能力値はこんな感じで
こいつで何が出来るのか、どうやって遊んでやろうかという期待感で胸が膨らむ。
能力値をどんだけ増やせるか分からないが、ボーナスポイントが平均30なら、俺はその8倍以上。
いくら弱いスライムだろうと公式チートで何でも出来る。出来て当然だと思った。
そう、ステータスの設定画面を見るまでは。
設定されている能力値は8項目。
その右側、ポイントを振れる場所はテキスト入力スペースで0と表示されていた。これが3つある。
ポイントを振れない部分はグレー文字で選択ができないようになっていた。これが5つある。
あれ?
改めて数値を確認する。
上から順に1,0,1,0,1,1,100,1。
ええと、つまり・・・?
ATK 1
DEF 0
INT 1(0)
MAG 0
DEX 1(0)
SPD 1(0)
LUCK 100
STAM 1
一瞬二進数の世界かと思った。二度見どころか五度見くらいした。
LUCKが100だワーイなんて言ってる場合じゃない。
防御が紙、というより空気だ。ゼロだよゼロ。ポイントも振れない。ありえねーだろ。
それなら装備でなんとかするしかない、なんとかなるはずだ。じゃなきゃ不公平すぎる。
アイテムウィンドウオープン。そして装備タブへ。
装備できる部分は一ヵ所。しかも頭だけ。
王冠が装備できるね。
武器の装備スペースがないのは・・・あぁ、手がないからか。マジかよ。
気を取り直してスキルウィンドウを開いてみる。
表示を選択すると説明が表示された。
---【観察】対象を観察する---
そのまんまですね。
あって困るスキルではないので取っておくことにする。
取ったスキルは左側に赤丸がついた。
ひとまず設定画面を抜けようとすると確認の音声が聞こえた。
必要ならばシステムツールから設定が呼び出せるとの説明をされ、返事をすると視界が開けた。
移動テストをやらされたが思った方向に進んだり方向転換ができるので問題はなさそうだ。
暗い洞窟を歩いていくと、トンネルの出口よろしく光の溢れる出口が見える。
ご丁寧に「FreeWheeling ENTER」と書かれた看板がぶらさがっていたので躊躇なく進む。
出口を通ると光が溢れ、一瞬にして回りの風景が変化した。
見える景色は中世風の町並み。
人並みはまばらで、初心者マークがついているキャラクターが多い。
画面中央に写る半透明な楕円形のぷるぷるしてる物体。多分これが俺だ。
真ん中に白い核のような物体が浮いている。
その後ろ、ちょっと斜め上から俺の視点。
というのを確認した後、ぐぐっと視界がズームアップされてスライムの目線になった。
低い。低すぎる。前を駆けていくポークルより低い。
前進すると、うにょんと音が聞こえた。
すぐそこに掲示板があったので眺めてみる。
横に立ってるエルフさんのスカートの中が見えそうで見えないのがとっても目に毒です。
『初心者マークは、ログインしてから72時間以内のキャラクターです』
はいはい。
読み終わった後、もう一度掲示板を見たら、さっきとは違う文字が浮かび上がった。
斜め前に立ってるドワーフのローブの中は見えないほうがいいと思います。
『行動するとスタミナが減ります。スタミナは休むと回復します』
初心者用のお得な掲示板なのか、眺める度にランダムでミニ情報を教えてくれるようだ。
いいねこういうの。
ジャキン。
ふいに金属的な音が聞こえた。
それが剣を抜く音だった、と気付いたのはちりっと鋭い痛みを感じて視界が暗転してから。
真っ黒いフィールドで悲しげなBGMが流れる。
やけにはっきり見える左上のHPメーターには赤く光るゼロの数字。
その白黒の世界で真っ二つになったスライムが映し出された。
丸い豆腐を縦に切ったら斜めにずれてやる気のないカンジ、と言えば伝わるだろうか。
動こうにも動けないし視点も変わらない。何も出来ない。
よく見ると真っ黒い背景は少し透けていて、さっきの町並みがうっすらと見える。
いろんなキャラクターが何事もなかったかのように動いている。
もしかして死んだ?
間もなくシステムメッセージが流れる。
『このゲームのコンセプトは自由です。誰もが自由に好きなことをすることができます。
あなたが敵を倒すことが自由であるなら、あなたが誰かに倒されることもまた自由なのです』
言ってる意味はよくわからないが、やっぱやられたのか。
たしかにスライムはフツーの冒険者にとっては敵だ。
ログインした瞬間目の前にいたら反射で攻撃するかもしれない。きっとそうだ。
これは事故だ。気にするな俺。
このゲームはPKもありだから、文句は言えない。
気を取り直したとほぼ同時に視界が開け、目の前にステンドグラスをバックにした大きな十字架があった。
白い服を着たひげのおっさんが有料だが回復するかどうかを尋ねてくる。
死んで生き返るって言ったら教会だよな、なんてひとりで納得しつつ持ち金を確認しようすると、おっさんの方からやんわり拒否された。
最近のゲームは人口知能も侮れないな、なんて思いながら足は出口へと向かっている。
このまま出て大丈夫か?と思ったときには教会の外にいた。
さっきと同じような景色が広がるんだろうと思っていたら、至近距離でドンという音と同時に息が詰まった。
目の前が暗くなる瞬間に、若干煙臭かったので多分撃たれたのだろう。
真っ黒いフィールドで、以下略。
さっきも聞いたよこの音楽。そしてこの映像はあまり見たくないね。
違うのは、豆腐に穴が開いていること。
『このゲームのコンセプトは自由です。数あるスキルの中から、自分だけのスキルを身につけてください。
どのスキルを選ぶかは全くの自由です。組み合わせによって不思議な効果を発揮するスキルがあるかもしれません』
丁寧に説明してくれるシステムさん。
言いたいことは分かるんだが、ろくにゲーム内を散策できないこの境遇を何とかして欲しい。
PKが悪いとは言わないが、初心者マークがついてたら襲えない的なルールがあってもいいんじゃないかと思う。
なんて思ってたら、教会のおっさんが俺の返事待ち状態になっていた。
金は足りないので、回復はいらないと断る。
レベルが高いとどうだか知らないが、スタミナなんざ1分あれば満タンになる。
ここで外に出るとまた殺されそうなので、先にスキルを取ることにした。
とりあえずの目標は生きて街の外に出ることだ。
なんだろう、無駄にやる気出てきたぞ。