第二章
この前、越岩君から告白されて、あれから一週間が過ぎた。
まったく慣れというのは恐いものである。
「雨水さん!今日も手合せお願いします!」
携帯ゲームを片手に今日も越岩君は他組から、この教室へとやってきた。
ちなみに今は昼休み。私は瑞希と一緒に弁当を広げて昼食を取っていた。
「はあ―――――今日も?」私は呆れたようにことばを吐いた。
あれからというもの越岩くんとの関わりは深くなった。毎日のように昼休みに携帯ゲームの通信を使って勝負して、放課後もゲーセンで顔を合わせる。
「まあ、いいわ―――」私は了解してカバンから携帯ゲーム機を一つ取り出した。
「じゃあ、ハンデで越岩はダメージレベルマックス。私は最小。これで簡単には死なないでしょう?」
私はボタン設定をやりながらつげる。
「了解っ!」越岩君は威勢よく返事する。
まったく、威勢だけはいい。これで腕がたつならいいがヘボなので仕方ない。
ま、実際、昼休みに暇つぶしに戦える相手を見つけられた点に置いては役に立つ。
「でも不思議ね。何でケーブル使わないのに通信できるんだろうね?」と瑞希はどうやら携帯ゲームに反応を示した。
「ああ、これ赤外線機能がついてるのよ。だからケーブルとかいらないの」
「へえ、やっぱり最近のやつは凄いんだね」
私たちの最近の昼休みは、こんな感じであった。
ほのぼのしたゲーム生活を送る。花の高校生活をゲームに注ぎ込む。
他人からしてみれば、もったいなく感じるかもしれない。
しかし―――――。私にしてみれば最高である。
「うおっ!パーフェクト負け!?」
越岩君が唸る。
「越岩君――――うるさいわ」
「うるさいよ」
瑞希と私の声が重なる。
「いや、すいません。―――――てか、本当に何でそんなに強いの雨水さん。ぶっちゃけ、ありえないくらい強いんだけど」
この男は今頃になって何を言うか――――。
「何今頃?私は最強なのよ!」と私は自らを最強と称した。
「最強か――――。まあ、納得。雨水さんってゲーセンの対戦とかで負けたことあるんですか?」
「負けたこと?もちろん無いわよ」私は平然と答える。
「そっか、負けたことないのか―――――って!はい、負けたことが無いの!?」
越岩君はまたも大声で叫んだ。
「越岩君、うるさい」
「うるさいわよ」
「あ―――いや、思わず。うわっ――――てか、いるんですね。負け知らずって人も」
何に関心しているのであろうか。越岩君は感服の表情を浮かべる。
「ま、そうだね。まどちゃんが負けたの私も見たことないし―――――。私と勝負したときも一回も負けてくれないんだもん」
瑞希は笑顔で、そう言った。
「でもちゃんと手は抜いてあげてるわよ」
「でも負けてはくれないんだよね」
「うん。私に敗北の二文字は無いから」
いくら初心者であろうと、誰であろうが私は負けてはやらない。私は常に勝ち続ける。ゲームにおいて負け知らず。
ゲームにおいての無敵、最強の称号は私のものである。
「はい!これで6連続パーフェクト試合!」
私は小型ゲーム機の画面を見つめながらガッツポーズを見せた。
この後――――越岩君が再び大声を出したので、教室から放り出してやった。瑞希は
「あははっ」とその様子を笑って見ていた。
今日もゲームセンターは暇人共を集結させていた。
まったく私たちが学校を終えるのが3時半。それから直ぐ様、ゲーセンに来るのに対して、私たち学生という存在より早くからゲーセンにいるこの人たちはなんだろう?
私はしばしば考えさせられる。
ぜったいにニー○だ。ニー○に違いない。
私たちが来るより早くきていて私たちが帰るときも、ずっと居座っている。パチスロにタバコを加えてずっと座っている人みるとそろそろ人間の末期だなと思わせられる。
しかし、一番のなぞがなんでずっとゲームやっているのに金があるのだろうか?そう――――それが一番のなぞである。
そこで私は考えた。
そして答えは以外にも早く導きだすことができた。
そう、彼らはパラサイトシングルなのだ。ニー○で、しかもパラサイトシングル!
