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第四章

中原徹と出会い、あれからしばらくたって春が過ぎて梅雨の季節になった。

あれからというもの、越岩くんはもちろん中原徹などの面々はゲーセンに行けば、よく目にするようになった。

中原徹とは、別にコレといって話をするわけではないが、ゲーセンで対戦した後などには決まってこちらへとやってくる。

その時には言葉をいくつか交わしたりもする。無論、私的な話というよりは対戦の改善点などのゲームの話題について。

どうやら、相当色々と練習を積んでいるようだ。

それに比べて。

越岩くんはと言うと相変わらずのダメダメさを誇っている。ま、弱いなりにはがんばっているみたいだが――――――。

そんなんで最近のゲーセンは身内で結構、賑わっている。

良い傾向といえば、そうだろう。知り合いに格ゲープレイヤーが増えるのは喜ばしいことだ。



さて。

私は昼休みの鐘を聞いて席をたった。

弁当と携帯ゲームを手にして瑞希の席へと迎う。

「ふぅ。今日も授業だるかった」

溜息混じりで愚痴を溢した。

何で授業なんかが、この世に存在しているのか。私は不満でしかたない。

対して

「あははっそうかな?」と隣で神々しく笑う瑞希。

あなたは神ですか?と問いたいね。勉強にしろ、何にしろ、そのプリティースマイルを浮かべることが何故できるんだ。私では大抵のことに反感を覚えてしまうタイプなのだが。

そんなんで、もはや日常となっている様に瑞希の席で昼食を共に食べ始める。


しかし、最近はそんな日常がとても楽しく思える。ま、ゲーセンに関してもそうだ。

新しい変化と言うのは新鮮で心地よい。

しかし―――――。

やはり、まだ何か物足りない気がしないでもない。いや、絶対に物足りない。

いくら、ゲームしても物足りなさを感じる。

それは何故だろうか?

ふと、箸を置いて考えにふけていた。


すると。

荒々しく教室の扉が開いた。

入ってきたのは越岩くんに他ならない。

「雨水さん!」

大声で私の名を呼ぶ。そのせいで教室内の目がこちらへと注がれる。

まあ、これも最近は慣れてきた。

「うるさい」の一言のみで返す。

「あっ、すいません」

ぺこぺこと頭を下げてくる。

「あっ!いや!そうじゃない!そういやニュースがあってきたんです」

「ニュース?」

一般的なニュースには興味はない。特に芸能とかならナイセンスである。

「そんなん興味ない」と私。

「いや!ビッグニュースです!ビッグニュース!大きい報告です!」

と英語と日本で強調して言う。

「だから、うるさい」

「あっ、すいません!」と再び頭を下げる。

まったく、いそがしい奴である。

「で、そのビッグニュースって何?」

私は聞き返した。

「ああ、そうそう!ニュースですよ。きっと雨水さんは喜びます」

「まどちゃん関連のニュースなの?」と横から口を出したのは瑞希。

「そうですね」

「ゲームの新作の発売日なら全てチェック済みよ」と答える私。

「まどちゃん、凄いね」

「うわっ、確かに、それはそれで凄いですね。けど新作の発売日ではないです」と首を振る。

そして―――――。

「大会ですよ!」

そう告げる越岩くん。

「大会?ゲームの?それなら毎週一回出てるじゃない?」と私。

「それは店舗の自営業大会でしょう。俺が言ってるのは全国まである大きなビックタイトルの大会です」

「ああ、知ってるわ。毎年一回ある奴でしょう」

「そう格ゲーマーの祭典ですよ」

そうなのだ。この時期になると格ゲーの祭典とも呼ばれる大きな大会がある。

まさか、私が知らないはずが無い。

「でも、あれ2or2が基準でしょう。だから一回も出たことないの」

2or2。それは名前通りに2対2のこと。

つまり、二人一チームの大会。

しかし、1or1でないのがおしい。1or1なら必ずといってもいいほどでるべき大会である。

店舗予選、地方予選、全国と三段階に試合が行なわれ全国優勝したら正にナンバーワンの座は手にしたものと言ってもいいくらいの大きな大会。

しかし、毎年1or1ではなく2or2で大会が行なわれるために一度も出る気がしない。

何故なら私と組むように相応しい人間がいないから。それと、私が他人と組むなんてありえないから。理由はその二つであった。

「雨水さんのことです。毎年毎年、組む相手がいなかったんでしょう。でも、なら今年は俺がいるじゃないですか!俺と組んで宇宙を目指しましょう!」と誘いの言葉を述べる越岩君。

