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第三章

対戦の勝ち負けは時に運で左右を確定させるときもある。

特に、それが上級者と上級者の戦いなら、どちらが勝っても可笑しくないと言う試合がたくさんだ。

たった一回。一回、勝ったからって、同じ人に次も勝てる可能性はない。

それが一般的な対戦結果である。

しかし―――――。

雨水円の場合は違う。彼女は常勝。負けなし。

故に次も必ず勝ち、勝ちを続けてきた。だから最強と称されるしプリンセスとまで呼ぶものもいた。

しかし、昨日の出来事で雨水円は引き分けという結果のゲームをした。

負けはしない。負けてはいないものの、彼女にとって勝ちでない試合と言うのは初めてのことである。

それは彼女にとって―――――屈辱?

いや、負けたら悔しい。とか、そんなものでは無かった。むしろ逆。

彼女は興奮していた。



「今日の雨水は調子悪いな」とクラスのところどころから、そんな声が聞こえてきた。

私はというものの、ずっと机に蹲っている。

ああー!うるさい!うるさい!

私が苛立っているですって?

そう、私が、かなり苛立っていたのは間違いない。自覚はしている。心からもやもやが消えない。

昨日の試合。

私は三ラウンド目をドローしたので普通なら四ラウンド目が開始されるはずであった。

しかし、バッテリーが落ちるというまさかの事態が起きたのだ。

そして私の試合は引き分けという形となった。

あのとき最後までやっていれば、今のもやもやが晴れているか―――――おそらく晴れてはいない。

私は私に張り合ったという人物の存在―――――。

それに、かなりの興味を持っているからだ。

昨日、試合が終わった後に私はしばらく唖然としていて対戦相手が誰なのかを確認してなかったのだ。とんだ失態である。

対戦相手が誰なのかがわからない。

私は昨日誰と戦ったのだろうか?

相手が誰なのかを知りたい。

何度目であろうか?

昨日から同じ思考を繰り返している。

はあ―――――。

そして何度目かわからない溜息をつくのだった。


昼休みに入っても私の状況は変わらなかった。

「ふぅー…………」

息を大きくついた。

「まどちゃん大丈夫」

瑞希は私の顔を覗き込むように、心配そうな顔で尋ねてくる。

どうやら、かなり心配されているようだ。

「ああ――――全然平気だよ」と私。

しかし、あきらかに気持ちがどこかに抜けている。

瑞希には心配を掛けたくないがために、答えた結果であるが――――どうやら、余計心配を掛けてしまったようである。

瑞希の顔が昨夜の奈保の顔とよく似ている。


「―――――ただいま」

私はドアを開けて家の中へと入った。

それと同時に家の奥から足音がして奈保が急いで登場してきた。

「姉貴っ!おかえりなさい!」そう言って奈保は、そのまま私へと飛び込んでくる。

いつもなら

「おっとっと!危ないわよ。まったく」そのように言いながら、うまくキャッチするのだが―――――。

昨日は――――。

「あっ―――――」

まったく受ける止める様子もなく―――――。

どかーん!と、とても勢い良く、間の抜けた声と共に倒れてしまった。

「あっ、あっ!あっ!姉貴ぃ!?大丈夫!」

一番動揺したのは奈保。

奈保は急いで立ち上がって、私を起こす。

「―――――あっ、だいじょうぶよ。ありがと奈保ちゃん…………」と私が答える。

「いや、本当に大丈夫?目が死んでる。てか、全体的に体に生気がないんだけど」

「そう?私の生気は世界を救うからね」

自分でも訳わからないことを口にする。

奈保は首を傾けて、とにかく私のことを心配してくれている。

「姉貴?本当に大丈夫?今日何かあった?」

そのあとというもの、かなり奈保から心配され続けた。こんな妹がいて私は幸せだ。

私はつくづく思った。


まあ、そんな感じで妹にまで気を使わせてしまった。のにも、関わらず今日もまだコレだ。いいかんげん目覚めよう!

