ふたつの
どうしたら素直になれますか。
どうしたらこの気持ちを伝えられますか。
どうしたらもっとあなたを愛せますか。
初めての恋は、知らないことだらけだった。
ふたつの掌の間をやさしさが行き来する
好きだとか付き合うだとか、私たちはそんなに深く考えていなかったのかもしれない。
むしろ、そのことがゴールだと、そう思っていたのかもしれない。
そんなことをつらつらと考えながら、私の一歩前を歩く夏目くんを見る。
ただの片想いで終わるんだろうな、と諦めて、それで好きでいることをやめられなくて悩んでいた矢先、というか先週告白された。
そして付き合って一週間ほど。こうして一緒に帰るようにはなれたもののそれ以上の進展はなく。
つまりは手をつないだりだとかをしてみたいだけだったりする。
けれどもそんなことを自分から言うなどとてもではないけれど恥ずかしくて無理だし、断られたらショックだし、とうだうだ悩んで早20分。
ジリジリと容赦なく照りつける日差しが責められているようで痛い。
「遠藤さん」
やだな、家まであと10分ほどだな。とちらりと時計を見たとき、夏目くんがはたと止まった。
つられて私も歩みを止める。
「はい、なんでしょうか夏目くん」
一体なんだろう。
見上げる私の顔をじいと見つめた夏目くんは、「とりあえず」と笑った。
「敬語、やめましょうか」
「夏目くんだって」
それもそうだね、と笑った夏目くんは、ふと視線を泳がせた。
「それから、」
まだなにかあるのか。今度はなんだ。
再び首を傾げる私から夏目くんは軽く目をそらした。
「それから。手を……つなぎませんか」
「…はい」
びっくりした。心が通じたのかと思った。
嬉しくてでも恥ずかしくて思わず下を向いた私の手を軽く握ると夏目くんは無言で再び歩き出した。
さからうことなくそれについて歩き出すと、夏目くんは前を向いたまま言った。
「敬語、やめようって言ったのに」
「夏目くんだって」
それもそうだね、と夏目くんは照れたように笑う。
その笑顔に、先ほどまでじりじりと照りつけていた日差しがふっと和らいだようだった。
きっと好きだとか付き合うだとかは私たちにとっては一つのゴールだったのだ。
好きで付き合ってそれがゴールで。そこから先はまた新たなスタートなのだ。
なにもかもが初めてで未熟な私たちにはそのくらいがちょうどいい。
軽く握られた手にほんの少しだけ力を込めて、私たちはこの時間を惜しむかのように歩みを遅めた。
FIN
*雑記*
なんというか、ずっと書きたかったテーマでした。
恋愛初心者でどうしていいかわからなくて手すらもつなげない。
どうしたら、どう接したらいいかわからない。
そんな戸惑いながら前に進んでいく二人が書きたかった。
この子たちはきっと、いろいろと悩みながら成長していくと思います。そう、願います。
素敵なお題は群青三メートル手前様よりお借りしました。ありがとうございます。 緋百