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行き着いた先は怪しいカンジ

男が剣を抜く。大剣だ。

剣先を一旦地面につける、ということは重過ぎるのではないか?

なんて考えてるあたり、まだ俺は余裕があるらしい。

スタミナはまだ十分にある。

【全力疾走】のスキルは発動させた。男が剣を振りかぶる。

そこを男に向かって全力ダッシュ!


ぽにょおおぉん


ぶつかった衝撃で男が転ぶことを予想したのだが、予想は大幅に裏切られた。

男の足に体当たりした俺はゴムボールのごとく跳ね返り、背後にあった壁だったものにぶつかった。

そこでまた跳ね返るのかと思いきや。

ごすっと音がした後、ガシャンとかガラガラとか、何かが壊れたり転がったりする音がして。

痛っ、今なんか落ちてきたしっ!


反射でつぶっていた目を開けると、そこは薄暗い灯りが広がるカフェらしき場所だった。



*****



(スライムだ)

(スライムだよなぁ)

(スライムかよ)


店員や客からのいろんな視線が突き刺さる。

スーツ姿の男の人やセーラー服を着た女の人がたくさんいるが、その辺のツッコミは後回し。

特に武器を持って構える様子はなさそうなので、おそらく襲っては来ない。ハズ。

問題は体が動かないということ。

視界の左上、スタミナ表示の下に☆マークが見えるので何らかの状態異常なのだろう。


「はっ!!てこずらせやがって」


声の方を見れば、背後に殺気を漂わせ、こちらに向かってくる大男。

静かになったカフェ内にガシャンガシャンと鎧の音が響く。

一歩ごとに近づいてくる、その距離はもうない。


「っせーのっ!」


男が大きく振りかぶり、打ち下ろす。

キラリと光る刃が目前に迫り自分の姿がその刃に映る。

刃が体にめり込む瞬間。


男の動きが止まった。




「全く、煩いお客様ですね」


声は背後から聞こえた。

静かな空間にコツコツと響く靴音はそのまま俺の横を通り過ぎ、もしかしたらちょっとだけ体にめり込んでる刃を、手袋をはめた人差し指が押し戻す。

その後姿はスーツ。

顔は見えない。


「許可もなく裏口から不法侵入とはいただけませんね。さっさとお引取りください」

「そこのスライムを斬るだけだ!邪魔するならお前も斬るぞ!?」

「お返事はNOと受け取りました。実力行使します」

「ああ?できるもんならやってみろよ!!」


売り言葉に買い言葉。

大男が冷静なら、何故彼の剣の動きが止まったのか考えることもできただろう。

他人の行動を制するのに何が必要なのか、まだ俺には分からないが、大剣を引きずる大男よりスーツの男の方が多分強い。


「では、さようなら」


スーツの男がこちらを振り向いて指をならすと、大男の足元に何かの陣が浮かぶ。

陣の文字(?)が紅く光を発した瞬間、大男の姿は消えてしまった。

ひいっと声を残して、様子を見ていたもう一人の男も路地の奥に消えていった。


「お怪我はありませんか?」

しゃがんで俺に目線を合わせるスーツの男。

お約束というかなんと言うか、真ん中わけの髪型に眼鏡をかけている。


「多分大丈夫です。ありがとうございます」


手を差し伸べてくれているのだが、生憎差し出す手がない。

気持ち手を取ろうとしたら、そのまま飛び乗ってしまった。

スーツの男が嫌そうな表情をしなかったので、対応はこれでよかったらしい。

スーツの男は立ち上がり、カウンターの上に俺を置く。

辺りを見回し、紙に何か書き込んで、にっこりと俺に振り向いた。


「それでは貴方の破壊した壁とグラス、机と椅子の代金を請求します」

「え!?」

「しめて18900Gですね」

「すいません、無理です」

「では修理してください」

「ええと、それも無理です」

「ならここでバイトしてください」

「こんな俺でよければ、なんでもします」

「では、早速・・・」


スーツの男の動きが止まる。

止まる、といってもこちらを凝視しているので、何らかのスキルを使っているのだろう。

びくびくしながら命令を待つ。


「初心者の上に無能ですか。使えませんね」


ざくっ


何か今ものすごく痛いものが胸に刺さった気がします。

確かに使えませんよね。スライムですからねっ。


「となると、お仕置きするしかありませんね。ついてきてください」


ええええええ。

ついてきてください、と言いながら俺の体を鷲づかみで店の奥に向かって進む。

親猫が子猫を咥えるような、ちょうど首のあたりを握られている感触です。

「いや、あのちょっとお仕置きって、俺防御ないですからねっ。絶えられずに死にますからねっ!?」

「知ってますよ。だからお仕置きするんです」

「分かってないですって!」

「ふふっ。調教しがいがありそうだなぁ」

「あのっ!話聞いてますかっ!?」

「ふふふふふ」


不適に笑いながら店の奥にある階段を降りていく。

地下室とかホント怖いんですけど、お仕置きってマジですか?

拷問とかされちゃうんでしょうか?

器物損壊ってそんなに罪深いですか?


「ああ、あの、名前とか、聞いても、いいですか?」

気を紛らわすために、何でもいいから話かける。

握られたままなので声が揺れるのは仕方ないと思う。

「そういえばご挨拶がまだでしたね。私は、グループ暦のメンバーで如月といいます」

グループ?メンバー?

「当店ではお客様に癒しと萌えを与えることを商売にしております。本日はグループ暦が担当させていただいております」

「萌え・・・」

「現実世界でいうメイド喫茶みたいなものだと理解して頂ければよろしいかと」

「ああ、なるほど」

スーツや制服が今日のコスプレテーマとかそんなんなんだろう。

いかにもな美少女とイケメン達。

そういえばこのゲーム、TYPE-LUNAやカリフリャワーのような恋愛ゲーム企業の協賛もあったなぁ、なんてぼんやり思う。

階段を降り、今度は地下通路を進む。

ひんやりと暗く、所々にランプがあり俺はまた少し怖くなった。


「ええと、お仕置きってーのは一体何を・・・?」

「言葉で説明しても理解できないと思いますので、体験してください」

いやいやいやいや。

「な、何事にも心の準備が必要ですよねっ?」

「どこから説明しましょうか。ではまず、貴方は自分の能力を把握していますか?」

「始めたばっかりなので全然」

「承知しました。おや、ちょうど入り口に着きましたので続きは中に入ってからにしましょうか」


そういって扉に手をかけた如月さんは、俺に向かってあの笑顔を向けたのだった。


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