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三話 戦士の村

 すみません。

 更新が遅くなりました。

『わたしのなは、オルタナ。おまえのなをききたい』


 赤毛の女性は、私にそう訊ねた。


「私はクロエ。よろしく。あと……」

『おまえのなだけでいい』


 アードラー達の名前も紹介しようとしたが、それを断って背を向けた。

 オルタナが周囲へ声を発すると、茂みの中から六人の女性が歩み出てきた。

 皆、オルタナと同じ槍を手にした、褐色肌の女性達である。

 服装も毛皮の種類は違えど、オルタナと同じ半裸であった。


『ついてこい』


 そう言って、オルタナは歩き出す。


「私は自分で歩けるわ」


 私は少し悩み、すずめちゃんと断ろうとしたアードラーをお米様抱っこしてついていく事にした。


 オルタナの背を見ながら歩いていると、他の女性が彼女へ近づいた。

 何事かを口にする。


『よろしいのですか?』

『いだいなせんしのことばだ。わたしはしんじる』


 雪風が意訳して私に内容を教えてくれる。

 オルタナの口調は凛々しいが、雪風の伝えてくる口調と声がポップなのでかなり違和感がある。


 容赦なく叩きのめしたが、しかしどうやらオルタナはあまり私へ悪感情を持っていないようだった。


 そうして案内された村は、丸太の杭を並べて刺しただけの簡素な防壁に周囲を守られていた。

 入り口には、木々を組み合わせた門と扉があり、門には何かの動物の頭蓋骨が飾られ、通る者を睥睨しているかのような印象を受ける。


 門の前には、守衛と思しき半裸の女性が槍を持って立っていた。


『オルタナ。そのものたちは?』

『せんしだ。われわれのむらへいちじてきにむかえいれる。オサにはわたしからつたえる』

『わかりました』


 オルタナが言うと、守衛の女性は門を開けて私達を迎え入れてくれた。


 門の先にあったのは、木製の家屋が建ち並ぶ村だった。


 村の往来を行き来する人々はオルタナに挨拶し、見慣れない私達へ興味を示しながらも通り過ぎていく。

 人々は大人や子供もいるが、大人の女性達は皆引き締まった体をしていた。

 槍こそ持っていないが、すぐにでも戦えそうな体つきである。

 そしてどうも村の雰囲気に違和感があった。

 少し考えていて気付いたのは、男性が一人もいない事である。


 アマゾネスってやつ?

 アマゾネスは、アマゾンに住んでた部族だからアマゾネスなんだろうか?

 そもそも実在したのだろうか?


 と思いながら、私はオルタナに案内されて、一軒の家屋へ辿り着いた。

 家屋の中に間仕切りはなく、ただ一つの広間があるだけだった。


 部屋の壁には、何かの薬草が干されていたり、何かの骨が吊られていたり……。

 その影響か、独特の臭いが篭っていた。


 そんな部屋の中に、三人の老女が座っていた。

 その中で部屋の奥に位置する場所で座る老女は、その頭に派手な色の羽飾りを着けていた。

 目蓋の肉が垂れていて、目を開いているのか開いていないのかわからない。


『オサ』


 その女性に対し、オルタナは声をかける。


『きゃくじんをおつれした』


 オサ、と呼ばれた老女はこちらへ顔を向ける。

 多分、オサという事でいいのだろうか?

 なら、村長さんと言った所か。


『こどもはよい。しかし、せんしかじゅじゅつしいがいのたちいりはゆるされない』


 ん?

 呪術師もいいの?


