坑内で掘り出し物を見つけよう①
「オープン二日目でろくな装備がないのニャ。こんなときのアシスタントじゃニャいのか!?」
「二日目でそこまでレベル上げてるのは貴女ぐらいです。規格外です」
「かわいい服が欲しいのニャ。胸あてとパンツの二つで我慢するからお願いなのニャっ!!」
ミケさんは作ってもらうまで離れないといった様子で、如月さんの足にしがみつく。
「やっと見つけた裁縫マスターなのニャ。絶対離さないのニャ」
「如月さん、作ってあげればいいんじゃないですか?」
埒が開かないので、俺からも提案する。
これで二人がどっか行ってくれれば、いろんな検証に時間が割ける。
「貴方がそういうのなら、作らないでもないですが、さすがにタダというわけにはいきませんよ」
「金ならまだあるのニャ」
「そうでしょうね。ですが問題はそこではありません」
「材料がないニャ?」
「その通りです。さすがにまだ流通のインフラが整備されておりませんので自給自足になります」
「分かったニャ!採りに行くのニャ!!」
「よかったですね、ミケさん。じゃ俺はこれで・・・」
ぽよんと跳ねて、俺は上の階へ向かう。
階段を上りながら、マップ上の俺と合流すべく方角を確認しようと思ったのだが、途中で体が動かなくなった。
左上にはステータス異常っぽい雷のマーク。
麻痺ってやつですか?
さっきのなんとかシンってやつですか?
「どこ行くんですか?」
「俺を回収しに」
「装備を作れって言ったのは貴方ですよね。その貴方が一緒に行かないでどうするんですか」
「どうもこうも、俺が行ったところでどうにもならないんじゃ」
「(行くっていうのニャ。一緒に魔法石探してあげるのニャ)」
唐突にミケさんの声が耳元で聞こえた。
ミケさんは階段の下、フロアで俺を見上げていて口元は動いていない。囁き系のチャットのようだ。
「行 き ま す よ ね ?」
「・・・はい」
*****
そうだった。ミケさんの装備の材料採りにきたんだった。
どれが何個必要かは分からないが、糸とか皮とかミスリルとか、そんな感じのモノを片っ端から集めている。
ミケさんはスピード重視なので、布系の装備が欲しいのだそうだ。
格闘系だと軽甲装備がセオリーじゃないかと尋ねてみると、攻撃は全部かわすから防御はいらニャいという返事だった。
「代金あのくらいでよかったのかニャ?」
「ご主人様のご要望ですからね。こちらもいい経験になるので妥当なところでしょう」
「いくらだったんですか?」
「賞金の半分あげたのニャ」
半分てことは武器125本分くらいなのかな?
「如月さんはお金もらって何に使うんです?」
「使い道はありません」
「え、じゃあ」
「ゴミ箱に捨ててきました」
「えええええええ」
「オープンしてから、スポンサーの有料コンテンツにゲーム内通貨が使用可能になったせいでいろいろと面倒になってるんです。
ゲーム内通貨は何かとトレードしないと受け渡すことはできません。かといって持ち歩くには重過ぎます」
交換できるものは何もないけど、捨てるくらいなら欲しかった。
いや、待て。ゴミ箱に入れた時に所有権放棄してるならそのときに拾えばよかったんじゃないのか。
何で教えてくれなかったんだ!
だがもう過ぎたことである。
気を取り直して話を続ける。
「ミスリルは何処に使うんですか?」
「胸当ての部分とおまけに作るミサンガに編みこもうかと」
「みっミサンガとニャっ!?」
「私は細工スキルがないので最大限の譲歩です。文句ありますか!?」
「ないのニャっ!全っ然ないのニャ、感謝するのニャ!シェイシェイなのニャ!!」
ミケさんは、ひゃっほいと坑内を駆け回った。
天井も使ってぐるぐると回る。
ミサンガって俺が小学校のときにやたら流行ってた記憶はあるけど、あれなのか?
確かに編んで作るから、細工ってよりは裁縫だろうけど。
「ミサンガってそんなすごいんですか?」
「すごいのニャ!多分絶対すごいのニャ!!」
分からないのに喜んでるのかよ。
「編みこまれるルーンによって付加効果がつくらしいですよ。そして使いすぎると切れます」
「消耗品ニャのか・・・でもないよりはマシニャ。やっぱりありがとなのニャ」
「ついでに俺の分、とか・・・はすいません。出すぎたことを言いました」
途中でギロリと睨まれたので、語尾が情けないことになった。
「作って差し上げたいのはヤマヤマですが、作りがいがないんですよねぇ・・・」
溜息混じりに、そうしみじみ言われてましても。
「ミケさんなら、通常の装備に加え、ピアスやネックレス、指輪・・・はムリか。ブレスレットやアンクレット、ご希望であれば刺青もできるんですが。
貴方の場合、頭にのせればそれでおしまいですし」
「俺の場合、装備でステータスを上げようっていうのは」
「諦めた方がいいでしょうね」
やっぱりかー。
1/128俺が爆弾持って特攻とか考えなきゃないんだろうか。
想像したら切なくなった。
「石にステータスアップかけて食べとけばいいんじゃないかニャ?」
「そんなこと出来るんですか?」
「やってみればいいニャ」
「ですよねっ。石・・・あった!」
「失敗したらしたで、それも経験ニャ。あ、ちなみに」
ざりりっ
「アイテムインベントリに入らないモノはオブジェだから気をつけるのニャ」
・・・そういうことは早く言って欲しかった。
*****
廃坑の中をひたすら奥へと進んでいく。
道は分かれているが、二人してその道順には迷いがない。
たまに道の分岐点で如月さんが立ち止まり、ミケさんが奥へ行って戻ってくることがある。
いっぱい落ちたのニャ、なんて言ってるから、敵を倒すために横道に逸れているのだろう。
何匹目か分からない敵を倒した後で、キラリと光るものが見えた。
「にょにょっ!いいもん拾ったニャ!!スライムくんにあげるのニャ!!」
「そういえば、貴方の名前聞いてませんでしたね」
「我輩はエロ黒・・・危ないニャ。君の名前も聞いてないニャ」
「私は西地区のアシスタントカフェで働いております、グループ暦のメンバー如月仁です。
近くにいらっしゃった際は指名してもいいですけど、お互いメリットないんでやめてください」
「ええと、シゲル、です。よろしくお願いします」
あたりがしんと静まりかえり、ぴちょん、と水音が聞こえた。
え、なにこの空気。
「本名じゃないんですね」
「偽名使われたニャ。ショックなのニャ・・・」
「いや、そんなつもりは」
「キャラクターの上に名前が出てこないのニャ。何でなのニャ?」
「私達には特別に裏の名前を教えてくれたと、前向きに判断してもよろしいのでしょうか?
でもそれだと親密度、あがりませんよ?」
自分で認めたくないんだよ、この名前。
そして親密度はこれ以上、上がらなくていいと思ってます。
「名前が分からないとフレンドチャット出来ないニャ。教えて欲しいのニャ」
ですよね。ああもう仕方ないか。
「シゲルなんですけど、S入力できてませんでした!これでいいですか!!?」
「ニャんだ。ヒゲルくんだったのか」
「ヒゲルさん、でしたか。これはまた素晴らしいお名前をお持ち、で」
ああもうカメラ動くな。ぐるぐる回ってキラキラレイヤーかけないで!
それと如月さん、地面に土下座して肩震わせてないで!
「また親密度上がったのかニャ?名前で悶えるなんてやっぱエロ眼鏡なのニャ」
やだもう帰りたい・・・。