坑内で掘り出し物を見つけよう③
お風呂に入り家事を終えて、もちろん夜のお肌ケアも済ませたあたしは買ってきたばかりのHMDを装着する。
ワクワクしながらランダムで選んだキャラクターはモンスターらしかった。
ボーナスポイントは文句なしの128。始める前に調べたデータと比較してもかなり高い方だと思う。
HMDの設定はちょっと面倒だったけど、来客のお茶くみからサーバー機器のメンテナンスまでさせられてるあたしの敵ではない。
というか、庶務課って範囲広すぎるのよね。
この間「庶務」って辞典で調べたけど、種々雑多な事務のこと、だってさ。ふざけんじゃないっての。
大体、営業課のやつらも何であたしに客先のアポ取っといてとか言うかなぁ。お前らの仕事だろ。
というわけで、こう見えて無駄な知識のあるあたし。
モンスターの種族はリッチ。
金持ちなモンスターなら尚良しじゃん?
・・・ゲームの知識も欲しかった。
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坑内をもよもよと【忍び足】を使いながら進む俺。
【察知】の熟練度が上がったのか、初見でも見える敵の名前の部分に、まだ姿も見えない状態から「?」と表示されるようになった。
姿も見えない、というのはこの坑内が曲がりくねっているせいもあるので、見通しのよい直線だとどうなるか分からない。
それでも今の俺には有りがたい能力だ。
アクティブモンスターの反応する範囲もそこそこ分かり、ぎりぎりまで【忍び足】を使い【迷彩】でやり過ごし、時に【全力疾走】で逃げる。
そんなスタイルでじりじりと進める。
もちろん敵が居ないところで、隙を見てスキルや能力の確認もしてますよ。
さて、あと試したいのは、何だったかな。
【合成】は、どうだろう。
今の手持ちを確認すると、糸や革がいくつかある。
経験値と同様、アイテムも分配されていたようだが、ミスリルがないのは何故なんだ。不公平だ。
それはいいとして、二つ以上をどうにかするってことなんだが、ウィンドウ上ではどうにもしようがない。
他のゲームでは合成するときは、アイテムを選んだり、専門店があったり、特定の容器に入れるとかあったんだけどな。
だめだ。まだ分からない。
ということで次。
【吐き出す】はまあいいとして、【消化】と【吸収】がいまいちよく分からない。
まず糸をバッグの外に出す。
それを【食べる】。おいしくない。
で、【消化】する。体内の糸はなんだか白い塊になった。
これ、吐き出したらどうなるんだろ。
ぺっ。
でろんとした、はんぺんみたいなのが出てきた。
乗ってみると、座布団みたいにふかふかする。
どちらかというと綿みたいだ。
こうなるのか。ふーん・・・。
もう一度食べてみる。【消化】はできないらしい。さっきやったしね。
ということは、直接【吸収】が出来るんだろうか?
ごっくん。
出来たね。
そしてやっぱり効果は分からない。
いらないものを捨てるには便利かな?ぐらいだ。
もしや、ステータスに変化が!?
そうは思っても変わりはない。うーん、謎のスキル。
同じノリで革も試してみたが、座布団の代わりにボールみたいな革の塊が出来たくらいで他は変わりがなかった。
別の物質になるという点では面白いが、基本的に、その物質が溶けたものという前提だと、すぐに使い道は浮かばない。
生産に通じている人がいれば、何かしら加工はできるかもしれない。
綿なら人形作れそうだし、鉄がでろんと板みたいになったら、鍛冶師の手間はひとつ減るかもしれない。
とは言ってもただの推測だし、ないものねだりしても仕方ないので、考えるのはやめにした。
いろいろ試行錯誤しながら進んでいくと、あっちの俺の方の画面がだんだんかすんできた。
この辺が限界と考え、引き返すか、あっちを呼び寄せるか悩んだところで画面に赤いレイヤーがかかり点滅しはじめた。
これは【察知】使用時の、ターゲットされた時の合図。
慌ててこっちの俺に意識を集中し、敵を確認・・・はせずに【全力疾走】する。
敵が前にいないなら、後ろにいるしかないだろう。
振り返ってるだけ無駄だ。
と思いきや、前方に「?」マークが出現。
このまま進めば挟まれる。坑内は人がすれ違えるかどうかという狭さのため、攻撃をうまくかわす自信はない。
【迷彩】ではおそらく片方はやり過ごせても片方が無理だ。
相手はゾンビ、もう少しだけ時間に余裕があるが横道は・・・ない。
隠れられそうなものといえば、斜め前方の鉱石っぽいオブジェか、天井の岩とそれを支えているらしき木枠の隅にちょっとした隙間があるくらいで、どちらにしても今のサイズじゃ・・・ん、サイズ?
*****
「あー」
「うー」
「あー」
「うー」
檻のような鉱石オブジェで爪とぎをしているゾンビと、天井に向かってぴょこんぴょこんと跳ねるゾンビ。
どちらも俺を狙っているものだが、残念ながら届かない。
これがもし蜘蛛か蟻だったらアウトだっただろう。
だが蟻も実はノンアクで、こちらが蟻の獣道(?)を邪魔しなければ襲ってこないのは既に分かっている。
【察知】の便利さに気付かなかったら最初の蜘蛛で終わってたと思う。
【察知】万歳。
「あー」
「うー」
問題のこいつらも天井まで手が届かない。
ということは、このまま進めば襲われることはない。
まさに探索だけならスライムでも出来る、ってやつだ。
オブジェに隠れてた俺も、もよもよと岩壁を登る。
保険もかねて、まだ【合体】はせず、このまましばらく進んでみることにした。
あうあう言いながらゾンビが2体着いてくるが、もう少しの辛抱である。多分。
出口、もうすぐだと思うんだけどなぁ・・・。