親から、いい歳にもなってなお金を貰って生きている。
私の言っていることが正解なら本当に彼らは人間としての末期ではないだろうか?
―――――――。
私はゲーセンにくるたびに、たまにそんな下らないことを考えたりする。
本日、私はめずらしく格ゲーではなく他のゲームに金を入れた。
シューティングゲーム。
インベーダーを始めとしてさまざまな形式のシューティングが生まれてきた。
今、流行のシューティングというば人型シューティングである。
操縦するのは飛行機などの機体ではなく人である。
設定では主人公に異能力を持たせているパターンが多い。
そして昔と違って弾幕の数や進行スピードが歴然と変わってきている。
早くて弾幕が多い。それが今のシューティングである。
まあ、私としては一世代前のシューティングが好きである。今のシューティングは無駄なエフェクトが多過ぎて見にくい。
シンプル・イズ・ベストをもっとうとしている私には嫌な部類である。
まあ、いくら嫌いでも、ゲームとなれば私にできないゲームはないのだが―――――。
「うわっ!」
瑞希が隣の席からおどろきの声をあげた。
「―――――」
私は画面凝視。画面中いっぱいのボスの攻撃をなんとか凌ぐ。
「わあ!わあっ!わあー…………」
瑞希は感嘆する。
「ふぅー」私はボスを倒しおわって一息ついた。
「凄いね。よく見えるよね。私には何が何だか」
「まあ、目がいいから」と私は答える。
「ふぇ?目がいいと上手になれるの?」
意外そうに瑞希は問いてきた。
「まあ、目がいいほうが有利なのは確かね。あとシューティングに必要なのは画面全体の状況判断と集中力かな」
「へえー。でも、まどちゃんはよくあんなにゲームやってるのに目がいいよね。私なんてあんまりゲームやってないのに、目が悪いよ」
「さあ?私もよく解らないわ。目がいい、目が悪いも遺伝なのかもよ」と私は答える。
「でも、シューティングは別に目がいいからうまいってわけじゃないわよ。やっぱり一番は集中力、そしてひらめきかな?」
「ふーん。格ゲーじゃ、ちょっと無理かもしれないけどシューティングなら私もできるかな?」と、どうやら瑞希はシューティングに興味を示した様子。
「瑞希は集中力はありそうだもんね。でも、なんで格ゲーは無理なの?」
「ん?えっ、だって人と勝負するのって恐くない?起こって台叩く人もいるしね」
なるほど―――――。
私も初めてゲーセンで対戦した時には、それなりの戸惑いを感じた。
それに最近はあまり見かけないが負けたら腹に立てて台を蹴ったり、叩いたりする人も中にはいたりする。通称、台バン。
そんなに負けたら切れるくらいならゲームをしなければいいのにと思って不思議で堪らないときがある。
「まあ、確かに。そう言われると瑞希には格ゲーよりもシューティングの方がいいかもね」
「だね。まどちゃんは絶対、性格的に格ゲー向きだよね」瑞希は笑いながら言った。
「まあね――――って瑞希!それどういう意味よ。性格的にって」
「あははっ」瑞希は可愛らしく、悪戯に笑ってみせる。
まったく―――――。恐らく、自称、無敵超人で最強の私が唯一勝てないのは瑞希と妹の奈保くらいである。
あの笑顔を見て勝てるはずが無い。反則だ。
「瑞希は反則よ」
「えっ、えっ?えーっ!?」とよく判らなく驚きだす瑞希。
本当――――なんて可愛いんだか。
「姉貴―――――」コントローラーを手した奈保が私に話し掛けてきた。
「ん、何?」
私も同様にコントローラーを手にして対応をした。
ただ今、深夜の二時を回った時間帯。私は妹と二人で格ゲーの対戦している真っ最中であった。
「私、一応クラスメートとかの中では一番強いんだよね」奈保は唐突にそう言った。
クラスで一番強い。喧嘩の話ではないだろう。奈保が言っているのは、おそらく格ゲーの話について。
ま、確かに奈保の腕は私ほどではないにしろ、かなりのものだ。
シューティング、パズル、格ゲーと、どれを持っても最高ランクに位置するはずである。しかも、まだ中1である。今の私の歳になるまでには私と同等クラスの腕になりうるかもしれない。逸材の才能を持つ妹である。
「そうね。奈保の腕なら余裕でクラス一番でしょうね。むしろ中学生で一番強いんじゃない?どのゲームに関しても」
私は普段あまり使わないような優しい口調で言った。それは私の中では奈保と瑞希は特別であるからだ。
「うん。でもね。いつも私は姉貴に負けるでしょう?でも姉貴はいつも勝つ。完全無敗――――」
「何?気に障った?なんなら、もうちょっと手加減しようか?」と私。
しかし、奈保は首を振って――――。
「いや、いいよ。別に無理に勝ちたい訳じゃないしね。ただ姉貴は無敗でしょう?もし姉貴より強い人がいるならどんな人かなって思ってね」
奈保はTVの画面を見ながらそう言った。
私よりも強い人?