私はパチパチと頬にビンタを入れて刺激を刺した。

「あー!でも本当に誰なんだろうな…………」

口から、そのようなことばが自然と零れた。

「やっぱり、まどちゃんでも気になるの」

目の前の席に座っている瑞希が問う。

「いや…………まあ、一応ね。だって私に張れるような人間よ。そんなのいるとしたらどんな人かって気になって当たり前よ」と答える私。

それに対して――――。

「まどちゃんと張り合うなんてびっくりするねよ。それに、まどちゃんがあんなに楽しそうにゲームするのは初めて見たよ」

その瑞希の言葉に首を傾げた。

私が楽しそうにゲームをする?

「何言ってるの。私はゲームしているときはいつも楽しいわよ」

そう。私はゲームをしているときは、いつでも楽しい。楽しく無いなんてことは無い。

「んー………そうだけど、何かいつもと違ってたんだよね」と曖昧に答える瑞希。

「なんか、まどちゃんが焦ったり、嬉しがったり表情が豊かにゲームしてる所を初めて見たような気がするの」

その瑞希の言葉に疑問を持つ。

表情豊かにゲームをする。それは、つまり無意識下の現われ。

勝ったら、嬉しい。負けたら、悔しい。

普通なら皆、そう思うのであろう。しかし―――――。

私は無敗。勝ちのが当たり前で負けたときの悔しさなんか知らない。

もし、あの時。私が負けていたら、私はいったいどう思っただろうか?

引き分け。それですら私を悩ませるくらいに悔しいと思わせる。なら負けたら――――。

そして勝っていたら―――――。

「まどちゃん」瑞希が私を呼んだ。

「ん―――えっ、何」

少し遅れて反応する。

「もう、まどちゃんは昨日のこと気にしすぎだよ。すべてがうわの空って感じ。別に負けたんじゃないんだし、気にすることないじゃん」と瑞希。

まあ、確かに負けてはいない。けど――――。

「私が勝てなかったら負けたのと一緒だよ」

「うわぁ、頑固親父みたいなこと言ってるよ」あははっと瑞希は笑う。

確かに一見、頑固な事を言っているのかもしれない。しかし、勝利に拘るのは当たり前ではないであろうか?

ま、別に私とて勝利に拘ってゲームをやっているわけではないのだが。

「それにしても驚いたよね」

そう瑞希の言葉に対して、

「何に」ぽつりと返答する。

「えっ、だって中原先輩があんなにゲームが強いなんてビックリしたよ」と瑞希。

「そうね。ビックリだね」と私はテキトウな返事を返した。

そして数秒停止。

ナカハラ――――中原。

ん?中原って誰?

その私の疑問に瑞希はまるで答えるかのように―――。

「まさか、中原先輩がまどちゃんと張り合うゲームの腕を持ってたなんてね」

そう笑顔のまま瑞希が言う。

「誰――――――誰よ。それ!!」

思わず、私は教室で、これでもかと言うほどの大きさの音で叫んだのだった。



中原徹。

それが私と唯一ゲームで張り合った人間の名前らしい。

なんでも、瑞希に聞くところ。

うちの学校の生徒で二年三組の生徒らしい。

つまり私と瑞希にしてみれば歳が一つ上の先輩にあたる。

部活は無所属。いつもボーッとしているで有名の先輩。

しかし、顔が良。学内でのトップクラスに入る人気男子らしい。

しかし、何故、そんな詳しい情報を瑞希が知っているのか疑問になったので―――――。

私が瑞希に『何でそんなに詳しく知ってるの?』と率直に聞いてみたところ。

『中原先輩はこの学校じゃ、まどちゃんと並ぶ有名人だし、中学も同じだったから』との答えが返ってきた。

つまり、そういう話ならば瑞希と同じ中学と言うことは、同時に私と同じ中学だったと言うことにもなるのだが―――――。

しかし、まったく私は知らなかった。中原徹――――。何度聞いても見覚えはない。

あと、さっきの瑞希の言葉に不信に思った点があったので質問を更に追加してみた。

『ねえ、私と同じくらいに有名ってどういうことよ?私は別に有名って訳じゃないし――――』

私は一年。別に部活をしているわけでもないので知名度は低いはずだが。

それに対しての瑞希の答えは『学内じゃ知らない人がいないくらいの知名度って訳だよ』と笑って答えられた。

『いや、そうじゃなくて―――なんで私が有名人になってるのよ』と聞くと笑われた。

『あははっ、まどちゃん面白い。はい、これ』と瑞希は私に一枚の紙を渡してきた。

うけとって見入ってみる。渡された紙は、新聞部の学校アンケート結果のようだった。

このアンケートが一体何なのだろう。

という私の疑問は用紙を見ると直ぐにわかるように大きく書かれていた。

そして暫し硬嫡。

―――――――。

そして――――。

な、何これぇぇぇえ!!