「勝手に宇宙でも目指しときなさい」

私は当然、断るのが当たり前のように、それが鉄則のように即拒否する。

「何でですか!?」と越岩君。

「結果が見えてるから」

「くっ、悔しいが俺は弱いですよ。確かに弱いです!ですが、目の前の壁を壊してこそ男ってものですよ!」

「いや、私は女だし」

「ガーン!」と三流コメディーのようなリアクションをとる越岩君。

もう、勝手にやってくれといった感じである。ま、それ依然に邪魔だから帰ってくれって感じだ。

「でも、まどちゃん?せっかくの大会だし出てみれば」と瑞希。

「瑞希―――私が出ない理由判るでしょう?私と組める人間は誰が存在するっていうのよ」

そう瑞希に問い掛ける。

そう出れるものなら出たいよ。私は地元では有名であるが全国の経験がない。だから全国の人たちと戦いたい。

が、組むパートナーがいなければ仕方がないのだ。

「だから俺が!」と隣で喚く越岩君。

私は、一回、そちらを向いて睨み付けると、越岩君は、それっきり黙ってしまった。

「誰と言われてもね。まどちゃんならゲーセンに沢山友達いるでしょう」

「ま、知り合いは多いわね。――――。でも私と組むまでの人はいないの」

「そうなの?」と瑞希は少し落ち込むように声を小さくしていう。

「瑞希。私も出たいのは山々だけど、わざわざ無理にパートナーを組んでまで出ようとは私、思ってないから」

「でも全国だよ。まどちゃん、そういうの好きでしょう―――――」

どうやら瑞希は私の性格を考えてものを言っているようだ。

だから、確かに出来るものなら出たいよ…………。でも変な人や弱い人と組んで出るのは代えって恥ずかしい。

だから今年も出場は無理―――――。

そう思いかけたときに。

「あっ!中原先輩とかどうなの?」と瑞希が閃くように名をあげた。

「中原!」

すると黙っていた越岩くんが口を開ける。

「ダメダメ!あんな奴と組むなら俺と組みましょう!」

そう主張してくるが聞こえない不利をする。

中原徹か――――。なるほど。

私は心の中で呟いた。



その日の放課後、私は当然のようにゲーセンに向かった。

私がゲーセンに迎うという行為。それは日常であり、一般。

歯を磨くのと同等。いや、大げさかもしれないが空気を吸うのと同等なレベルである。

しかし、今一番、考えることは昼のことである。

大会。それを、どうするか。今年も出ないという手は有る。

しかし、出来ることなら出たいのが私情。なら次に組む相手をどうするという話になるのだが――――。

中原徹。彼はまぐれでも、奇跡でも一度私と張った実績を持つ唯一の男。

彼なら――――――。

そう思うようになっていた。

彼なら私にまだ遠く及ばず、吊り合いはしないもののパートナーとしてもいいかな―――――。

そんな感じである。

まだ意識はハッキリとはしてない。

しかし、大会に出るとして組むなら彼以外にはいないと思うのであった。



ゲーセンに着くと、めずらしく私と瑞希より先に中原徹の姿があった。

しかし、気にせずに、そのまま対戦台に座ってクレジットを投入する。

それとほぼ同時に向こう側でもクレジットが追加。

乱入である。

相手は無論、中原徹であろう。

お互いにキャラを選択。

そして対戦開始である。

あれから何回目であろうか。中原徹とこうして戦ったのは。

結果は始めの一回以外は全て私の圧勝である。

が、実際に中原徹の技術にはたまに驚かされるときがある。カウンターのとり方では恐らく私より上ではないだろうか。

