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修練者用ダンジョンにて④

水の中は冷たいが、特に苦しくもない。

スライムに息をするという概念があるかどうか疑問だが、息継ぎなしで移動できるのは便利だと思う。

欠点といえば、手がないのでひたすら沈むのみ。

泳ぐつもりで体を動かすと沈むスピードが緩くなるがそれだけである。

底にたどり着けば移動はできるだろうけど、どうやって浮かべばいいんだろうね。


「如月さーん」

「やっぱりこのくらいのサイズが一番かわいいですね」

「きーさらーぎさーん」

「手乗りスライムとか売ってればいいのに」

「あのー!」

「ああもうこのプニプニ感がなんとも」


どうしよう。話が通じない。

水中の俺に集中したいので、如月さん側の視界は遮断してしまうことにした。

いろいろ試すと画面を二分割するようにあっちの俺の視界とこっちの俺の視界と分けることができた。

これは見やすい。

見やすいが、如月さんが真面目な顔で俺の体をつんつんするのが見えたので敢えて遮断しておく。

そっちの俺に夢中になってる間に、気になっていることを試そうと思う。


「まずは【消化】かな?」


体の中にはまだ先ほどの草がある。

【消化】してみると、なんとなく溶けた気がする。

【吸収】したが、たいして変化が分からない。

HPやMPが回復しているのかもしれないが、どちらも減っていないので確認しようがない。


ふむ。


辺りを見回し食べられそうなものを探す。

手近なところで湖の水を飲んでみた。

ごくごく。

体の中に溜まった水。

【消化】が使えないのだが、【吸収】が使える。

ごっくんと【吸収】すると、心持ち体が大きくなった気がした。

あと何回千切られるか分からないので、もう2回、同じことを繰り返す。

次に食べた後で【吐き出す】を使ってみると反動で体が動いた。

水を吐き出して進むホタテが脳裏に浮かぶ。

これ、いけるんじゃね?

【食べる】を3回ほど連続で使用する。

次にそれを湖の底に向かって【吐き出す】。

お、いいカンジ。

予想通り、湖の表面に向かって進むことはできた。

水面はまだまだ遠いがうまく繰り返せば、きっと地上に戻れるはず!



一旦ふよふよと湖の底まで沈む。

【食べる】や【消化】【吸収】でスタミナやMPは減らないが、【吐き出す】はスタミナを消費するらしい。

制限がかかるってことは、逆に言えば使い続けるとゲームのバランスが崩れるということだ。

今はまだ何も思いつかないが、いずれ【吐き出す】で天下を取る日が来るかもしれない!

…という淡い希望を抱いてもいいよね。


一応スタミナが全快するまで待って、もう一度チャレンジ。

さっきと同じように【食べる】と【吐き出す】を繰り返し水面へ向かう。

浮いて、ちょっと沈んで、浮いて、またちょっと沈んで・・・クラゲになった気分だ。

マップ上に赤丸が二つ見えているとはいえ、一度水面から上に出て肉眼で方向を確認しておきたいな。

そんなことを考えていると正面から魚が泳いでくる。

そりゃ湖の中だ魚くらいいるよな。

名前もちゃんと見える。ブロンズフィッシュ。


名前!?


のんびりゆったり泳いでいたように見えた、ブロンズフィッシュはまっすぐこちらに突っ込んでくる。

ちょうど飲み込んでいた水を吐き出して、間一髪、敵の動きをかわす俺。

俺の居た場所をかなりのスピードで突っ切っていく。

スピードがスピードだけに、かなり距離が離れた。

スタミナはまだある。

とりあえず水飲んでおこう。

あ、反転した。

ブロンズフィッシュは再び俺に向かって突っ込んできた。



*****



「よりによってスライムを選ぶなんて、奇特な方ですね」


手乗りサイズになったソレをつんつん突付いてみるが反応はない。

分裂したスライムの制御はもう覚えたのだろうか、こっちのスライムは俗に言う冬眠モードのようだ。

彼はスライムをそっと地面に置いた。


「それはそれで暇なんですけど」


指先でデコピンすると、ぽよぽよくるんと一回転したが反応はない。

彼の仕事は、簡単に言えば初心者へのゲーム内容説明係。プレイヤーの言葉を借りればチュートリアルという存在そのものである。


「向こうは頑張ってるみたいですね」


遠くで湖の水面から、ぱしゃんっとスライムが飛び出した。

大きさは今彼の手の上にいるソレの3倍はあるだろうか。

彼が初めて会った時より二回りくらい大きい。

微かな水音を残して、スライムが水面に消える。

スライムは水を吸収すると体の体積が増えるということを理解してくれたらしい。

だが、すぐにもう一度、水面からスライムが飛び出す。

尋常ではない気配はあるが、そうやって気付くこともあるだろう。

助言は最低限。レベルは規定まで上げた。これ以上手を出す道理はない。

何より片割れが何も言わない。

だから彼は動くつもりはなかった。


…なかったのだが。

スライムが飛び跳ねた後に、後を追うように水面から飛び出した魚に目を奪われる。

大きさはスライムと同等かそれ以上。

彼は眉をひそめ、慣れた手つきで装備を変更しそれを両手で構えた。



*****



敵の攻撃を紙一重とは言わないまでもギリギリでかわし続けること数回。

そろそろスタミナがヤバくなってきた。

肉体的な疲労はないはずなのだが、なんだか体がダルい。

ステータス異常はないのだが、スタミナが減ることで通常より能力値が下がっている可能性はある。

こいつを倒す方法がないかと必死に考えるのだが、唯一使えそうな【食べる】は、逆に中から食い荒らされそうな予感がする。

如月さんならきっと、やってみれば分かりますよ、と微笑みながら言うに違いない。

確かこのフィールドはHPが0になっても死ぬことはないと言っていた。

本体(?)も如月さんの手の上にある。

ここは敢えて予感が本当かどうか確認するのもアリなのかもしれない。

意外と美味しかったりして。


「よし、来い!」


腹を決めて、ブロンズフィッシュと対峙する。

【吐き出す】のはあと2回が限度。

その2回でタイミングを見極めねばならない。

食べると同時に貫かれたではお粗末すぎる。

チャンスはブロンズフィッシュが猛スピードで通り過ぎて反転する直前。

向かってるくるブロンズフィッシュ。

斜めに交わして、すぐに追尾用の水を飲んで吐き出す。

これでもう後がない。

追いつけないかと思ったところで、ブロンズフィッシュの動きが止まった。


今だっ!!


もぐっ。


よっしゃあああっ!ブロンズフィッシュ食べたどおおおおっ!!


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