チカラ
「力、力があったらっ！！」
「俺に無限の、絶大な力があったらアイツを守ってやれたのに……」
「ううっ、俺は、なんて無力なんだ！」
――チカラが欲しいか？
「なっ！？ この声は！？ 脳内に直接語りかけて来る！？」
――チカラ、チカラが欲しいか？
「ま、まさか。俺に力を与えてくれると言うのか？」
――誰にも負けぬ、ありとあらゆる者を屈服させる無限のチカラが欲しいか？
「全て失った身。なら、これに賭けるのも……」
――さぁ、答えよ
「ああ、欲しい！ 俺にチカラを寄越せ！ チカラが欲しいんだ！！」
――えっ？ マジで欲しいん？
「えっ！？ ほ、欲しい！」
――自分、それホンマに言うてるん？ 冗談ちゃうの？
「欲しいに決まってるだろ！ 巫山戯るな！ サッサと寄越せ！」
――いやいやいや、そう急かさんとってーな。ってか自分、なんでチカラ欲しいん？
「復讐だ……。俺の恋人はアイツラの攻撃に巻き込まれて……。全てを奪ったアイツラに、思い知らせてやるんだ！」
――ああ、それアカンわ。そんなん聞いたらおいちゃんもうチカラやれへんわ。
「なんでだよ！」
――だって自分、そんなおいちゃんチカラやったら復讐するやろ？ ちゅーことは万が一誰か死ぬって事やん？ そんなん後味めっちゃ悪いやん
「けど、けどアイツラは！ アイツラは俺の大切な人を！ 大切な人を！」
――なになになに？ 大切な人って、どういう事？ どうせ盛ってるんちゃうの？
「アイツラが襲って来たせいで、俺の大切な人は死んだんだ！ くそっ！ あそこで瓦礫が降ってこなかったら！」
――うわー、まじかー。なんやそんな事あったんやー。うまい事いえへんけど、ご愁傷様やで……
「いや、いい。もうアイツの笑顔は帰ってこないんだ。それよりも力をくれ。奴らに復讐する力を！！」
――あー、それな。ちょっとな、ちょっとだけ待ってくれへん？
「なぜだ！？ お前は俺にチカラを授けてくれるんじゃないのか！？」
――なんかおいちゃんこんな重い話聞いたん初めてやったから、なんや凹んできたねん……頭よー回らんわ
「いいから、さっさとチカラを寄越せ！ 悪魔か何か知らないけど、お前はその為の存在なんだろう！？」
――いや、おいちゃん派遣やで？ 派遣にはちょっとこれきっついわ。上長に確認しんと……
「じゃあさっさと確認しろよ！」
――しゃーないな。まぁ今日は上長わりかし機嫌いいからすんなり聞けるわ。自分マジで運ええで？
「早くしてくれ……」
――よし、まっとけ！ すんませーん！ 佐々木上長ー！ あ、忙しいところすんません。この案件なんすけど、なんや結構重い話で…………
「チカラが……チカラさえあればっ！！」
――えっ？ 今日っすか？ いや、まぁ時間はいけますけど……。ああ、やっぱ押してるんすか。何時まで？ 終電は……ああ。はい、はい。分かりました。しゃーないっすね
「絶対復讐してやる。絶対に、絶対にだ！」
――櫛田君ー。橘さーん。上長が今日終電まで残業してくれってさー！ ほら、あの件、チカラ暴走してもてエライ事なった件。上に目つけられてヤバイねんて……って櫛田君なんでやねん！ こりゃ櫛田君に一本取られたわ！ がっはっは！
「まだか……まだか……」
――おまたせー。なんや今日終電ギリギリまで残業決まってもーたわ！
「いいから早くチカラ寄越せよ！！！」
チカラは貰えなかった。
終わり。