私には負けるものの、ここら辺では彼を私に次いでナンバーツーと呼ぶ人もいる。

――――――。


そして、今回も結果的には私の圧勝であった。

「いや、負けた、負けた」と反対側から、そう言いつつ中原徹がこちらへとやってきた。

「負けたって平然としてるけど悔しくないのかしら」と私。

「そりゃ、負ければ悔しいさ。でも君は別格に強いからな」

「その言葉からすると絶対に適わないみたいな言い方に聞こえるわよ」

「今は君には絶対に適わないんじゃないかな」

笑いながら、そう言う中原徹。

ああ――――――こいつは全然わかっていない。

「あなたが私に勝てない理由を知ってる?」

「さあ、技術?勘の鋭さ?なんだろう?」と笑顔で言う。

「なるほどね」

私は大きく息を吐いた後に呟いた。

どうやら彼は自分の欠点に本当に気付いていないようだ。

彼の欠点。それは勝ちに拘る欲である。中原徹にはゲームが好きっていうオーラは直ぐに判るが、好きでお仕舞い。勝ちに拘っていない。

それが私との差。技術では実際、私が少し上くらいである。

勝ちに拘れば、私と張り合う力をもっている。実際に初めて戦ったときが、そうだったように。

実にもったいない。

実に――――――。

はあー……………。

私は溜息をついた。

「中原徹!」私はうるさいゲーセン内でも一際大きな声で彼の名を呼んだ。

「なっ、何?」

突然の大声に少々、居をつかれた顔をして返事をする。

いつものように、隣に座っている瑞希も何事かという様な顔で驚いていた。

「中原徹。あなた、今度ある大会で私とペアを組なさい!」

私の命令口調からの命令が中原徹に命令された。

「――――――」

中原徹は静止。

瑞希はというと面白そうに頬笑んでみている。

「えーっと、大会ってあの?全国の2on2の奴?」

「それ以外に何があるっていうのよ」

格ゲーの大会でペアは実に少ない。普通はシングルの1or1か団体で3or3か5or5が主流であるからだ。

しかし、何故か全国大会まである唯一の大会は2or2しかないで有名。

主催者側は一体何を考えているのか不明である。

「でも、なんで俺なんだい」と不思議がる中原徹。

「文句あるの?」

「いや、別にないけど――――――」

ああ!何かあるならさっさと言え!私から誘いをしてあげてるのはレアなのよ!いくら命令口調でも私が先に誘ってあげてるのよ!

中原徹のあいまいな行動に苛立ちを感じる。

「いや、でも雨水、君の方はいいのかい?君はペアは組まないで有名だから―――――」と中原徹。

「そんなこと気にしてたの。ま、いいわ。確かに、私はペアは組まない。だから、あなたが私と初めて組むペアの相手よ!胸を誇ってもいいわ。で、結局返事はOKなの」

「――――――」

一瞬、場は静かになる。

中原徹は思考を練るように頭を抱えて――――。

「ふぅ―――」

中原徹は笑顔の表情を作り、息を吐き出す。

「プリンセスの頼みなら仕方ないね」と笑いながら気障な言葉で了承。笑顔の顔でこちらを直視する。

「――――――」

想わず見とれてしまう。笑顔の中原徹の顔。別に好意はない。ただ私はこういう笑顔が好きなのだ。

「雨水?」

「えっ!」私は名前を呼ばれて透かさず反応する。

「何をぼーっとしてるんだい」

「べ、別に!なんともないわよ!」

「なら気付いてるとは思うけど乱入が入ってるぞ」と中原徹は画面に指を指している。

えっ?乱入!

