五話 戦士の宴
投稿時にサブタイトルを決めているので、考えるのに困ります。
戦士達との戦いを経て、私はオルタナ以外の戦士にも認められる事になった。
「何があったの?」
私が家に戻ると、アードラーは心配そうに訊ねた。
「村の戦士達に喧嘩売られた」
「大丈夫……そうね」
心配そうに訊ねるアードラーだったが。
私の言葉を待つまでもなく、私が無傷である様子に気付いて安心したようだった。
小さく息を吐く。
そんな彼女の隣に座る。
『あの、クロエさん』
ニナタちゃんが声を発し、それを雪風が意訳して私へ伝える。
「何?」
『クロエさんは、むらのそとからきたんですよね?』
「そうだよ」
『むらのそとって、どんなところなんですか?』
密林に囲まれている。
という答えは、彼女の求めているものではないだろう。
「じゃあ、私の生まれた国の事から話そうか」
答えると、ニナタちゃんは好奇心に目を輝かせた。
私はアールネスの事を話した。
国の雰囲気、こことは違う木材、石材、レンガなど様々な建材で造られた町並み、魔法を使える人が貴族と呼ばれる階級社会。
私の子供だった頃の話や、学生時代の話、アルディリアやアードラーと出会った時の話もした。
それから、サハスラータ、倭の国、カルダニアの話も……。
ニナタちゃんはそれらをとても楽しそうに聞いていた。
『いろんなせかいがあるんですね』
ニナタちゃんは言うと、目を閉じて笑みを作った。
私の話を元に、想像を働かせているのかもしれない。
話の余韻を楽しんでいるかのようでもある。
丁度、その時にオルタナが家へ帰ってきた。
「おかえり」
『ああ』
返事をすると、オルタナはニナタちゃんの隣へどかりと座る。
そこに敷物がある事からも、そこが彼女の定位置である事がうかがえた。
普段から、ずっと妹の隣で過ごしているのだろう。
『きぶんがよさそうだな』
『ええ。クロエさんからそとのはなしをきいたの』
『そうなのか……』
『そとにはいろいろなものがあるのね。そのはなしをきくのが、とてもたのしかった』
『よかったな』
ニナタちゃんは好奇心に輝く瞳を細めた。
そして呟く。
『そとへでてみたいわ……』
『……そうだな。おまえがげんきになったら、つれていってやりたい』
オルタナは優しげな表情でニナタちゃんに答えた。
沈黙が訪れた。
意訳する会話が途切れ、退屈を持て余した雪風がころっと転がって自分の尻尾で遊び始める。
「クロエ!」
『クロエ!』
そして、唐突に外から聞こえた大声を意訳した。
名前を呼んだだけだったので、特に意訳する必要はなかったけど。
『だれだ』
オルタナが外へ声を返す。
『オルタナか。コルドラだ。あらたなせんし、クロエにようがあってきた! はいっていいか?』
『いいだろう。はいれ』
コルドラの巨体が、ぬっと家の中へ入ってくる。
「私に用?」
『おまえをかんげいするうたげのじゅんびがととのった』
「宴……。気持ちは嬉しいけれど、連れが病床にある。心配だから、あまり離れたくないんだ」
『せんしよりも、せんしでないものをゆうせんするのか?』
コルドラはむっとして訊ねた。
「アードラーはわたしにせんしだ! じゅじゅつしでもある!」
こっちもコルドラの言い様にむっとして答えたら、雪風じみた口調が移ってしまった。
『おまえとおなじだと?』
「私に匹敵する戦士だ」
私が答えると、オルタナが口を開く。
『コルドラ。せんしのかんげいをうたげとするひつようはない。もともとは、さけをくみかわすだけのぎしきだ』
『そうなのか?』
オルタナの言葉に、コルドラは初めて知ったというふうに訊き返す。
『かつては、せいじんしたものこべつにせんしのためしがおこなわれていたが、いつからかそのとしにせいじんするものぜんいんにせんしのためしをおこない、せんしとなったものたちといっせいにさけをくみかわすことになった。だから、きんねんではうたげになってしまっているだけだ』