私は思わず首を傾げた。何故なら、そんな人は今まで私の前には存在せず、私としても考えたことが無いからである。
「ねえ―――。もし実際に現われたときは姉貴ならどうするの?」
唐突な質問であった。
唐突すぎて私には答えがうかばない。想像すらできない。
私がゲームで負ける?
音ゲーなら解る。私は音ゲーは唯一苦手なジャンルであったからだ。
まあ、ドラムもギターもビートも一応最高ランクまでは位置してあるが――――決して一番ではない。
全国ランクで30番程度である。
しかし、音ゲーではさほどコンプレクスを感じたことはない。
それは音ゲーが一番苦手であるからと私には格ゲーという今まで無敗のゲームが存在することである。
ではなら――――ならもし、私が格ゲーで負けるとしよう――――――。
―――――――。
ありえない!
絶対にありえない!
私が格ゲーで負ける?冗談ではない。
「あー、姉貴?」ふと、耳元で奈保の声を聞き我に返った。
「私は別に姉貴が負けるなんて思ってないよ」
私とて、私が負けるなんて思ってない。ただ、やっぱり私より強い人が、この世いるとしたのなら気になる。
「あー…………。姉貴、明日学校が早いから、もう寝ないと」
奈保は時計をチラッと確認するように見て言った。
さすがに、まだ中学生。夜更かしをし過ぎる訳にはいかないようだ。
「あっ、うん。お休み」
「うん、お休み」
そう言うと奈保はコントローラーから手を放し、ゲームとTVの電源を切り布団へと入っていった。
私も同様に布団に入る。
「―――――」
そして、私は布団の中で、しばし考えに老け込んでいた。
「私より、強いか――――」
そう小声で呟いた。
今日も格ゲーの腕は好調であった。
奈保から、あのように問われてから一週間が過ぎていて私の頭からは既に敗北のことを考えるのは無くなっていた。私より強い人を見たことないのに、私が負けたことを考えるのが馬鹿らしくなってしまったからだ。
「よしっ!」
本日10連勝目をあげて、私は小さくガッツポーズ。
隣ではいつものように瑞希が聖人のような頬笑みで笑っている。
「よし!雨水さん、次こそは一撃を絶対に入れてやる!」
すると私にそう告げたのは越岩君。そう言い残して、向こうの台へと行ってしまった。
あの越岩君と始めて勝負した時を境、私は越岩君からダメージを食らったことが無い。どうやら、あの時は腕を買い被っていたようだ。
そして、どうせ―――――今回も―――。
私の予想は的中。しばらくして画面にはパーフェクトの文字が表示され、またしばらくすると、またもパーフェクトと表示される。
二連続パーフェクトで私の連勝が10から11と1追加された。
「うわぁ――――」すぐに、やり果てた顔で越岩君は、こちらへ戻ってきた。
「ありえないから――――。雨水さんに勝つ人なんて存在するはずがない」と越岩君。
「それは越岩君が弱ちいからね」笑って越岩君に言ってやる。
「ひどっ!ストレートに弱いって言わなくても――――。てか、俺はこれでもゲーセンでたまに勝てるようになったんですけどね」
「あら?本当に?」どうでもよさそうな顔でそう答える。
「あの…………バカにしてませんか?」
「してない、してない。越岩君は本当に強くなったわね」
「――――――」
あまりにからかい過ぎたようだ。越岩君はついに黙り込んだ。
最近思ったが、実は彼、以外に打たれ弱いんじゃないだろうか。私としては、その反応が面白いから楽しいんだけども。
「はあ―――――。雨水さんが強すぎるんですよ!まったく――――雨水さんに勝つ人を見てみたいもんだ」
越岩君がそう言ったのに対して――――。
「まどちゃんに勝つ人?ちょっと信じられないな」と瑞希。
信じられないか―――――。私も信じられない。
しかし、最近は―――――。
私に勝つヒトがいるのなら対戦してみたい。
そう思うようになってきた。
奈保から言われたように負けたらどうなるかなんて解らない。
ただ本当に私よりも強い人がいるのなら、強いプレイヤーがいるのなら―――――是非、戦ってみたい!
