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序章 翔んで密林

 取り巻く大気は湿気を多分に含んでいた。

 霧中を行くような清涼さはなく、湿気は熱を含み体へまとわりついてくる。

 さながらそれは自身の体温が放熱されずに蓄積されていくように錯覚され、甚だ不快である。

 慣れない暑さだ。

 こういう気候の場所に来たのは、きっと前世を通しても初めてだろう。


 周囲の全てを見渡しても、木々の緑ばかりが目に入る。

 その道なき道を先導しながら、私は歩いていた。


 後ろを見るとみんながいる。

 アードラーとすずめちゃんと雪風だ。


 定期的にこうして確認しないと、不安だった。

 それはここがどこなのか、何もわからない状態だからだろう。


 森の中で生きるためのすべはパパから教わっている。

 けれどこの森の木々は、私の知る森の中とは雰囲気がまるで違う。

 何より、ここがどこかもわからないのだ。


 そう思うと、殊更に皆の安否に注意が向いた。

 特に、雪風は珍しい土地に少し興奮気味なので、どこかへ走り出しそうで一番不安だ。

 なので、アードラーに抱き上げて移動してもらっている。


 転移される時に私は強化装甲を着ていた。

 だから武装はあるし、荷物を持ち歩くための背嚢としても使える。

 ただ、荷物の全てはおいてきてしまった。

 その事実もまた、不安を煽る一因だった。


「アードラー、水飲む?」

「欲しいわ」


 彼女の手が塞がっているので、手から魔法で水を出し、アードラーに飲ませる。

 零れないように、指先から彼女の口に水を出す。

 少し零れて口から漏れたので、それを拭ってあげた。


「ありがとう」


 幸い、水は魔法で出す事ができる。

 この土地の水が私達に合うかどうかわからない今の状況で、これはありがたい事だ。


「すずめちゃんは?」

「飲む」


 私はすずめちゃんにも同じように水を飲ませた。


『ゆきかぜも!』


 と、雪風が念話で話しかけてくる。


「ゆっきーはちょくちょく自分で出して飲んでるでしょ?」


 私、知ってるんだから。


『みんなといっしょがいい!』

「はいはい」


 私は雪風の口に水を注いだ。

 べろべろ舐められた。

 雪風の毛で手を拭った。


 ついでに湿気を利用して雪風をソフトモヒカンにする。


『アフロ? アフロ?』


 と期待に満ちた声で雪風は訊ねてくる。


 それはもう絶対にしない。

 絶対に、だ!


 何故私達がこんな場所を歩いているかと言えば、ちょっとした事故と答える他にない。

 ある種の転移装置で転移失敗し、よくわからない場所に飛ばされてしまったのである。

 まるでゲームの隠しイベントのようだ。

 ゲームなら新しい土地に来てわくわくする所だが、現実でそんな事が起こると困るどころではない。


 みんな無事だった事が、不幸中の幸いではあったけれど。


 さて、これからどうしたものかな?

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