と思わず心の中で叫んでいた。

なぜなら紙には『校内美男・美女ランキング』と書かれており、男女それぞれのTOP10の名前が書かれていたのだ。

そして、それの一位にまさかの名前。

『雨水円』の文字。そして、一体いつ写したのだろうか?アップの私の顔があった。

「えっ、ええ!」目を疑った。何で私が?そんな感じだった。

コメントを見ると『彼女は文句無しに美女』や『ぼーっとしているが美しい』などなどの言葉。

『いや、ありえないから!』と私。

『いやいや、真実だよ。現実逃避する必要ないじゃん。皆から認められているんだよ』と瑞希。

いや、私は認めない。てか、この写真は盗撮だろ!

文句が大量に押しを競る。が―――――押し黙り込んで、そんな思いのまま男子のランキングの方へと目を移す。すると――――。

一位には『中原徹』の文字があった。

一位の欄に中原徹と雨水円の文字が並んでいる。

『二人ともゲームが出来てもてるんだね。それともゲームが出来る人はもてるのなか?』

瑞希は笑いながら、そう言ったのだった。


ま、それで私は中原徹の存在を知った。

私と張った唯一の男は意外にも校内に潜んでいるとは―――――。世の中の小ささを知らされたような気がした。



それで今私は二年三組。中原徹がいる教室の前にやってきた。

ただ今は放課後。ホームルーム終了後に私は直でここまで、やってきた訳だが――――。

どうやら、まだホームルームの最中のようだ。

あー!あー!早く終わりなさいよね!この私がゲーセンに行かないで、放課後の時間を無駄に待ってるなんてありえない。

このクラスの担任、あとで文句の一つや二つ言ってやりたいところだわ!

と私は無性にいらいらとさせている。

そして、待つこと10分程度でホームルームが終了。

それと同時に急いで扉を開けて部活に迎おうとする先輩を足止める。

「あの、中原先輩呼んでくれないですか!」と何故か先輩に対して怒りの口調でものを頼んでしまった。

変な一年とでも思われただろうか。ま、別にどうでもいいことだが。

すると、その先輩は

「あっ、ああ。わかった。ちょっと待って」と言って再び中へと入っていった。

そして

「おい!徹!一年の雨水が呼んでるぞ」と叫ぶ。

ん、あれ?なんで私の名前を知ってるんだ?

そういう、ちょっとした疑問が浮かんだ。

すると――――――。

意表をついたように、教室内が騒然する。

教室の中からは

「えっ!雨水ってあの!」やら

「まさか中原と付き合ってるの」やら色々な言葉が聞こえてくる。

あ、やばっ!