私は急いで画面に集中した。

その様子をまるでマリア様のような笑顔で見ていたのは他でもない。私の隣に座っている私だけの聖母さまである。

「うふふっ」と可愛らしい笑い声が聞こえる。

瑞希め――――。からかうように笑いやがって。

私は横目で瑞希を睨み付けた。


1ラウンドが終了。私の逆転勝ち。

「中原徹。この後にまた入ってきなさい。この人じゃ、大会前の練習にならない」

「ああ、別にいいけど――――あんまり弱いってハッキリと言ってやるなよ」

「別にいいじゃない。弱いんだし」

「―――――――。最強のプリンセスだから言える言葉だな」

「うるさい。中原徹のくせに」

「その中原徹のくせにの意味がわからん。あと、中原徹ってフルネームで呼ぶな」

「あら?気に食わないかしら?なら何と呼べばいいのよ」

「うーん―――――」

中原徹はしばらく考えているような仕草を見せる。

そして――――――。

「ナカトール―――――」とボソッと呟く。

「はぁ―――――」と私は首を傾げてみせる。

「クラスメートから呼ばれているあだ名だ」

「あだ名?なんで私があなたをあだ名で呼ばなきゃなからないのよ。気持ち悪いわ」と私がいうと。

「っ――――――!」

何とも言えない顔をする中原徹。

「まどちゃん――――。気持ち悪いは言いすぎだよ」と瑞希はあっちゃー――――というようなしまった顔をしてホローする。

「そ、そう?」

確かに。中原徹は意外と打たれ弱いのかと思われる。気持ち悪いの一言で撃沈していた。

「おしリベンジマッチだ――――――。絶対に倒す!」そう言って中原徹は反対側へと行ってしまった。

「まどちゃん。口は災いのもとだよ」と瑞希。

「いつも災いを吐いてる口だから。災いには慣れてるわ。でも、あそこまで気持ち悪いで落ち込むとは案外、可愛い性格してるわね。悪口言われた小学生見たい」

「まどちゃん――――」

瑞希は呆れたようすであった。

だって――――つい口が滑るから仕方ないじゃない。私のせいじゃないわ。

それに、実際はさっきの挑発は単に中原徹の闘志を燃え糾せるためなのだ。

中原徹。まだまだ未熟なゲーマー。

だから、この私が、この大会を通して進化させてみせよう。

ま、奈保が知ったら恐ろしい話である。しばらく家では、大会について黙っておこう。



こうして、私と中原徹は正式なペアとしてチームを組むことになった。

そして、その私達にまず第一に立ちはだかるのは店舗予選。

これは地方予選に行くための切符を手に入れる試合である。

店舗は別にどこでもOK。大会日が異なっていれば、一度負けても二度チャンスがある。やる気があれば他県を回って何回でも出れる。そういう仕組みになっている。

ま、私としては店舗なんてどこでもいいし、二度目など考えない。一発で店舗優勝して颯爽と地方予選まで駒を進めたいところである。



「なら店舗予選ではホームの『アミューズメントハイスタ』で大会を行なうってことでいいかい」と中原徹は私に尋ねてきた。

「別に店舗は気にしないわ。どこでもOKよ」と私は答える。

「なら大会は今から、ちょうど一週間後だ」

一週間。別に毎日ゲーセンに通っている私は仕上げ練習とかいらないので、今尽く大会でもいいわけだが―――――。

「君がよくても俺がダメなんだよ。君はここらでは、最強やらプリンセスで有名だからいいだろうけど………それと組む俺は力量が問われるだよ。君みたいに超有名って訳じゃないからね」と中原徹は言った。

どうやら大会前らしく大会なりの緊張感が彼にはあるようだ。

ま、私には、まったくといって、そのような緊張感はないのだけど。

「ま、とにかく俺の練習に付き合ってくれよ」と私に頼んでくる。

どうやら徐々に格ゲーの本質的な勝ちに拘るゲームを覚えてきたらしい。

「ま、いいけど。私、手を抜かないからね。貴方が練習にならない内に死なないようにね」

「上等!」

それが私たちの大会一週間前の様子である。



そして一週間の練習を送る日々が過ぎ。

店舗予選本日。

私たちの全国までの長い大会は始まった。

大会本番直前。

いくら全国まで通じる大会といっても店舗予選は通い慣れたホームのゲームセンターである。

緊張感はほとんどない。

私はだ――――私は。

しかし―――――。

「中原徹、あなた緊張してる?」

私は横目で中原徹を確認するように目を見やる。

手が震えていた。

「いや。マッタク大丈夫ダ」

「―――――――」

全く大丈夫ではない中原徹がそこにはいた。

どうも、がちがちにあがっているようだ。

「なるほどね。大会で貴方が有名にならないわけね」と私。

あれでは一勝もできやしない。

「大会になると何故か弱いんだ」と中原徹。

ボケているんではないのかと思った。何故弱いって答えは簡単だ。

そんなにあがっていたんでは勝てる試合も勝てはしない。

「はあ―――――」私は溜息をついた。

「中原徹!」

私は彼を呼んだ。

「ん?なっ――――」

「何?」と言い終わる瞬間に私の平手が彼の頬をたたく。

ばちん!

