と地面ごと体を持っていかれた。

 巻き込まれた毛皮が千切れる。


 吹き飛ばされた体が壁へぶつけられる。

 顔を上げると、コルドラがこちらへ突進してきていた。


 それに対し、私もコルドラと同じように丸太を殴って折り、手にした。

 互いの持つ丸太をぶつけ合う。


「アードラーの胸は小さい! そうさ……小さいさ! でも、尻の形は誰にも負けないんだ!」

『きいてない!』

「アードラーの尻と言ったか! おのれぇぇぇ!」

『いったのはおまえだ!』

「ユニバアアアアァァス!」

『どういういみだ!』


 丸太を振り回しながら言葉を交わしていると、周囲の女戦士達の何人かが巻き込まれて殴られた。


『わたしもやるぞ!』


 すると、雪風経由でどこからかそんな声が上がる。


『わたしもだ!』

『わたしも!』


 次々に声が上がり、そこかしこで殴りあいの喧嘩が始まった。


 そして……。

 支えとなる丸太を何本も失った家は、度重なる喧嘩の衝撃もあって倒壊した。

 娘……?


 野球拳というものは、本来服を脱ぐ遊びではないそうです。

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[一言] 酒癖が悪辣すぎる……
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