私としたことが何も考え無しに行動してしまった。

そういやランキングで私も中原徹も有名人と瑞希は言っていた。その二人が接点があったら少しなりとも話題にされてしまう。

ああ、あの男。少しは物事を考えて行動しろよ。中原徹にだけに言うとか――――。

と頼んでおいて悪く責め立てる。ま、一番悪いのは何も考え無しに行動した私なんだけど。

はあ――――。と溜息を一つ吐いた。

すると溜息と同時に中原徹、本人が登場した。

「ああー、とりあえず場所でも変えるか」それが彼が私に交わした第一声であった。

私は無言で頷いた。



学校で中原徹と出会うことに成功。そして彼と私が向かった場所はもちろんゲームセンターであった。

「ああ、あいつら絶対に誤解してるよな」と独り言を呟くように中原徹がいった。

「大丈夫よ。別に私は男子になんて興味ないもの。噂は流れるかもしれないけど私には関係ないから」と私。

先輩が相手だろうが誰が相手でも私のキャラを変えない。いつも、どこでも、誰に対しても素で接するのが私流。

「そうか。ならいいんだ。俺も別に気にしないタイプの人間だし」と私がため口で話をしたのに対して、なんの違和感も持たなかった様子で返してくる。

敬語を使えよ。と注意をしてくる先輩はうざいが、こう何も抵抗なく対応されると、こちらが違和感を持ってしまう。

ま、さほど気にはしないが―――――。

「それにしても――――――」

私は中原徹を確認するように見た。

「こんな人が私と唯一引き分けた人間?」と私は中原徹に率直につげた。

対して中原徹は別に怒るでもなく、笑いながら

「こんな人間だよ」とぬけぬけと答える。

「はあー…………。まあ、いいわ」と溜息をついて了承する私。

「質問をいくつかするわ。答えて頂戴。」

中原徹は、特に断るようすを見せずに頷いて了承する。

「まず、あなたのゲームのキャリアはを教えて頂戴」と一つ目の質問を言う。

「キャリア?――――えっと、ゲームを初めてやり始めたのは五歳くらいだったかな」

「五歳?」まあ、一般的にはかなり凄い歳である。

しかし、私は三歳からゲームをずっとしている。キャリアでは二年ほど私が長いようだ。

あっ、いや。そういえば、向こうは一つ年上であった。そう考えると一年ほど私が長い。

ま、質問しといて何だが、ゲームはキャリアなんて関係ない場合がある。才能がある人間はすぐうまくなるし―――。

「なら二つ目。あなたのゲームジャンルは?格ゲー以外に」

「ああ、俺は格ゲー一筋だから。ほかのゲームはダメだな」

「よしっ!」思わずガッツポーズをとった。

対して中原徹は私を見て笑った。

そんなに何が楽しんだ?いつも笑いやがって。なんかやりずらい。

私は心の中で呟く。

「なら次、三つ目」と荒々しく次の質問へと移る。

「あなた。負けたことある?」

そう。私が聞きたかったのはこれである。

仮にも私に張り合った人間。その人間の勝敗。それは、かなり気になるところである。

それに対して――――。

「ああ、あるよ。そりゃね」

そのような返答が返ってくる。

「はっ!私に張っといた腕があるくせ負けたことあるの!信じられない!」

怒るように、むしろ怒って私は激論。

「あー、でも…………」

「でもも、あーも、こうも、無いわよ!」

私に張り合った人間が負けを経験しているなら、つまり私より強い人間が存在するということになる。

正直、そうは考えたくない。

「話を聞け、俺は別に最強でも何でもないわけだ。最初から雨水みたいにうまいわけではなかったし、俺は天才的にうまくなったかというよりも努力だったわけで今のレベルまでに至まで時間も掛かったから、負けたことも何度もある。それに、あの試合はたまたまだ」

中原徹はそう自己主張する。

「たまたまって何よ!」

私よりも強い人が他にいる?ありえない。もう死んじゃいたいくらいだ。

「たまたまはたまたま。俺は、いつも、お前と勝負するときはボコボコにされるから」

「いいわけ無用!ボコボコに―――――」

私は途中まで口にした言葉を止めた。

「はあ?」と思わず私は首を捻る。

「あれは引き分けでしょう?」と私。

「いや、あの試合じゃなくて、もっと前だ。俺は何度も雨水に惨敗してるんだ。本当にたまたま、あの試合は調子が良くて一本を取って勢いづいたんだよ」

「―――――――」

私は硬嫡。そして間もなく解凍。

「それは本当?」

「嘘をついてどうするんだ」

どうやら、中原徹と私の対戦はあれが初めてではないらしい。

しかも、いつもは私が勝っているとのこと。

どうする?今まで深く考えていた私が馬鹿みたいだ。とりあえず笑うか?