爽快な音が鳴った。

「いっ―――――イテッ!なっ、何するんだよ!」と抗議の言葉。

「何って――――――愛の鞭?」

「―――――――」

中原徹はありえないと言ったような目でこちらを見てくる。

「ま、とにかくね。そんなんじゃ、足手纏いなの。いい!今回は私がいるの。私というチームメートがいるのよ!足を引っ張ったら承知しないんだから!」

そう啖呵を切った。

「――――――。」しばらく無言の中原徹。

そして―――――。

「――――――ふっ、ふふ。はははっ、はははははっ!」

しかし、と突然爆笑する中原徹。

「何よ――――――」

緊張のあまり、ついに壊れてしまったのだろうか?

「はははっ――――い、いや、君のためか。俺の心配なんて気にせずに」

「何であなたの心配するのよ」

「いや、さすがだ。やられたよプリンセス。おかげで緊張が解れたよ」

「そう。なら、ちゃんと私のために働いてきなさいよ」と私は笑って言った。

「上等!」

中原徹は、ただそう答えた。どうやら手の震えはなくなっているようだ。

解答としては、その一言で十分だった。



2on2の対戦方式。

それは勝ち抜き戦である。一人目は先将と呼ばれ。二人目は大将。

先将が勝てば相手の大将とあたら二回勝てば勝ち。

つまり先将が負けても大将戦でどうなるかわからない。そんな感じだ。

チームによっては先将が強くて、大将を弱くするところもあるようだ。

しかし、そんな小細工は無用。私が大将で中原徹が先将でエントリーする。

「な、チーム名って何にするんだ」

エントリー用紙を片手に中原徹は尋ねる。

「チーム名?そういや決めてないわね」

私はしばらく考える。

本当にしばらくで私は発案する。

「なら最強プリンセスで決まりね」と―――――。

「最強プリンセス?」

不満な顔の中原徹。

「何よ………」

「いや、まあ時間もないしこの際、何でもいいか」とつぶやきながらエントリー用紙にチーム名を書き入れる。

「ところで君の大会ネームは何?まさかプリンセスとか無いよな?」と聞いてくる中原徹。

大会ネームとは大会で使う二つ名のことである。

「違うわよ。私のネームは『まど』よ」

ちなみに、つけたのは瑞希である。

本名と、まったく違う名前をつけようと考えていた私に『まどちゃんはまどちゃんが一番!』と笑顔で意見をいう瑞希の案をそのまま使ったのが切っ掛けである。

「そういう、あなたは何なのよ?」と私は問い返してみる。

「俺か?俺は――――――」と少し恥ずかしげに、

「ナカトール…………」

「えっ?」

「だからナカトールだ!何か文句あるのかよ」と顔を赤くする中原徹。

「それ単にあだ名でしょう?」

「君だってあだ名だろ」

ま、そうだが。

「ふふっ」と私は口元で笑ってみせる。

「ほぼ本名じゃない?案外、自身家だったり?」

「君には言われたくないな……………」

「ま、いいわ。さっさとそれでエントリーしましょう」

「まったく人使いが荒いな」と中原徹は愚痴を溢しつつ、エントリー用紙を提出する。

これで無事にエントリー終了。

もう少しで、いよいよ試合開始である。

その時に――――。

「あっ!瑞希!」

すると瑞希がこちらへとやって来ているのに気が付いた。

「あっ、やっほー、まどちゃん。大会がんばってね」と笑顔で声援。

わざわざ、応援に来られて、そう言われてがんばらない私ではない。

瑞希の笑顔のためなら死んでも優勝する。

「ありがと。もちろんよ優勝してくるわ」

「うん。なら私は観客として遠くから見とくから」と言い残して瑞希は行ってしまった。

「ふぅ、絶対優勝よ」と私。

「店舗予選で負けてられないな」と中原徹。

「あなたが先方で全勝してよね」

「はあ…………注文の多いお姫さまだ」

中原徹は肩を竦めてみせた。



『アミューズメント・ハイスタ店』全国大会店舗予選。

参加者の総数ジャスト70名。チームの総数は35チーム。

つまり単純に計算して、優勝するには4試合勝てばいいということだ。

そして、チーム『最強プリンセス』の地方予選第一試合目。

対戦相手は意外な人物であった。

いや、意外というか私からしてみれば戦力外の相手である。

「いくら身内だからって俺は負けませんからね!」

そう私にむかって啖呵を切ってきたのは越岩君だった。

「一回戦の相手って越岩君?」

「そうですよ!実は大会に向けてずっと練習をしてきたんです。本当は決勝で会うつもりだったんだけど、まあ、一回戦が事実上の決勝戦でも悪くないですね」とふざけた事を抜かしている越岩くん。