『このものたちはせんしだ。このクロエはわたしよりもはるかにつよい。たたかったが、てもあしもでなかった』


 部屋にいた老女達が驚きを見せる。


『さらにじゅじゅつしでもある』


 老女達はさらに驚いた。


『むらいちばんのせんしであるおまえをくだすものがあるか……。しかもじゅじゅつしであると。にわかにしんじがたい。いつわりではあるまいな?』

『ちかって』

『そのおんなは?』


 長はアードラーを指して問う。

 アードラーはすずめちゃん同様、今も私の肩に担がれたままだ。

 気付いたら、意識を失っていた。

 私が思っていた以上に無理をしていたようだ。


『わからない。しかし、クロエにひってきするせんしであるというはなしだ。いまはたいちょうをくずしているためちからをはっきできないらしい』

『まことか?』

『わたしはクロエをしんじる』

『いつわりであれば、そのだいしょうはしであるぞ。せんしのえいよははくだつされ、そのなはえいえんにほうむられることとなろう』


 おう……。

 なんかちょっと心配になる話だ。


 しかし、本調子のアードラーならオルタナにも勝てるだろう。

 本気を出して避けに徹したアードラーには、私も攻撃を当てられないし。


 それがダメだったとしても、呪術師として受け入れてもらえる。


『そのかくごがあるなら、たいざいをゆるそう。しかし、たいちょうのかいふくをまち、そのしんぎはたしかめねばならぬ』

『しょうちした』


 アードラーが回復したら、戦わされるかもしれないな……。

 それに関しては、それほど心配していないけど。

 それ以上に、今のアードラーとすずめちゃんの体調の方が気になる。

 できれば、早く話が終わって欲しい。


 と思っていると丁度話は終わり、オルタナは立ち上がる。

 家屋を出て『ついてこい』というオルタナに言われるままついていく。


 そして、一軒の家屋に着いた。


 この村の家屋は大小の違いがあれど、その構造は同じように思われた。

 入り口にドアはなく、毛皮の布が中を隠すように垂れ下がっているのみである。


 壁は村を囲うものと似て、丸太を幾本も並べ立てて形作っているようだった。

 窓も床もなく、地肌の上に毛皮の布を敷きつめている。


『ここがわたしのいえだ。ここにたいざいするといい』

「ありがとう」


 雪風越しに礼を言って、私達は家屋の中に入った。


『ねえさん?』


 家屋に入ると、中にいた人物から声がかかる。

 声のした方を見ると、毛皮の寝具に横たわる少女が一人。


『ただいま。ニナタ』


 オルタナは少女に声をかけ、表情を綻ばせた。

 ニナタと呼ばれた少女は、笑みを返す。

 しかし、オルタナに続く私達に、少し不安そうな表情を見せた。


『ねえさん。そのひとたちは?』

『しばらく、いえであずかることになった。むらのそとからきたものたちだ』

『そうなの……』


 オルタナは私達に向き、口を開く。


『いもうとのニナタだ』


 寝具の中のニナタちゃんをオルタナは紹介する。


『ニナタです』


 ニナタちゃんは自己紹介するが、まだ少し不安そうだ。

 こういう時は……。


「行け、ユッキー」

『わぁい!』


 私は雪風をニナタに差し向けた。

 彼女の緊張を解きほぐせ、可愛いもの爆弾!


