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俺が拾った武器に宿った精霊がドS  作者: 双葉
第一章 『拾った武器と』
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プロローグ  『成長と別れ』






 ある日、小さな村にある孤児院の入口に、大きなコートに包まれた赤ん坊が置き去りにされていた。


 その日は土砂降りの雨、いくらコートに包まれて居ても赤ん坊には耐え難い温度、季節は春から移り変わろうとしているが、寒さはまだまだ続いている。


 入口に置き去りにされた赤ん坊を見つけたのは、孤児院に居る子供達だった。



 最初は配達されたミルク瓶ケースだと思っていたが、包まれたコートをゆっくりと、プレゼントの包装を丁寧に開けていく様に結ばれた袖を解くと。



 ――んんぅう



 中にあったのはミルク瓶ではなく、まだ小さな赤ん坊。

 雨が地面に叩きつける音に、うるさいとばかりにイヤイヤと、頭を左右に動かす。


 まるでお宝を大発見したとばかりに、子供達は玄関の扉を開けて中に居る院長に、大きな声で叫ぶ。



 ――お母さん!!



 扉を少しだけ開けて、その隙間から顔だけを出してその人を呼ぶ。

 何事か、そんな血相を(あら)わにしながら慌てて玄関へやってきた。


 皆の母親代わりの院長は、子供達が『これ』と指さす一点に視線を下げる。



 ――赤ちゃん?



 余り驚かずに、コート越しに眠っている赤ん坊を抱き上げる。

 孤児院では置き去りにされた子供などは良くあることで、こうして赤ん坊を置いていく親も居る。


 捨てていく親は無責任だ、捨てるなら産むな。


 子は親を選べない、その逆で親も子は選べない。


 子は神様からの贈り物とはよく言われた、この村でも子供達は大切な存在として見守られている。


 では何故捨てられるのか、恐らくこの村の外からやって来た人が孤児院の事を知り、置いていくのだろう。


 今では、10人近い子供達が孤児院(ここ)で生活をしている。



 院長はコートに包まれた赤ん坊を、神様からの贈り物と思い、大切に育て始める。



 赤ん坊は男の子で、名前は『ドライグ・ヴァンホッセン』

 男の子の小さな手に、握りしめられていた紙に書かれていた名前。


 元の親を探す事はせずに、我が子の様に時間を掛けて、院長はドライグを育てていく。



 育て始めてから数年、ドライグは10歳になった。

 赤ん坊の頃からほとんど夜泣きもせず、物静かで、共に成長した孤児達と本を読んだり、外を駆け回ったり、普通の子供と何ら変わらない生活の日々を過ごす。


 そして、それから5年が経った日。


 母親として慕っていた院長に、ドライグはある事を口にする。





 ――母さん、俺もうちょっとデカくなったら、ここを出るよ。




 朝食の準備をしていた院長は、突然家を出ると言い出したドライグの顔を見ながら、驚いた顔をする。


 ドライグだけでは無く、巣立った孤児達は数人と居るが、大体20歳を超えてからが当たり前だと考えていた院長。


 拒否しようとしたが、ドライグが見つめる目は真剣その物で、スカイブルーの瞳はキラキラと輝き、何かを目指しているような、希望に満ちた瞳をしていた。



 ふと、ドライグが手に持っていた物が視界に入る。




 ――ようせいのえほん



 妖精の絵本、内容はある旅人が森で道に迷い、食料も無く、死を覚悟した時、突然目の前に妖精が現れて森から出られる道を案内してくれる。


 森から出られた旅人は、その妖精にお礼がしたい。

 そう話すと、妖精は『世界を救う手伝いをして欲しい』と旅人に話す。


 旅人は気ままに大陸を歩いていたからか、それくらいならお安い御用だと『世界を救う』勇者になった。



 だが、この内容の最後。



 旅人が森で見た妖精は現実の物ではなく、森で行き倒れてしまい夢の中で見た幻だった。


 夢の中で世界を救い、達成した時に彼は目が覚める。

 最後に見たのは、光に包まれていく妖精の姿で、視界がホワイトアウトする。



 その光の正体は、救助にやってきた隊員のランタンの光だった。


 確かに妖精は居ない、幻の物だったが。

 彼はそれに導かれて、命を落とさずに済んだ。




 そんなお話が書かれた絵本を握りしめるドライグ、院長は慈愛に満ちた笑顔で。




 ――そう、やりたい事が見つかったのね。




 食事の準備の手を止めて、優しくドライグの頭を撫でる。

 ちょっと照れているのか目を逸らすドライグは、顔をさくらんぼの様に赤くする。



 いつもドライグは思っていた、どうして孤児である自分達にそこまで優しくできるのか。


 それは本人に聞いてもいつも通りで。




 ――あなた達が可愛いからかしらね。




 これの一点張りだった、拾ってくれた院長であり母親の代わりをする女性。


 怒ったり、笑ったり、悲しんだり。


 表情も豊かでありながら、女神様の様な眩しい笑顔をいつも絶えず皆に振り撒く。



 そして18歳になったドライグは、今日孤児院を出ると告げるために、院長の部屋にやって来た時だった。


 何やら部屋が騒がしく、気になったドライグは扉を開けて中に入ると。




 ――フレイトさん! いやぁぁぁぁあ!!



 大人数人が一つのベッドを囲み、1人叫ぶ女性が抱きつくように、静かに眠る院長を前に泣きじゃくる。


 フレイト・サイルダー、院長の名前だ。



 中に誰かが入って来た事に気づいた大人達は、こちらを見ながら。



 ――すまない



 母さんである院長が死んだ、そういう意味で謝ったのか、それとももう二度と会えないから謝ったのか。


 その時はよく理解できていなかった。



 出立する日に突然の別れ、急な事すぎて頭の整理ができないまま、ドライグは荷造りを始める。



 元々荷物は少なかったからか、数10分で片付けが終わる。

 長く使っていたテーブルの引き出しを開けた時、中からメモ帳が出てくる。


 1枚目をめくると、書かれていたのは。





 ――コートの中に、大事な物を入れてあります。




 何のことかわからないドライグ、服を片付けていた収納棚を見てみると。


 綺麗に畳まれていたコートが、少し埃を被って置かれていた。

 コートを広げてポケットを探ると。




 ――これは……



 見た事のないロケットペンダント、そして小さな布袋に入ったお金だった。


 毎日部屋の掃除を欠かさなかった院長、洗濯物も大量にある筈なのに文句一つ言わない。


 決して愚痴さえも言わなかった、そんな優しい母親代わりの院長をいつしか守りたい存在だと思っていた。



 メモ帳にはまだ続きが書かれていた。




 ――世界は広いの、色んな世界を見てみなさい。



 ――また、疲れたら帰ってきなさい。




 この時、ドライグは目から零れる大きな雫を床に落とす、最後の最後まで彼女は母親で居てくれた。


 決壊したダムは止まることを知らない、手で擦っても擦っても溢れ出す。


 初めて大切な何かを失った瞬間だった、もうあの笑顔は見れない。


 死は永遠の別れ、でも背中を押してくれた。




 ――行ってくるよ、母さん。




 ドライグは、院長、いや、母が居る空を見ながら呟き、小さな村と小さな家を後にした。




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