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穴があったら入りたい

司書さんはメドューサだった。今は世界創世とかいう本を読んでいるらしい。

癖になってしまったようで、いつのまにか【観察】スキルを発動していたようだ。


「どうぞ」

「お邪魔します・・・」


ぽにょんぽにょんぽにょんぽにょん



「これ、ジジ・・・じゃない、教会の男の人から頼まれました」

「はい、受け取りました。こちらは領収書と延滞料金の請求書です、グラロフさんに渡してください」

「グラロフ?」

「教会の男の人の名、前・・・ぐふっ」

「(今、ぐふって言った?)」


「ふ、くくっ、あははははっ!ふっ・・・ふふふふふふっ」


メドューサさんが壊れてしまった。

いきなり笑い出し、背中を丸めたせいか、カウンターの後ろに隠れて見えない。


ぽにょん


ジャンプしてみたけどやっぱり見えない。


「!!ぽにょんって・・・ははっ・・・ふふふふふ、だめ、もうムリ・・・」

「あのー?」


しまいにはカウンターをどんどん叩いてる。

何がそんなにおかしいんだ。スライムだからか?

ちょっとイラっときたぞ。


「あははははっ・・・ツッコミどころが多くて・・・ふふっ・・・困る・・・君、自分の名前、確認した?」

「名前?」

「スライムなのに、ゲルじゃないって、どんだけっ、あはっ」


俺の名前、シゲル。と入力したつもりだったのだが。


「ヒゲなのっ!?ゲルじゃないの!?なんなのそれっ・・・ふふふふっ」


「げ」


Sが、ない。

つまり。


【ヒゲル】


あああああああ。

頭を抱えたくなった。

いや、でも考えようによってはアリだ。俺はゲルじゃないんだ!!

・・・と前向きに考えて生きていけたら人生素晴らしいと思う。

なんだろう、このゲーム、クリアする頃には悟りが開けそうな予感がするのは気のせいだろうか。


「あー、ごめんなさい。久々に笑わせていただきました」

「・・・それは、どうも」

「これが領収書と請求書、です・・・ぶふっ」


メドューサさんから書類を受け取る。

これをじじいに渡せば、ひとまずのクエストは終了だろうか。

「私の名前はワダツミといいます。以後おみしりおきを」

「ええと、こちらこそよろしくお願いします」


ぺこり、と挨拶をするとワダツミさんがまた吹き出した。

俺の行動はいちいちツボらしい。


とりあえずクエストを完了させるべく、一旦司書室を後にした。





じじいに領収書と請求書を渡すと、1000Gを渡された。

今度はそれを司書=ワダツミさんへ届ける。


「いらっしゃい」

「お金、預かってきました」

「はい。受け取りました。クエスト帳はありますか?」

聞き慣れない単語にバッグの中からそれらしきものを探す。

「はい、クエスト達成。おめでとうございます」

ワダツミさんから渡されたクエスト帳には完了クエの欄に”グラロフの憂鬱”という項目が追加されていた。

おおっ。所持金が増えてる。1000Gってさっきもらった金額か。


「次はどうするか決めてるんですか?」

「とりあえず、街の外に出たいな、と」

「そうですか。頑張ってください」

「・・・がんばります」


次はこうするといいよ、っていうアドバイスが来るかと思ったのだが、ワダツミさんはそういうタイプの人ではないようだ。

この世界の話とかモンスターの体験談的な話をしてみたかったのだけど、もう少し俺も経験を積んでからの方がいいかもしれない。

さて、次はどの作戦でいこうか。

もよんもよんと小走り(?)で出て行こうとすると、ワダツミさんは本に視線を落としたままぽつりと呟いた。

「そういえばこの部屋、出口もうひとつありますよ」



*****



出た先は裏口というか、薄暗い路地だった。

見た感じ、人はいない。

殴られたり斬られたりするのは嫌だなぁと思いつつ、かといって進まなければそこでもうゲームオーバーだ。

やれるとこまでやってやる。

やると決めたのは俺自身。

ぽにょんぽにょんと進んだところで、ちょうど角を曲がって正面に立った大柄な男と目があった。


「なんでこんなところにスライムがいるんだ?」

「え?スライム?」

男とは別の声が聞こえた。

「とりあえず斬っとくか。ちょうどスライム討伐クエ受けてるし。あ、逃げやがった」


斬っとくか、の辺りから【全力疾走】発動済みである。

全く通ったことのない道を、とりあえず暗い方へ走る。


「意外と早いぞアイツ、どこいった?」

「あっちから音が聞こえるよ」


【忍び足】使っておけばよかった!

悔やんでも仕方ないので、角を曲がった直後に【迷彩】を発動する。


「あれ、いないや」

「こっちに曲がった気がしたんだがな」


俺のすぐ隣で話す男二人。

心臓がバクバク言ってる。

とりあえずのピンチは逃れられそうだと思った瞬間。


「お、みっけ」


【迷彩】が切れた。



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