「あは――――あははっ」私は力なく笑った。


更に詳しく話を聞いたところ。

どうやら私に何度も何度も、負けた記憶があるらしい。

しかも、大差。今までラウンドを一本も取ったことすら無いとのこと。

しかし、最近かなりの力をつけてきて、たまたま自分でも驚くほどの絶好調の試合を、あの試合で発揮した。

「それに張れるのは、あのゲームだけ。他の格ゲーではまだまだだよ」と中原徹は言った。

「あっ、そうなの?」私はなんだか心内のもやもやが少し無くなったような気がした。

「ああ、まだ全然お前には勝てる気がしないよ。安心しろ」

「私としては一つのゲームでも肩を並ばれたのには、かなりの違和感がまだあるんだけど」と私。

「完璧主義者だな」

「完璧主義者の何が悪いのよ」

中原徹はくすっと含み笑いをする。

「さすがはプリンセス」

笑いながら言う中原徹。

どうやら、こちらの通り名まで知っているらしい。

それに思わず顔を熱くした。

「なっ、何言ってるのよ!敗者は黙ってなさい!」

「ははっ、敗者じゃないだろ。引き分けだ」

「何たった一つのゲームでドローゲームをしただけで口が過ぎるわよ」

「たった一つのゲームでもきみに張ったったという事実は国宝級の価値があるんじゃないの?」

「…………わかったような口をきいてるんじゃないわよ」と言って顔をそっぽ向ける。

短い間しか係わっていないにしろ中原徹の人格と言うのが少しだがわかったような気がする。

こいつは天然だ。私の性格にマッチするのは天才と天才か天才と天然だけである。どことなくであるが瑞希や奈保と似ている。

私がある意味最も苦手な性格である。

中原徹はそれの男バージョンといったところか。

「さて」

私は立ち上がって中原徹を見下ろした。

「なら、ひと試合しないかしら?どうせ暇でしょう。折角、ゲームセンターに来ているところだし」私は不適に笑ってみせる。

「ファイストなら受けてたつよ」と中原徹。

ファイストとはゲームの略名である。

「それしか私に勝つ自身が無いのかしら?」

「―――――きみの性格は人を時には人を怒らせるよ」笑いながら立ち上がる中原徹。

「あら、時には怒らせるんじゃないわ。常に人を敵に回して生きているのよ。気にしないで」

「いや、なら君が気にしようよ」

そんな会話をしながら対戦台へと迎う。


リベンジマッチの開始であった。

ま、どちらも負けていないから、リベンジマッチってよりもリターンマッチって感じか――――。

そして、結果は2本連取で私の勝ちである。

試合内容も圧倒的。文句無しの私の勝ち。

そのときの勝利は今までの試合の中でも一番嬉しかった。

連日の悩みが吹き飛び、気分爽快。

今ならクソゲーを楽しんで丸一日やり通せる自身がある。

――――――そんな気がした。



「ただいまぁ」

私はそう言って家の中へと入っていった。

「ああ、おかえり姉貴」といつものように直ぐ妹の奈保が登場してきた。

「うふふっ、今日も出向かいありがとね、奈保ちゃん」

私は少々ハイテンション気味にそういい、奈保に抱きついた。

ちなみに奈保はかなり抱き心地がいい。ぬいぐるみを抱き締めるような感触に近い。

「今日は機嫌がいいんだね」と無抵抗のまま抱きつかれる奈保。

嫌がる素振りなどまったくといってない。どうやら本人としては大好きなお姉ちゃんに抱きつかれて、かなり嬉しいようだ。

「あら?わかる?」

そして只今、私もかなり気分がいい。

「やっぱり私は最強だってことだったのよ奈保ちゃん」

浮かれ上がっていた。あまりにも浮かれていた。

いつもの私ではないような気もしたが、まあ、今日はどんなテンションでもいいか。

そんな気分だった。


「で結局、昨日、試合して張ったって人に余裕勝ちをしたって訳か」

初めて奈保に昨日のことを話して、奈保は納得の表情を見せた。

ただ今は風呂からあがり、食事をすませて恒例の妹とゲームの時間の真っ最中である。

「単に昨日の姉貴の調子が悪かっただけじゃんか」と奈保。

「いや、案外そうでもないのよね」と答える私。