「私より強いプレイヤーか――――――」
思わず声に出して小さく呟いた。
その時だった。
再び反対側の台からクレジット追加音が鳴る。本日12人目の対戦者であった。
「また無謀な挑戦者が一人。ああ、可哀相に」と越岩君はパンパンと手を叩いて拝む。
「がんばれ。まどちゃん!」
瑞希は笑顔でエールを送ってくれた。
瑞希から
「がんばれ」と言う声援は何度目だろうか?瑞希は私がゲームをしているときは常に隣に座っていて、対戦が入るたびに
「がんばれ」や
「がんばって」の短い声援を一声掛けてくれる。そのたびに私は瑞希は可愛いなと微笑する。
今回も私は微笑して見せて、直ぐに画面に集中。
対人用の気持ちに切り替える。
キャラ選択。
私はローゼリッテ。私のメイン使用キャラである。
対して、向こうの対戦者は少々キャラ選択に時間を掛けるが、まもなくユイにカーソルを合わせて選択した。
ユイはテクニックキャラ。このキャラは使用者の技量が必要となる。下手が上手かは戦いが始まれば一瞬で見分けがつくキャラである。
そして私が使うローゼリッテもテクニックキャラ。さほどキャラ能力に誤差はない。
まあ、あえてこの2キャラの違いをいうなら私のローゼリッテは攻め型テクニックキャラ。言わば固めキャラ。
それに対して向こうは守り型テクニックキャラ。カウンターキャラとも言う。
さて、どの位のプレイヤーだろう?
私は楽しみに試合開始を待った。
そして間もなく1ラウンドは開始された。
開始と同時に一端両者は両端へと退いた。
これは初めて対戦するためお互いの技量を計るためである。
まずは小手業の応戦。
中距離を取り合って技での牽制である。
「っ!」
私は思わず歯を噛み締めた。
危ないところで攻撃を食らうところであった。
そして、それで判断した。この対戦者はかなりの腕であると。
間の取り方がうまい。私がやりずらく戦わされている。
もともとローゼリッテは接近戦を好むため中距離、遠距離は得意としてない。簡単に言うと接近戦は全キャラ中でナンバー1。なんとか接近してガードを崩してしまえば、かなり有利である。
が、しかし―――――。
接近戦になかなか展開しない。向こうもキャラの特性の理解が十分に研究してあるようだ。
くそっ!