つまり、今までは個人個人を戦士と認める儀式だったけど、成人式的な方式で一日にまとめてやるようになったから、宴になってしまっているという事か。
『しかし、じゅんびをしてしまった。なにより、わたしはクロエをかんげいしたい』
唇を尖らせ、コルドラはどこか拗ねた様子で言う。
そんな様子のコルドラに、オルタナは困った奴だなという表情で溜息を吐く。
そして私に向いた。
『クロエ。おまえのなかまのようすはわたしがせきにんをもってみよう。うたげにさんかしてくればどうだ』
そう申し出てくれた。
私は少し考え込む。
宴か……。
お酒を飲むんだよね……。
前に飲んだのは何年前だったか……。
あの時は記憶を無くして、父上と一緒に建物を壊してしまったっけ。
あれは過去の出来事だが……。
下手をすれば明日の出来事になってしまうかもしれない。
「クロエ、難しい顔をしているわ。何かあったの?」
アードラーが訊ねてくる。
「歓迎の宴を開いてくれるらしいんだけど」
「私なら大丈夫だから、行ってくればいいわ」
「確かに、アードラーの事も心配なんだけど……」
それ以上に、お酒を飲む事も心配である。
『コルドラはいだいなせんしとしていちもくおかれている。そんなものからのかんげいはえいよだ。そとのものがうけることはめったにない。さんかできるきかいはむげにするべきではない』
そういうオルタナをコルドラはじっと見た。
『どうした?』
その視線に気付いて、オルタナは問う。
『オルタナがわたしをそのようにおもっているとはおもわなかった』
『ふかいか?』
『そのぎゃくだ。これほどうれしいことはない。あたしはいま、はじめておまえのこころをしれたきがする』
『おおげさだ』
苦笑しつつ、オルタナは視線をそらすようにして私を見た。
『それで、どうする?』
少し考え、私は宴へ参加する事にした。
アードラーに一声かけると、オルタナの家を出る。
言葉がわからないと困るので、雪風も連れて行く。
私はコルドラに案内され、彼女の家へ向かった。
家の中には、見覚えのある女戦士達が揃っていた。
オルタナ家の前で戦った女戦士達である。
家の中は、オルタナの家と同じく一間だけの間取りである。
地面には毛皮が敷かれている。
家の中央には、大きな瓶が置かれていた。
『さぁ、これをつかえ』
そう言って渡されたのは、木の杯である。
「ありがとう」
『さけをくみかわそう!』
『いちばんはクロエだ』
そう言って瓶の前まで進まされた私は、言われるままに中の液体を杯で掬った。
杯に注がれたのは、濃い赤の液体である。
甘い匂いがして、その中にほのかなアルコール臭が混じっている。
「じゃあ、いただきます」
軽く杯を掲げてから、一気に中身を飲み干す。
酒を飲み慣れていないので良し悪しはわからないが、まだ飲みやすい味だ。
香りと同じく甘い。
アルコールの度数も高くはなさそうだ。
『さぁ、あたしたちものむぞ!』
コルドラが言うと、女戦士達もそれぞれ手にした杯を瓶の中の酒で満たした。
次々とそれを口にしていく。
それを見ていると、私の頭が痛み出した。
やっぱりだ。
私は酒を飲むと頭が痛くなる。
けれど、その時の対処法も心得ていく。
もっと飲み、深く酔う事だ。
ただ、二杯目の飲酒はママから禁止されている。
でも、ここではその言いつけも意味はないかもしれない。
何より私だって成長している。
大丈夫かもしれない。
上手い具合に酔い方を調整すれば、前のような惨事にはならない、はず……。
と楽観視しながら、私は二杯目を口にした。
翌朝。
私はパンツ一丁で目を覚ました。
隣に倒れていたコルドラは何故か全裸であり……。
そして彼女の家は倒壊していた。
今日の更新分は続きで閑話が入ります。