「わんわん」


 雪風がニナタちゃんの所まで行き、ぴょんぴょんと跳ねる。

 その様子に、ニナタちゃんは「まぁ」というように手で口元を覆った。

 犬が喋る状況に驚いているが、それ以上に楽しさが勝っているようだ。


「クロエです。よろしく」


 緊張が解けた所で名乗っておく。


『よろしくおねがいします』


 柔らかい表情でニナタは返す。


 さて……。


「そろそろ、二人を寝かせてあげてもいいよね?」


 私はそう、雪風越しにオルタナへ言った。




 オルタナは、体調を崩した二人のために毛皮の寝具を用意してくれた。

 二人は今、それに寝転ばされ、寝息を立てている。


 とりあえず落ち着いて、私は敷き詰められた毛皮の上にあぐらをかいていた。

 その足の上に、雪風を座らせている。

 寝具を用意してくれたオルタナは、ニナタの横に座って話しかけていた。


『つらくはなかったか?』

『だいじょうぶよ、ねえさん。きょうはちょうしがいいの』


 雪風を介して、その会話を盗み聞く。


 すごい便利アイテムになったなぁ、お前なぁ。

 と、雪風の頭をごしごしと掻く。


『アフロ?』


 しないよ。


「ニナタちゃん、体調を崩してるの?」


 私はオルタナに訊ねた。

 振り返り、オルタナは答える。


『……うまれつきだ。からだがよわく、ときおりむねがくるしめられる』


 ふぅん。


「少し、診てもいいかな?」


 お医者じゃないから、そこまで詳しくわからないけれど。

 魔力を使えば、なんとなく体の中を調べられる。


 場合によっては、私でもなんとかできる病かもしれない。


『……そういえば、おまえはじゅじゅつしだったな。むだだとおもうが……』

「どうして?」

『……それはやまいではなく、しるしだからだ』


 しるし?


『だが……おねがいできるか?』


 苦しげな声だった。

 胸を締め付けられたような、そんな……。


 無駄だと言いながらも診る事を許した事から、どうにか治したいと思っている彼女の心中が見て取れる。


 オルタナは私に席を譲った。

 私は彼女がさっきまで座っていた場所に跪く。


「お体に触りますよ」

『はい』


 ニナタちゃんに訊く。


「妹さんのお体に触りますよ」


 ついでにオルタナにも訊いた。


『なぜ、しつようにねんをおす?』


 少し緊張した様子のニナタちゃんの体に触る。

 細い体だ。

 素人の視点から見ても一目で、尋常ではないとわかる。

 魔力を通す。

 が、そこである事に気付いた。


 自分の魔力が上手く流れない。


「ニナタちゃんは、魔力を持っているんだね」

『まりょく? では、ニナタにはじゅじゅつしのそしつが?』


 私が頷くと、オルタナは驚いた様子を見せる。


 しかし、魔力があるのか……。

 魔力を流しにくいから、よく見えないだよなぁ……。


『そうだったのか……。じゅじゅつしはオサのそっきんからさきはたえてひさしい』


 オルタナは言って、目を閉じた。


 長の側近という事は、あの部屋にいた誰かだろうか。

 でも、あそこにいたのはみんなお歳を召した方達ばかりだった。


 とても長い間、魔力を持った人間はこの村で生まれていないという事だろう。

 アールネスでも、魔力を持たない人間から魔力持ちの人間が生まれる事は稀だったけれど。

 何十年もないという事はあるのだろうか?


『じゅじゅつしのそしつがあるなら、むらにいることもゆるされる、か』

『ねえさん。わたしはもう、めいよをえているわ』

『そうだな……』


 二人の会話を聞きながら、ニナタちゃんの体を調べていく。


 ん?


 私は右目にピリッと痛みを感じた。

 ゴミでも入っただろうか?


 いや、違うな。

 今の一瞬で、何か懐かしい気配を感じた。

 これは……。


 私はニナタちゃんの胸に手を当て、白色を流した。


「あ……」


 吐息と一緒に、ニナタちゃんの口から声が漏れる。

 彼女の表情が、心地良さそうなものに変わる。


『すごく、きぶんがいい……』

『なにをした?』


 オルタナが訊ねてくる。


「癒しの術をかけてる」


 オルタナにも解るように短く答える。


 しばらく、白色を流し続ける。

 その間、ニナタちゃんは心地良さそうにしていた。

 しかし……。


「く、ぅ……」


 徐々に、ニナタちゃんは苦しみだした。

 追い出すまではできないか……。


『ニナタ! クロエ! なにをした!』


 強い剣幕でオルタナに詰め寄られる。


「苦しめるような事をしたわけじゃない。でも、原因は多分私だ。それは謝る」

『この!』


 オルタナは私の襟首を掴み、頬を殴った。

 私はそれを甘んじて受けた。


 そんな私の意図を察したのだろう。

 オルタナは襟首から手を放す。


 あの時と似たような状況だ。


「ニナタちゃんは、黒色に蝕まれているんだと思う」

『なんだそれは?』

「神様が人を恨み、生み出した呪い、かな?」

『かみ、か……』


 オルタナは呟くと、力なく両腕を下げた。

 俯けられた顔には、苦悩の色が濃く浮かんでいた。

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