私は心のなかで暴言を吐く。
ダメージ的には両者共にほとんどない。まあ、削りで削られた分、私が負けている。
時間が無駄に流れて、1ラウンドのタイムも残りわずかである。
私は賭けに出た。
飛び道具で一度フェイントを入れて、直ぐ様ハイジャンプ。
ここまで計画通り。
あと、相手の頭上から強キックを当ててガードさせたところに着地して地上下段、そして地上中段でガードを破る。
私がもっとも得意とするコンビネーションである。
しかし―――――。
向こうは最後の中段を見切っていた。
「っ!」
中段をガードされて硬嫡。急いでガードへとスティックを入れるが無意味。
いいように向こうのコンボを食らった。コンボも見事であった。ナイン度の高いハイリスクのコンボを綺麗に決められて残りHP半分以下。
くそっ!反撃を!と思ったが――――。
しかし、ここでタイムアップ。
タイムアップの場合は残りHPの方が多いほうが一本先取する。
この場合だと、こちらは半分程度に対して向こうはほぼMAX状態。よって向こうに1ラウンドを持っていかれアドバンテージを奪われる。
私は少々戸惑った。辺りもざわざわと騒ぎはじめている。
しかし、今の私には耳に入らなかった。
私が先に1ラウンドを持っていかれるなんて初めてであったからだ。
強い。
予想外の結果。しかし、これで火が付いた。
2ラウンド開始の合図。
それと同時に私は突っ込んだ。
向こうは開始早々に攻め入られるとは、予想していなかったのだろう。カウンターは無かった。
しかし、これでいきなりの接近戦へと持ち込むことに可能とする。
手を休めないで攻撃。大技は出さない。弱と中ボタンで距離を調整して固めへと持っていく。
さすがにガードはうまかった。
しかし、ガードは崩れないが削りでダメージを稼いでいく。
カウンターは入れさせない。このラウンドはずっとこちらのターンである。
抜けることは不可能。相手にすればかなりうざい固めであった。
カウンターを出せば返してこちらのコンボへと、ガードを無理に解けば切り込むのみ。
未だかつて私の固めを無事に抜ける人はいなかった。このラウンドは貰った。
私はタイムを見て勝利を確信する。
しかし―――――。
わずかな隙を付かれた。
中パンチを避けられる。
私は咄嗟にガードへと切り替えた。
相手の攻撃のターン。
しかし、そこでタイムアップ。
今度はこちらが一本取って一対一。
次がファイナルラウンドである。
油断できない。
まさか固めの途中から抜けてくるとは予想していなかった。
誰だか知らないが、かなり強い。私と同等。
いや、もしかしたら―――――。嫌、それはない。それはないにしても非常に強いのは確か。
今までの私の戦いで手加減してわざとファイナルへと持っていくことは時折あった。しかし、ここまで緊張して迎えるファイナルラウンド。それは初めてだった―――――。
私は手汗をかいた。
緊張する。私がここまで緊張する。まるで言っていたことが本当になったかのよう。本当に私よりも強いプレイヤーが現われたような―――――そんなドキドキがあった。
そしてファイナルラウンドの開始。
今度は1ラウンド同じ展開である。相手をじっと様子を見るような牽制球を投げあう。
そして先に行動をとったのは、ほぼ同時であった。両者共に早々と攻撃をしかける。
強キックと強パンチが共に相殺。
わずかにダーメジ判定で打ち勝った私が透かさずコンボへと決める。
「よしっ!」興奮あまりに声が出る。
確実に決めて、相手をダウンさせる。
そして、この期を逃さない相手の起き上がりを起き攻めしようとしかける。
が、しかし、相手を忘れていた。カウンターに強いユイの攻撃を食らう。
あっ、と動揺混じりの悲鳴みたいな声。
そして更にコンボのオマケまで決められる。
やられた――――!
私は唇を噛み締めて、表情をしかめさせる。
しかし、ここで食い下がらない。起き上がりから固めに成功。
今までのラウンド違ってファイナルは荒いラウンドとなっていた。
そしてファイナルも終盤となった。
両者HPは共にわずかである。あと、1コンボ。いや、強パンチ一発といったところか?
お互い間を取り合う。
緊張した空気がただよう。辺りのざわざわもなくなり静かだ。
おそらく辺りには人だかりができているのであろう。しかし、今は黙ってどちらが勝つか画面に集中される。
そして、お互い同時であった。同時に攻撃をしかける。
そして―――――。
次の瞬間に画面に表示されたのは『ドロー』の文字であった。
その瞬間に辺りが再び騒がしくなった。
「どろー…………」ぽつりと私はつぶやいた。
ドロー時は第四試合目が開始される。
普通は滅多にならないドローゲーム。
辺りは本当にざわついていた。
しかし、私は再び画面に注目した。
勝つ!負けるもんか!
そして第四試合、今度こそファイナルラウンドが開始される。
それと同時に――――。
ぷつん。
画面が切れた。
「――――――。――――――はあ?」私は思わず首かしげるしかなかった。