一体何人が、この試合を事実上の決勝と見ているだろうか?恐らく、そんなの越岩君ただ一人であろう。

「おい!中原!」

すると今度は私の隣にいる中原徹に越岩君は話し掛ける。いや、話し掛けるというより単に突っ掛かるような感じ。

「絶対にお前には負けないからな!ぼこぼこにして、へっちょんへっちょんにしてやる」

「―――――――」

中原徹は無言。

越岩君は、そう告げて向こう側へと消えていってしまった。

「何だったんだ?」と今頃になって首を傾げる中原徹。

「ま、私がいるから色んなチームから敵視されてるんでしょう?」

大会ネーム

「まど」はここら辺のシングル大会では最強であるから。

「いや―――――でもアイツは俺を目の敵にしてたぞ」と不思議がる中原徹。

そういや、越岩君の誘いを蹴って中原徹とチームを組んだんだったな―――と今更ななって思い出す。

「惚れられてるんじゃないの?」とからかう。

「冗談でも止めてくれ」とうんざりと中原徹。

「ま、とにかく手加減無しでいって頂戴」


そして一試合目の開始であった。

先方は中原徹と越岩君の相方である。

越岩くんが大将?とつっこみたいところだが。

結果は目に見えていた。

2試合連取で先方を中原徹が納めて大将の越岩君を早くも引きずり出す。

「手加減しなくてもいいからね」と横から一声いれる私。

そして中原徹対越岩君の戦い。

実際に目をするのは初めてである。

ま、私が思うに9対1で中原徹が勝ち。

越岩君の一割の勝率は私のやさしさの評価である。

ま、対戦は、どうなるかは解らないが……………。

そして試合開始の合図が鳴った。

いきなり、仕掛けたのは越岩君であった。

空中からの中段に着地からの下段でガードを揺さ振る。

しかし、ガードに置いては中原徹は正に鉄壁である。私でも中々くずり切れないくらいである。

しっかりとガードして今度は中原徹が攻撃を返す。

「へぇ――――」

私は画面を見ながら感嘆した。

前の越岩君なら今のカウンターを食らっていただろう。しかし、しっかりとガードをしてみせる。

なるほど啖呵を切るだけに練習をしてきてはいる。もともと才能はあるわけだしまだまだ伸びるだろう。

しかし―――――。

だけど今の状態では――――まだ中原徹の敵ではない。

絶妙なカウンター。それからコンボ。

圧倒的な力の差を見せ付ける試合となった。


結局、結果は中原徹の4試合連取で一回戦をなんなくと突破。

「よしっ!」と中原徹はガッツポーズ。

そうしていると―――。

負けた越岩君がこちらへと顔を見せる。

「おい!」

一応先輩なのに乱暴に呼び止める越岩くん。まあ、私も人のことは言えないけど…………。

「なんだ?」と気楽に返事を返す中原徹。

「いっ、――いや!何でもねぇ!」と何故か走って消え去っていく越岩君。

「何だったんだ―――――」

「さあ?愛の告白じゃないかしら?」

「君は、そのネタを引っ張るな」


続く2試合目、準決勝と中原徹は爆発していた。

読みの良さやカウンターからのコンボの入り方が全て調子良く決まっていた。

練習でもこうは決まっていなかったんではないだろうか?それほど今日は調子が良さそうだ。


「楽しそうね」と私。

「ああ、大会でこんなに勝つなんて初めてだからな」と笑顔で中原徹。

「このまま店舗予選は優勝して頂戴」

「ああ。でも君も肩をならしておかないで大丈夫なのか?」