ゲームには意外に不調、好調と日によって分かれる場合がある。昨日は私と中原徹は張り、今日は私が圧勝というような例である。

しかし、私には不調な日なんてない。昨日も11連勝と好調で迎えた12戦目だったわけだし不調ではなかった。

私がゲームで不調なんていうことはありえない。

つまり―――――。

「中原徹が昨日はベスト以上の力を見せたっこと」

奈保は首を傾げる。

ま、確かに、そういうことになる。

中原徹はゲーマーとしてはまだまだ不完全である。まだ現時点ではそういうしかなくなる。

が―――――彼は才能は今開花しようとしているようだ。少なくとも私にはそう思う。

「でも、一回張っただけじゃん。そんな奴なんか姉貴の足元にも及ばないよ。絶対…………!」

奈保は唐突に怒りの口調を顕にした。

姉貴のほうが強い!そう妹に言われて少し照れを感じる。

しかし、恥じらう私と対象に、まったくの恥なく、そう言い放つ奈保。

まったく我の妹ながらすばらしいシスコンぶりを発揮する。


昔から奈保はそうだった。ことあるたびに私を評価して同時に支えてくれる。『シスコンであって何が悪いの!妹が姉を好きになって当然でしょう!』と何が原因か忘れたが、親との喧嘩の際にそう怒鳴りつける奈保を今でも覚えている。

そして今でも奈保はずっと私のことを、まるで愛する彼氏のように慕ってくれる。ある意味、奈保の中での私は親以上に愛されているのかもしれない。

そして私も奈保が好きである。好かれているということは決して嫌にはならない。むしろ、嬉しい。そして同時に可愛いと想うし、好きである。

普通ではないかもしれないが立派な姉妹愛である。

ま、そんなに私を想ってくれる奈保だからこそ、今回の中原徹と私が張り合った事実は許せないのだろう。たった、それだけの話だが奈保が怒るのに十分な内容である。


「姉貴が最強なら私がその次なの。中原徹って人なんか絶対に姉貴の足元にすら及ばないの!」

再び奈保は主張する。

まったく―――――。毎回毎回、嬉しいことを言ってくる。

「ふふっ、奈保」

私は持っているコントローラを手放して奈保を抱き絞める。

「あ、姉貴?――――――」

奈保は途端に黙り込み赤面する。

「当たり前じゃない?奈保は何?私の妹で他ならないのよ。私と瓜二つな負けず嫌いな性格を持ってるんだもん。奈保がアイツなんかに負けはしないわ」と優しく抱き締めつつ優しく囁く。

「―――――――。ねえ、私と中原徹が格ゲーで戦ったら、どっちが勝つと思う?」

「ん?現時点では互角かも」と私。

奈保はピクリと眉を動かした。

「なら、私は絶対に強くなって、そいつをブッ倒す!パーフェクトで勝つ!」

私は、そう意気込む妹を

「ははっ」と笑って。

「それでこそ私の妹!」と言った。

「なら今より、もっと強くならないと。さ、気を取り直してプレイ再開よ!」

私は離したコントローラを再度握った。

「うん!今日は姉貴から一本絶対に奪ってやるんだから!」と奈保はいつもにも増して意気込んだ。

私は笑って、相手にした。御褒美に、ちょっと本気を見せてやるか――――。

私は、この試合全力で戦ってあげた。その試合は15秒で終わってしまった。

あっ―――――実力を教えるつもりだったのだが――――少し遣りすぎたか?



私たち姉妹、揃って変なところが似ている。

ゲーム好きなところと、負けず嫌いなところ。

あっ、あと美しい美貌もだ。

美貌といえば、ランキングだ。

学内で一番のランキングをとってるなんて我ながら凄いなと驚いた。

まったく、男の性格はよく判らないな――――。

私なら絶対に瑞希に五票入れるけど。

えっ、一人一票?ああ、私は特別だから。

あっ、そういや……………中原徹も確か男性の部門で一番だった。

ま、顔は普通。性格もまあまあ。

話せば判る奴だった。―――――――。

ま、別に興味はないけどね。

私が愛するのは妹と瑞希とすべてのゲーム。

それ以外には興味はない!


今のところは…………。

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