序章 海を渡る元悪役令嬢
これは別作品である「気づいたら、豪傑系悪役令嬢になっていたSE」の外伝です。
本編「時の女神編」までを読んでから読む事を強く推奨致します。
本編とは少し毛色の違う話になります。
残酷な描写が苦手な方はご注意ください。
聖杯を巡る戦争を描いた作品の無印とゼロくらい違います。
ハイファンタジーからアクションにジャンルを変えました。
今、私の目の前には、波立つ海とその先にある島国の港が見えていた。
目の前に見えるその島国は、倭の国と呼ばれている。
私の名前はクロエ。
クロエ・ビッテンフェルト。
アールネスの貴族、ビッテンフェルト公爵家の人間にして転生者である。
元々、前世で日本人だった私は、不幸な事故によって命を失った。
そして、この異世界へクロエ・ビッテンフェルトとして転生した。
実はこの世界は「ヴィーナスファンタジア」というゲームシリーズの世界であり、クロエ・ビッテンフェルトはそのゲームの登場人物だった。
そのゲームは当初乙女ゲームであり、私の役所は悪役令嬢。
ただ、私が転生したクロエという人物は、よりにもよって異端とされるそのゲームの中でもさらに異端に位置する「豪傑系悪役令嬢」なる奇怪な称号を受ける悪役令嬢である。
武芸に優れ、ヒロインとは恋のバトルではなくガチのバトルを繰り広げ、攻略対象を奪い合うバリバリの肉体派だったのだ。
そして、恋に破れると死ぬ運命にあった。
その死の運命を回避するため、私はいろいろと頑張った。
本当にいろいろと頑張った。
父を倒し、王子様を蹴り倒し、女神様も殴り倒した。
そして、なんやかんやあって死の運命は回避できた。
なおかつ私は婚約者と無事に結婚。
人妻となり、今や一児の母親である。
豪傑系元悪役母親である。
しかし、こうして子供とも離れ、母親としての責務を果たせない私はいったい何なのだろう?
もはや、悪役でも令嬢でもなく、母親とも呼べない。
なら今の私は、ただの豪傑なのかもしれなかった。
そんな私は今、異国の地へと渡ろうとしていた。
「はぁ……」
一つ溜息を吐く。
早く帰りたいな。
まだ目的地に到着すらしていないのに、私の心は家に残してきた娘の事でいっぱいだった。
たったの一ヶ月。
事がうまく運べば、往復してもその程度だろうという話だ。
けれど、私が危惧しているのはそんな事ではない。
私は……。
この別れが、時のもたらした運命によってとても長くなるのではないか、という事が不安でならなかった。
この倭の国編はクロエの行方不明間の話、その序章にあたるものです。
ただ、今の所そこまでしか考え付いていないので、倭の国編の連載が終わるとしばらく更新がストップすると思われます。
これを書き終わると、書きたかった事は今の所全て書いたという事になります。