「ここにいる人たちなんて、私の肩ならしの相手にもならないわ」

「―――――みんなに聞こえれば敵に回すよ」

「あら?だって本当のことだから」

私は悪戯に微笑して笑ってみせる。

「まったく君は―――――」

中原徹は何か言いたげに口籠もる。

「ま、私は別に今日は観戦だけで十分よ。わざと負けて私に回さなくても結構よ」

「そうかい?なら今日の大会のMVPは俺のものだな」そういって口元で笑う中原徹。

「大口を叩くのは次の決勝で勝ってからにしなさい――――」

「ああ」

そして、いよいよ『アミューズメント・ハイスタ』全国大会店舗予選決勝が始まった。


相手のチーム名は『奈良漬け戦隊ナラズマン』である。

どこの特撮であろうか?特撮には興味が無いので解らないが――――。奈良漬けって……………。しかも、オリジナルのコスチュームプレイ。所謂、コスプレを彼らはしていた。


まずは先方対先方の戦い。これはユイ対ユイの同キャラ対決になった。

テクニック対テクニックである。

まあ、テクニックにものをいわせるなら中原徹の勝ちは決定している。どう相手がユイを攻めキャラとして起用させるかが相手にとっての勝機であろう。

が――――――。

試合は中々の持久戦となった。

共に攻めの手を緩めて守りの体勢。

これでは詰まらない。

何を警戒しているのであろう?私としてはさっさと展開を早くしろ!と怒鳴りたくなる。

そして、ついに痺れを切らしてか向こうは強引に攻めに入った。そこを落ち着いて捌いてカウンター。

先方対先方は、長期のすえにこちらへとぐんはいが上がった。

「イエロー!大丈夫か!」と何やら叫ぶ声が聞こえたが……………きっと気のせいだろう。

そして、ようやく本日のラスト試合。

中原徹の

「ナカトール」対向こうの大将の

「ナラズマンレッド」。

ペアの大会だからしょうがないが何故向こうは

「ナラズマンレッド」と

「ナラズマンイエロー」なのだろう?

普通なら

「レッド」と

「ピンク」または

「ホワイト」ではないのか?それか、せめて準主人公のブルー。

なぜに黄色?一番マイナーキャラではないのか?という私の疑問。

ま、そんなどうでもいい疑問は裏腹に試合は既に始まっていた。

「―――――――」

私も遅れて画面に集中。

でも、どうやら結果は見えていたようだ。

私の予想はそのまま裏切られずに無事に終了。『奈良漬け戦隊』なんかふざけた奴らに私たちが負けるはずも最初からなかったようだ。

店舗予選チーム『プリンセス』の優勝であった。そして

「ナカトール」こと中原徹の八人抜きが達成された。

「よっしゃ!」

顔に似合わずに中原徹は声に出して喜びを表現。

まあ、一人で全勝。おまけに彼にとっては初めての大会優勝。うれしい思いはあるであろう。

「ま、とりあえずは合格点ね」と私。

「これで、とりあえずとは厳しいな」と苦り笑う中原徹。

「ここらでナンバーツーでも地方から、まだどうなるかは解らないわよ」

「だな。ま、とりあえず今は優勝ってことでいいじゃないか」

そう言って中原徹は笑った。

ふん―――と私はいかにもどうでも良さそうな素振りを見せる。

目指すは全国優勝。それ以外には興味はない。

―――――――。

ま、私の全国に向けての第一関門突破。少しはうれしがってもいいわけだが……………。

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